階段を下りながら、何度目かの溜息を吐いた。今日もまた上手くいかなかった。今日こそは、と思っていたのに。
何でクラスのみんなは、楽しそうなんだろう? 高校に入学してから、たったの一週間なのに。
いや、そうじゃなかった。俺は入学式の日、すでに遅れをとっていたんだ。
担任の話が終わって解散になった途端、教室は賑やかになった。すでに仲良しグループみたいなのが出来ていて、お昼ご飯を一緒に食べに行く相談をしているのが聞こえていた。
声のする方へ視線を向けて、誰か声を掛けてくれないかなと期待したけど、それは叶わなかった。楽しげな声を背中で聞きながら、俺は一人帰路に着いた。
今日だって同じだ。今度こそ、と頑張ろうとしたのに、結局は昨日までの自分と何も変わらなかった。
そばにいるクラスメイトに、笑顔で話し掛けて友達になろう。そんな計画を心の中でしていた。今までと違う自分になって、楽しく生きていこう。そう思っていたのに。
階段を下りきって、昇降口で靴箱の蓋を開けて、固まった。
「え……」
何故、上ばきがここに入っているんだろう。俺は、自分の足にはいているぞ?
蓋を閉じて、名前を確認してみたが、『中野慎也』と書いてある。俺は間違っていない。
中に入れられている上ばきをじっと見た。踵のところに名前が書いてあった。
「安達?」
……は、一段上だろ? 昇降口の出口に目をやると、張本人が正に今、出ていこうとしていた。俺は息を大きく吸い、
「安達!」
呼び掛けると安達は振り向き、「呼んだ?」と、ヘラヘラしながら言った。
「靴、間違ってるから。返してよ」
人見知りな俺が、何だか普通に安達に話し掛けてる。俺が指摘すると、安達は自分の足元を見て、
「靴? え? これ、中野の? 何か少しきついとは思ったんだけどさ。なんだ。間違ってたのか。今、返すよ」
相変わらず、ヘラヘラしたまま俺の前まで来ると、靴を脱いでスノコに上がった。
「ごめんね。時々さ、やっちゃうんだよね、俺」
「時々って……」
「だから、ごめんって」
そう言いながら、自分の靴箱から靴を取り出し、
「ほら。同じメーカーだろ? だから間違ったんだな」
「いや。間違えたのは、場所だから。安達は、一段上。わかった?」
「了解」
敬礼しながら、ふざけた感じで言った。
「靴を取り違えるとか、あり得ないんだけど」
俺の言葉に安達は首を傾げて、
「あり得ない? いや。あり得るって。現に、俺が間違ったろ? 普通にあり得るから」
「ない。普通は、ない。あり得ない」
「そうか? ま、いいじゃん。許して?」
小首を傾げながら、笑顔で言う。怒ってる自分が、バカみたいに思えてくる。
「ね? 中野くん。許してくれるよね?」
「……わかったよ」
わかるなよ、俺。明らかに安達が間違ってるし、おかしいだろ?
それにしても、安達はマイペースだ、と感心してしまう。全然、気にしない性格なのかも。それはちょっと羨ましい。
「中野。この後、暇? 一緒にドーナツ食べようよ」
「ドーナツ?」
「駅前にドーナツ屋があるだろ?」
「いや、そうじゃなくって……」
入学式の日は、期待しても叶わなかったことが、あっさり叶いそうな雰囲気だ。安達が友人一号か? 二号が出来る予定は、全くないけど。
「えっと……」
人から誘われることに慣れてないから、ためらう。でも、行ってみたい。でも……。
「じゃ、中野。行こう」
俺の背中をバンと叩いて、安達は歩き出した。俺より十センチくらい背が高くて、足も長い。つまり、歩幅が広い。
行こうと言ってくれたのに、自分だけサッサと歩いて行ってしまう。俺は安達の背中に、
「ちょっと待て」
叫ぶように言うと、安達は立ち止まった。俺は安達のそばまで走っていくと、
「い……行こう」
誘い慣れていない俺は、声が揺れた。安達はニカッと笑うと、
「やった。中野とデートだ」
「デート? 違うし。安達、何言ってるんだよ」
この人と話すことに、だいぶ慣れてきた。体に入っていた変な力が、いい感じに抜けてきた。
「中野。ドーナツ、どんなのが好き?」
「どんなって……」
そんなこと訊かれても、即答出来ない。目の前に商品があれば、これって言えるけど。
「俺はね、チョコレート系が好きだな。ドーナツ屋に行くと、必ず選んでる」
「そうなんだ」
チョコは嫌いって言うのかと思った。甘いのが好きなんだな。
そうやって話している内に、駅前まで来た。ドーナツ屋に入っていくと、「安達〜」と声が掛かった。安達と俺は、声のした方に顔を向けた。そこには、クラスメイトが二人、テーブル席に座って手を振っていた。
何でクラスのみんなは、楽しそうなんだろう? 高校に入学してから、たったの一週間なのに。
いや、そうじゃなかった。俺は入学式の日、すでに遅れをとっていたんだ。
担任の話が終わって解散になった途端、教室は賑やかになった。すでに仲良しグループみたいなのが出来ていて、お昼ご飯を一緒に食べに行く相談をしているのが聞こえていた。
声のする方へ視線を向けて、誰か声を掛けてくれないかなと期待したけど、それは叶わなかった。楽しげな声を背中で聞きながら、俺は一人帰路に着いた。
今日だって同じだ。今度こそ、と頑張ろうとしたのに、結局は昨日までの自分と何も変わらなかった。
そばにいるクラスメイトに、笑顔で話し掛けて友達になろう。そんな計画を心の中でしていた。今までと違う自分になって、楽しく生きていこう。そう思っていたのに。
階段を下りきって、昇降口で靴箱の蓋を開けて、固まった。
「え……」
何故、上ばきがここに入っているんだろう。俺は、自分の足にはいているぞ?
蓋を閉じて、名前を確認してみたが、『中野慎也』と書いてある。俺は間違っていない。
中に入れられている上ばきをじっと見た。踵のところに名前が書いてあった。
「安達?」
……は、一段上だろ? 昇降口の出口に目をやると、張本人が正に今、出ていこうとしていた。俺は息を大きく吸い、
「安達!」
呼び掛けると安達は振り向き、「呼んだ?」と、ヘラヘラしながら言った。
「靴、間違ってるから。返してよ」
人見知りな俺が、何だか普通に安達に話し掛けてる。俺が指摘すると、安達は自分の足元を見て、
「靴? え? これ、中野の? 何か少しきついとは思ったんだけどさ。なんだ。間違ってたのか。今、返すよ」
相変わらず、ヘラヘラしたまま俺の前まで来ると、靴を脱いでスノコに上がった。
「ごめんね。時々さ、やっちゃうんだよね、俺」
「時々って……」
「だから、ごめんって」
そう言いながら、自分の靴箱から靴を取り出し、
「ほら。同じメーカーだろ? だから間違ったんだな」
「いや。間違えたのは、場所だから。安達は、一段上。わかった?」
「了解」
敬礼しながら、ふざけた感じで言った。
「靴を取り違えるとか、あり得ないんだけど」
俺の言葉に安達は首を傾げて、
「あり得ない? いや。あり得るって。現に、俺が間違ったろ? 普通にあり得るから」
「ない。普通は、ない。あり得ない」
「そうか? ま、いいじゃん。許して?」
小首を傾げながら、笑顔で言う。怒ってる自分が、バカみたいに思えてくる。
「ね? 中野くん。許してくれるよね?」
「……わかったよ」
わかるなよ、俺。明らかに安達が間違ってるし、おかしいだろ?
それにしても、安達はマイペースだ、と感心してしまう。全然、気にしない性格なのかも。それはちょっと羨ましい。
「中野。この後、暇? 一緒にドーナツ食べようよ」
「ドーナツ?」
「駅前にドーナツ屋があるだろ?」
「いや、そうじゃなくって……」
入学式の日は、期待しても叶わなかったことが、あっさり叶いそうな雰囲気だ。安達が友人一号か? 二号が出来る予定は、全くないけど。
「えっと……」
人から誘われることに慣れてないから、ためらう。でも、行ってみたい。でも……。
「じゃ、中野。行こう」
俺の背中をバンと叩いて、安達は歩き出した。俺より十センチくらい背が高くて、足も長い。つまり、歩幅が広い。
行こうと言ってくれたのに、自分だけサッサと歩いて行ってしまう。俺は安達の背中に、
「ちょっと待て」
叫ぶように言うと、安達は立ち止まった。俺は安達のそばまで走っていくと、
「い……行こう」
誘い慣れていない俺は、声が揺れた。安達はニカッと笑うと、
「やった。中野とデートだ」
「デート? 違うし。安達、何言ってるんだよ」
この人と話すことに、だいぶ慣れてきた。体に入っていた変な力が、いい感じに抜けてきた。
「中野。ドーナツ、どんなのが好き?」
「どんなって……」
そんなこと訊かれても、即答出来ない。目の前に商品があれば、これって言えるけど。
「俺はね、チョコレート系が好きだな。ドーナツ屋に行くと、必ず選んでる」
「そうなんだ」
チョコは嫌いって言うのかと思った。甘いのが好きなんだな。
そうやって話している内に、駅前まで来た。ドーナツ屋に入っていくと、「安達〜」と声が掛かった。安達と俺は、声のした方に顔を向けた。そこには、クラスメイトが二人、テーブル席に座って手を振っていた。


