胡蝶別曲 (나비별곡) : 乱れ蝶の詩 (みだれちょうのうた)

Scene 11_02.

唐突に、始緣の怒声が降り注いだ。

始緣 : ああもう!! もどかしい!! わかるように話せよ!! つーかさあ!

腕組みを解きながら、さっぱりわからない話ばかりが行き交う二人を睨みつけた。もどかしさに耐えかねた始緣の難詰に、所姬が顔をしかめた。

始緣 : やってることが違うだけで、なんで二人とも、自分だけが世界の重荷全部背負ってるみたいに振る舞うわけ??

連曦 : え?

始緣 : もどかしくて死にそう。片方は泣き言ばっかで忙しくて、もう片方は泣き言言わないふりして口閉ざして生きてて。ああもう!! おい! 学のある女は皆こうなのかよ?? 自分たちだけでわかるように喋りながら世の中の重荷を全部担いだ女みたいに振る舞って??

所姬が始緣の叱責に、しかめていた顔を解き、むしろ軽く笑みを含んだ。腕を組んだまま、椅子に凭れるように深く腰を沈めた。

所姬 : またジラルだよ、あいつ。

始緣 : あたしはあんたらの言ってること一つもわかんないんだから、もうちょい簡単に話せ。じゃなきゃあたし降りるぞ。??

腕を組んだまま、腰を屈めて食卓に身を傾けるように座った所姬が、喉を整えるように空咳を横へ飛ばしては始緣をじっと見ながら落ち着いて説明を続けた。

所姬 : あたしと所長。鏡だってのはわかるでしょ?

始緣 : ああ。双子じゃないなら。鏡だかなんだかってやつだろ。

所姬 : あんたとあたしのオンニも鏡だってのもわかってるだろうし。

始緣 : 今日声聞いてみたらそっくりだったな確かに。

所姬 : 鍵は、傳令(デンレイ)という存在を受け入れられる生きた人間のこと。傳令は絶対的な死そのもの。あんたが最初に死んだ時、검은 물(黑水:コムンムル)の上で目を覚ましたでしょ?

始緣 : だいたいそんな感じだったと思うけど。

所姬 : あそこの親玉だと思えばわかりやすい。あたしたちがジョスンって呼ぶ——あそこの親玉。でも、その親玉が、ことあるごとに一定の周期でこの世へ渡ってこようとする。この世と別の世があるのは、あんたも直接経験して知ってるだろうし。

始緣が唇を尖らせながら頷いた。

所姬 : 傳令は、鍵っていう人間の身体に宿れる周期が別にある。その周期が来る前にあたしたちは鍵を見つけて消し、傳令が宿る身体が存在しないように防ぐのが主な役割だった。逆に傳令は、自分が入る鍵とほぼ同じ人間を作り出す。あたしたちが騙されることを期待して。それが鏡。あんたと知暎オンニがその関係。さあ。考えてみなよ。저승(冥土:ジョスン)が이승(現世:イスン)に渡ってきたらどうなると思う?

始緣 : 死んだもの全部がこっちに来るってこと? あたしみたいに?

所姬 : それとは違う。いや、似てるかもしれないけど比べものにならないくらい悍ましいだろうね。生が存在しなくなるんだから。「生まれること」自体が消えたら、世界には死だけが存在することになる。

始緣が所姬の説明を聞きながらしばし顔をしかめた。

始緣 : でもさ、あたしがこの前聞いたのは。

所姬 : そう。門を開ける。互いに混ざり合うように。冥土が現世へ氾濫するように。

始緣がさらに首を傾げた。

所姬 : 歪んだ循環が引き起こす氾濫は存在しないんだよ。

始緣 : それなんだよ?

所姬 : 実は、まだあたしも方法はわからない。理由もわからない。でも、あたしの目にあたしたちみんなの道が見える。世界はひっくり返らない。死が氾濫することもできない。簡単に言うと、あたしたちがどんなに門を開いてジラルしても冥土が現世に渡ってくることはないってこと。だから、今回門を開いてそのすべてを悟ったら、今あんたがやってる無駄な殺しみたいなのがなくなるはず。必要のないことだから。

始緣がしばし難しい話を頭の中で懸命に整理していた。適当に自分なりの解釈を終えた後、納得できる話だとでもいうように、遅れて頷いた始緣が頷きを返した。聞き続けるという始緣の意に合わせ、所姬が長い話を続けた。

所姬 : あたしがたった一度。最後に知暎オンニの終わりを見届けられた時があった。今は知暎オンニの道が死で覆い隠されてるけど、知暎オンニが本当にひどく傷ついたことがある。

所姬がしばし連曦の様子を窺った。しかし連曦は何も気づいていない様子であった。所姬がそのまま話を続けた。

所姬 : ちゃんと傳令を宿す前、最後に知暎オンニの道の果てを確かめたの。あの時、幸せなみんなが見えた。現世の姿と共に。子供たちも。新しい命がそのまま死にまで繋がっていく。だからわかった。冥土は現世に渡ってくることができない。その理由を最後まで見届けるべきだったけど、まだ、あたしの道を見る目が明るくなかったのが問題だった。

始緣と連曦が重い沈黙で所姬の言葉を最後まで聞いた。

所姬 : まあ。信じられないなら。あたしや知暎オンニが危険な存在だと思うなら——

所姬が淡々と顎で始緣の腰元を指し示した。

所姬 : あんたがあたしを殺せばいい。いつでも。この事を起こした案內者がいなくなれば、誰も最後まで成し遂げられないから。

始緣が鼻で笑い、所姬の忠告を聞く素振りすら見せなかった。しかし所姬は止まらず連曦にまで目を向けた。

所姬 : 所長も同じです。いつでも私たちを見捨ててくださって構いません。

連曦もわざわざ所姬の言葉に耳を傾けなかった。

連曦 : 続けてお聞きします。

所姬 : とにかく、そういう確信があって動き始めたんだよ。あたしたちはすでに知暎オンニが鍵だってわかってる。そんな知暎オンニを見つけ出すと言って他の鍵候補を殺したら、罪のない人たちが死ぬことになるじゃん。そうさせちゃいけないから、あたしたちが防ごうとしてるの。殺したように、死んだように偽装しながら。

始緣 : 朝みたいにやればいいんだろ?

所姬 : 言った通りうまくいくって前提の下で。まあ、そうだね。

始緣 : うまくいかない時もあるってことか。

所姬 : とにかく、三つの欠片に分かれた冥土の親玉を現世に呼び寄せるのがあたしたちの目的で。それを阻もうとしてるのがまあ色々あるけど、その中で一番問題になるのが、使節が作り出した八つの使節團(シセツダン)。

始緣 : あたしの中にあるっていうあの寄生虫が、使節だかなんだかっていうあれだろ? じゃあ八つの使節團って何?

所姬 : 死の形質。あるいは死の種類。中には死の原因もある。團では'泣者(ウヌンジャ)'って呼んでるみたい。最初の使節團、형벌(刑罰:ヒョンボル)を始まりに、자책(自責:ジャチェク)、부정(否定:ブジョン)、부패(腐敗:ブペ)、역류(逆流:ヨンニュ)、침식(浸蝕:チムシク)、화마(火魔:ファマ)、수몰(水沒:スモル)。こうやって八つの死を担当してる。元は六十四の使節團があるけど、該当する死がひっくり返るまでは八つの使節團だけが存在する。刑罰を除いた残りのすべての使節團は、あんたが宿した使節が作ったもの。

始緣 : 泣者?

所姬 : あんたも経験したじゃん。

苦しみながら目もろくに開けられなかった少し前の出来事が始緣の脳裏に浮かんだ。

始緣 : あ。だから泣者。

所姬 : 作った理由はまあ、死を効率的に管理するためだったんだろうね。生の果てで삼도천(三途川:サムドチョン)に辿り着いた命は、現世を恋しがってしきりに冥土を抜け出そうとするんだって。それを管理する存在が必要だったはず。まあ、ただの、パシリ程度に理解すればわかりやすいと思う。刑罰を除いて。

始緣 : 刑罰? あれなんで寄生虫が作ったんじゃないの?

所姬 : 刑罰はすべてが覆い隠されてる。正確に知られた存在じゃないから、最大の脅威でもある。あたしもあれこれ調べてはいるけど、まだ團に所属してるわけじゃないから文書みたいなのを調べるのも難しいし。あたしも詳しいことはまだわからない。まあとにかく。鏡の目的は備えなの。傳令が胎動して鍵に定めた人間が死んだ場合、移れるように同じ姿を持った人間をもう一人作っておく。備えみたいなもの。見当違いの相手を殺してくれたらなお好都合だから。あんたは知暎オンニの鏡だった。だから死を容易く宿すこともできた。もちろん、それがすべてじゃないと思ってる人もいるみたいだけど。あたしにはまだよくわからない。そこまでは。

始緣 : でもさ、全部いいとしよう。じゃあ、こういうのは誰が決めたんだよ? クソくだらねえ。

所姬 : 循環って呼ばれてる歪んだ呪い?みたいなもの。誰が決めてるってわけじゃないし。まあ、決めるとしたら傳令が決めてるんだろうね。でも確かじゃない。だから呪いなの。

始緣 : うーん。まあ、運命みたいなもんか?

所姬 : ちょっと違うけど、そう理解してもいいかな。

しばし始緣と所姬の対話を聞いていた連曦が沈黙を破り、所姬へ問いを投げた。

連曦 : 私が宿すことになるという、残りの欠片の正体は何なのですか。

所姬 : 考えてみれば、すごく単純なことなんです。鍵は冥土の門を開くもの。なら、氾濫した冥土の水が行く先はどこでしょう。

連曦 : 現世でしょうか。

所姬 : ええ。現世の門。所長は、私のオンニや始緣のように死を宿すのではなく、死と向き合うことになります。

始緣 : じゃあさ、その傳令だかなんだかは、なんでこっちに這い出て来ようとジラルしてんだよ? なんで門を開かなきゃいけないわけ?

所姬の言葉が終わるや否や飛んできた始緣の問いに、所姬がしばし言葉を止めた。