「慎也。今からドーナツ屋に行くぞ。俺がおごってやる」
「は?」
「行こう。山ちゃんとつっちーも、行くぞ」
陽平がそう言うと、つっちーは、
「え? いいの? じゃあ、おごられる。ごちそうさま。何にしようかな」
いかにも楽しそうに言う。陽平は、「は?」と言って首を傾げると、
「いや。おごるのは、慎也だけだからな。つっちーたちは、自分で払うんだぞ?」
「わ〜。ケチだな、陽平」
「とにかく行くぞ。ほら、山ちゃんも」
山ちゃんが、ハーッと大きく息を吐き出した。陽平の肩をポンと叩くと、
「陽平。少しは反省した方がいいと、俺は思うけど? 親友を怒らせて謝らないって、陽平は何様?」
そうだ、そうだと心の中で同意する。が、陽平は解せないとでも言いたそうな顔で、
「何様? ベタだけど、俺様じゃない? や、ちょっと、真面目に聞くなよ。ふざけただけだから」
この状況でふざけられるのがすごい、と変に感心してしまった。何か、このめちゃくちゃな感じが陽平なんだろうと、理解し始めていた。これが陽平なら、何を言っても意味がないってことだ。忠告しても無駄ってことだ。
「山ちゃん、ありがとう。でも、もういいよ、謝罪されなくても。諦めたから」
俺が低く言うと、陽平が俺の両肩を手で掴み、
「諦めたって何だよ。諦めないでくれよ。俺たち、親友だぞ」
「親友の押し売りだね」
笑わずに言った。
「もういいから、ドーナツ屋に行こう。曲決めが宿題になっちゃったから、四人で相談しよう」
「よし。話し合おう。行くぞ」
陽平は、俺の肩から手を離すと、今度は俺の手を握った。オレは幼児じゃない。引率してもらわなくてもドーナツ屋まで行ける。そう思っているのに、何故だか陽平の手を振り払うことが出来なかった。身勝手な行動ばっかりの、自称・俺様な奴なのに。
「慎也とドーナツ食べられるの、すごく嬉しいぞ。慎也も嬉しいよな?」
どうしてそんなに自信を持って言えるんだろう。不思議な人だ。
階段を下りて、昇降口まで来た。初めて話した時を思い出した。靴箱の位置、間違えるか? やっぱり、あり得ないと思う。でも、そのおかげで今、俺たちは友達なんだ。何が幸いするか、わからないものだ。と言うか、これは幸いなのか? わからなくなってきた。
先を歩いていた陽平が、靴箱の蓋を開けた。俺は陽平に近付くと、
「わざとか?」
「わざと? 何が?」
またヘラヘラしている。せっかく落ち着き始めていた感情が、簡単に怒りの方に向いてしまった。
「わざとじゃなかったら、何だよ。人の靴箱の蓋、開けるなよ!」
あの時は、本当に間違ったのかもしれないから仕方ない。でも、これは絶対わざとだ。
「あれ? 俺、また間違えた? ごめんごめん」
やっぱり誠意は感じられない。つっちーは、
「絶対わざとだと思わない?」
山ちゃんは深く頷き、
「わざとだな」
「だよね?」
二人で頷き合っていた。
「陽平の靴箱は、一段上」
教えてやる俺も、どうかしている。陽平は、やはりヘラヘラしながら、
「そうだったな」
自分の靴箱の蓋を開けて、靴を取り出した。
「慎也も早く靴をはけよ。ドーナツが待ってるぞ」
別に、ドーナツは俺たちを待っていないと思う。が、俺も靴を取り出して、急いではいた。
四人横並びで駅の方に向かった。その道中は、何だか静まり返っていた。さすがに反省しているのかと陽平を横目で見ると、項垂れていて、
「お腹空いたな〜」
小さな声で言ったのが耳に入った。それで静かだったのか、と思ったら、吹き出してしまった。陽平が俺の方に顔を向け、
「どうした、慎也」
「ごめん。面白くて、つい……」
「面白い? ま、慎也の笑いに貢献出来たなら、いいか」
それからドーナツ屋までは、シーンとしていた。山ちゃんとつっちーも、空腹なのかもしれない。俺は、本当のことを言うと、そんな気分ではないんだけど。
ドーナツ屋に着いて、席を確保。順番に買いに行って、みんな揃ってから食べ始めた。今日は、フレンチクルーラーの気分で、それを買った。代金は、本当に陽平が払ってくれた。飲み物を口にした後、陽平は、
「それで、何の曲がいい?」
俺たちに視線を巡らした。俺たちは、「うーん」と、うなりながら考えた。でも、そんなに簡単には浮かんでこない。
と、その時、店内に流れている曲が耳に入った。大震災があった時に流行った曲だと聞いたことがある。タイトルは何だっけ、と思っていたら、ちょうどサビのところに来た。そうだ。そういうタイトルだった。
オレは、ドーナツをお皿に置くと、少し大きめの声で、
「この曲!」
「どの曲?」
つっちーが訊いてくれる。俺は天井を指差しながら、
「この曲」
「今、流れてる曲? この曲、いいよね?」
笑顔のつっちーが、メロディーをハミングする。歌詞も心に染みてくるし、よさそうな気がする。俺は山ちゃんと陽平を見て、
「どう思う?」
さっきまでの怒りは、どこかに消えてしまい、この曲を推すことに夢中になっていた。
二人は顔を見合わせて頷くと、オレに視線を向けて、「いいんじゃない?」と、同意してくれた。
「は?」
「行こう。山ちゃんとつっちーも、行くぞ」
陽平がそう言うと、つっちーは、
「え? いいの? じゃあ、おごられる。ごちそうさま。何にしようかな」
いかにも楽しそうに言う。陽平は、「は?」と言って首を傾げると、
「いや。おごるのは、慎也だけだからな。つっちーたちは、自分で払うんだぞ?」
「わ〜。ケチだな、陽平」
「とにかく行くぞ。ほら、山ちゃんも」
山ちゃんが、ハーッと大きく息を吐き出した。陽平の肩をポンと叩くと、
「陽平。少しは反省した方がいいと、俺は思うけど? 親友を怒らせて謝らないって、陽平は何様?」
そうだ、そうだと心の中で同意する。が、陽平は解せないとでも言いたそうな顔で、
「何様? ベタだけど、俺様じゃない? や、ちょっと、真面目に聞くなよ。ふざけただけだから」
この状況でふざけられるのがすごい、と変に感心してしまった。何か、このめちゃくちゃな感じが陽平なんだろうと、理解し始めていた。これが陽平なら、何を言っても意味がないってことだ。忠告しても無駄ってことだ。
「山ちゃん、ありがとう。でも、もういいよ、謝罪されなくても。諦めたから」
俺が低く言うと、陽平が俺の両肩を手で掴み、
「諦めたって何だよ。諦めないでくれよ。俺たち、親友だぞ」
「親友の押し売りだね」
笑わずに言った。
「もういいから、ドーナツ屋に行こう。曲決めが宿題になっちゃったから、四人で相談しよう」
「よし。話し合おう。行くぞ」
陽平は、俺の肩から手を離すと、今度は俺の手を握った。オレは幼児じゃない。引率してもらわなくてもドーナツ屋まで行ける。そう思っているのに、何故だか陽平の手を振り払うことが出来なかった。身勝手な行動ばっかりの、自称・俺様な奴なのに。
「慎也とドーナツ食べられるの、すごく嬉しいぞ。慎也も嬉しいよな?」
どうしてそんなに自信を持って言えるんだろう。不思議な人だ。
階段を下りて、昇降口まで来た。初めて話した時を思い出した。靴箱の位置、間違えるか? やっぱり、あり得ないと思う。でも、そのおかげで今、俺たちは友達なんだ。何が幸いするか、わからないものだ。と言うか、これは幸いなのか? わからなくなってきた。
先を歩いていた陽平が、靴箱の蓋を開けた。俺は陽平に近付くと、
「わざとか?」
「わざと? 何が?」
またヘラヘラしている。せっかく落ち着き始めていた感情が、簡単に怒りの方に向いてしまった。
「わざとじゃなかったら、何だよ。人の靴箱の蓋、開けるなよ!」
あの時は、本当に間違ったのかもしれないから仕方ない。でも、これは絶対わざとだ。
「あれ? 俺、また間違えた? ごめんごめん」
やっぱり誠意は感じられない。つっちーは、
「絶対わざとだと思わない?」
山ちゃんは深く頷き、
「わざとだな」
「だよね?」
二人で頷き合っていた。
「陽平の靴箱は、一段上」
教えてやる俺も、どうかしている。陽平は、やはりヘラヘラしながら、
「そうだったな」
自分の靴箱の蓋を開けて、靴を取り出した。
「慎也も早く靴をはけよ。ドーナツが待ってるぞ」
別に、ドーナツは俺たちを待っていないと思う。が、俺も靴を取り出して、急いではいた。
四人横並びで駅の方に向かった。その道中は、何だか静まり返っていた。さすがに反省しているのかと陽平を横目で見ると、項垂れていて、
「お腹空いたな〜」
小さな声で言ったのが耳に入った。それで静かだったのか、と思ったら、吹き出してしまった。陽平が俺の方に顔を向け、
「どうした、慎也」
「ごめん。面白くて、つい……」
「面白い? ま、慎也の笑いに貢献出来たなら、いいか」
それからドーナツ屋までは、シーンとしていた。山ちゃんとつっちーも、空腹なのかもしれない。俺は、本当のことを言うと、そんな気分ではないんだけど。
ドーナツ屋に着いて、席を確保。順番に買いに行って、みんな揃ってから食べ始めた。今日は、フレンチクルーラーの気分で、それを買った。代金は、本当に陽平が払ってくれた。飲み物を口にした後、陽平は、
「それで、何の曲がいい?」
俺たちに視線を巡らした。俺たちは、「うーん」と、うなりながら考えた。でも、そんなに簡単には浮かんでこない。
と、その時、店内に流れている曲が耳に入った。大震災があった時に流行った曲だと聞いたことがある。タイトルは何だっけ、と思っていたら、ちょうどサビのところに来た。そうだ。そういうタイトルだった。
オレは、ドーナツをお皿に置くと、少し大きめの声で、
「この曲!」
「どの曲?」
つっちーが訊いてくれる。俺は天井を指差しながら、
「この曲」
「今、流れてる曲? この曲、いいよね?」
笑顔のつっちーが、メロディーをハミングする。歌詞も心に染みてくるし、よさそうな気がする。俺は山ちゃんと陽平を見て、
「どう思う?」
さっきまでの怒りは、どこかに消えてしまい、この曲を推すことに夢中になっていた。
二人は顔を見合わせて頷くと、オレに視線を向けて、「いいんじゃない?」と、同意してくれた。


