胡蝶別曲 (나비별곡) : 乱れ蝶の詩 (みだれちょうのうた)

Scene 15.

朝のうちに迎え酒に来た人々が早くから長蛇の列だった。有名な店らしく、始緣と所姬が注文していたクッパを受け取る間にも客が列をなして入ってきていた。始緣がスプーンと箸を取り出し、電話中だった所姬の前に置いた。

知暎(知暎:ジヨン) : どこよこんなにうるさいの。

所姬 : 始緣と朝ご飯食べに来たの。

知暎 : 趙所姬が朝ご飯を食べるって??

所姬 : いや、始緣のお腹がぐるぐる鳴ってたんだよね。

始緣 : おい!!

始緣の軽い叫びが周囲の注目を集めた。所姬がむしろ恥ずかしそうに頭を下げながら電話を続けた。

所姬 : とにかく、オンニ。今日敎務所長に電話するの、忘れてないよね?

知暎 : だから私も少し早めに出たの。着いてから電話すれば部長の野郎がジラルはできないだろうから。

所姬が口の端を上げた。折しも注文していた土鍋が二つ、所姬と始緣の座るテーブルに置かれた。

所姬 : とにかく、私クッパ来た。水曜日に公園行ってからここで夕飯食べよう。ここほんとにめちゃくちゃ美味いんだって。センジと韓牛のジャンター・クッパ。始緣が強硬に主張してちょっと遠くまで来たけど、なかなかそれっぽいね。

知暎 : そうね。韓牛クッパは拒めない。早く食べなさい。冷める前に。

所姬が知暎の挨拶を最後に電話を置いた。始緣が不満いっぱいの表情で所姬を睨んでいた。

始緣 : なんでそこまで言うのよ。

所姬 : 恥ずかしい?

始緣 : あの子はそうじゃないの? あんたの姉さん。

所姬 : ううん。あんたとそっくり。お腹空いたら容赦なくぐるぐる鳴る。だから余計おかしくて起きたんだし。

所姬が熱いスープを一匙すくって食べた。熱い土鍋で煮えていたジャンター・クッパに、所姬がおのずと顔をしかめながら感嘆を漏らした。

所姬 : めちゃくちゃ美味い。


Scene 16.

惟碩(惟碩:ユイセキ)の執務室を出た後、それぞれ懐に卷子を抱えて出てきた正賢(正賢:ジョンヒョン)と伊仙(伊仙:イソン)。共に廊下を歩いていた二人が分かれ道で立ち止まり、互いに挨拶を交わした。それぞれの道へ向かおうとした時、何かを思い出した正賢が伊仙を呼び止めた。足を止めた伊仙の方へ歩み寄った。

正賢 : 精武館長。

伊仙 : はい。どうぞ。

正賢 : 鍵が死んだ後、我々の方で死の痕跡を消しはいたしますが、玄敎が本当に襲いかかってくるとお思いですか。

伊仙 : だからこそ精武館で補佐せよという指示を出されたのではないでしょうか。そういう細かいことはよくわかりません。衝突があるなら、立ち向かうのがすべてですから。

正賢 : にしては、内部の規律を優先的に管轄する教正館に指示を出されたことが、どうにも引っかかります。

伊仙 : 今は内実よりも外実を重んじるべきだとお考えになったのかもしれません。私はただ、教正館の者たちが安定して記憶に触れる時間を稼いでやるだけです。それに、今回は我々が出向いて殺しを行う必要はなさそうですから、多くの人員も要らないでしょうし。

何も知らぬまま気楽に語る伊仙の冷徹さがどうにも癪に障る正賢だったが、表には出せなかった。まずは今現在己が置かれた怪しい立場と共に、少し前からよそよそしくなった美延(美延:ミヨン)との関係の間に割り込んだ離間の策から片付けなければならない局面だった。役に立たない伊仙の判断を後に退けたまま、互いに挨拶を交わした正賢が急ぎ足で歩を進めた。正賢が木で造られた廊下に沿ってどこかにたどり着いた時、そこで正賢を待ち受けていたのは、美延の憤りに満ちた姿だった。

美延 : 嬉しい? 寵愛でも受けたから。

正賢 : お前がそういう出方をするだろうと思ったよ。

正賢がいきなり手に持った卷子を美延に差し出した。美延が卷子を受け取りもせず、正賢の目をじっと睨みつけた。

美延 : どうせ。あんたの血じゃなきゃ見えもしない書類でしょ。で、どうしろっていうの。

正賢 : 一緒に行け。一緒に行って、私が開いてやるから隣で見てればいい。

正賢の上がった声に、美延がむしろ嘲るように正賢を詰った。

美延 : くだらない。どこにジラルよ。何も覚えてないくせに。

正賢 : 何を覚えるんだよこのシバル女。私にはお前が何でジラルしてるのかもわからないから、何者かのつもりで安っぽく振る舞うな。

美延 : うん。そうだと思って、あんたの声ぜんぶ録音しておいたから。覚えてないっていうあんたが最初から仕組んだことなんだし。私は何の問題もないわよね。

正賢 : じゃあ何、引き分けってこと? これは私が一人で片付けていいってこと? ちょうどいいわ。一人じゃクソみたいだからもう一人つけなきゃと思ってたけど。あんたがこのザマなら永敏オンニでも呼ぶわ。

駄々をこねるガキを構っている余裕など一切ないとばかりに、正賢は美延を無視してその場を離れた。


Scene 17.

連曦(連曦:ヨンヒ)が執務室で落ち着いて座り、書類を整理していた。かかってきた電話に連曦が黙って番号を確かめた。見知らぬ番号だった。しばし迷った連曦が電話に出た。

連曦 : はい。都連曦です。

知暎(知暎:ジヨン) : 話したいことが。たくさんあると聞きました。

連曦が動揺した色を隠しきれなかった。電話の向こうの声は連曦の頭に強く残っていたあの声だった。連曦が閉じた扉を確かめた後、フィンモレを散らし、音すらもしばし塞いだ。

連曦 : まず、感謝申し上げます。心より感謝申し上げます。

知暎 : 申し上げた通り、私は返しているところです。これからもそうしますし。

知暎の芯のある声に、連曦はどうしても口から離れない問いを伝えようとした。それが許されるのか幾重にも迷ったが、見過ごせるものではなかった。しばし続いた沈黙を断った連曦が、ゆっくりとした声で切り出した。

連曦 : 申し訳ございませんが、私は恩人に対してお尋ねすべきでない問いをお尋ねせざるを得ません。

知暎は連曦の問いが何かを察している様子だった。しばし問いを受ける前に、知暎は自分が受けた恩から話した。連曦が知暎にいかなる問いを向けても構わないという意を込めて、連曦への恩にまず感謝を伝えようとした。

知暎 : もう、五年になりますよね? 連曦さんが私を病院に連れていってくれてから。

連曦 : おぼろげではありますが、はい。

知暎 : あの時なんです。あの時、サムドチョンの向こうへ渡ってしまった私を、傳令が直接引き戻してきたから。お母さんが本当に苦しんだんです。私は、連曦さんがいなかったら、葬送谷にいたでしょうね。

連曦 : 誠に申し訳ないのですが、申し上げた通り、私はその記憶がおぼろげです。もしや、私の認知を預けて留めおいたのではないかと思うほどに。

連曦のもどかしい胸中に、知暎は答えなかった。こだまのように返ってくる知暎の沈黙に、連曦が薄い溜息をつき、再び言葉を継いだ。

連曦 : これから、どうなるのか、ご存じですか。

知暎 : 誤った循環を壊します。そのために、お母さんも私も。そして所姬も連曦さんも、その他のすべてが、今の汚辱に耐えているのだから。

連曦 : 私は、知暎さんにお仕えすることはできますか。

知暎 : 来ないでほしいんです。ただ、今のようにうちのお母さんを、連曦さんが支えてくれたらいいんです。でも、そういう日も長くはないでしょうね。私が連曦さんを嫌っているわけじゃない。うちのお母さんが私と長く一緒にいてほしいと思っただけなの。誤解しないでほしいんです。

連曦 : はい。

知暎 : いつも気をつけて。いつも。私が借りを返す状況がこれ以上なければいいけど、そうでないなら、私はいつでも連曦さんを助けます。

連曦 : 実際に、知暎さんにお目にかかる方法はないでしょうか。差し支えない場で。

知暎が言葉を継がなかった。続いた思案を手短に終えた知暎が、重く口を開いた。

知暎 : じきに会えるでしょう。遠くないうちに。

連曦 : この番号、知暎さんの番号ですか。

知暎 : はい。

連曦 : ご連絡、差し上げてもよろしいですか。

知暎 : 連曦さん。

連曦 : はい。

知暎 : 私が連曦さんの後ろで、連曦さんを助ける機会をください。いつかは共に寄り合える日が来るでしょうから。それまでは、うちのお母さん。よろしく頼みます。私も今日勇気を出して電話したんですよ。これ以上長引いたら、連曦さんが火病になるって言うものだから。私は、静かに連曦さんにお返しするだけでいたいんです。どういう意味か。わかりますよね?

連曦 : ……はい。

知暎 : ありがとうございます。

連曦 : あの、少し。

知暎 : はい。

連曦 : お気をつけて。今日から、鍵を追うと聞きました。

知暎 : くだらない。あ、ああああ。連曦さんのことじゃなくて。すみません。

知暎の冷笑が急いで締めくくられた。連曦にはどことなく團長に似て慌てふためく知暎の声が馴染み深かった。知暎が深呼吸を漏らした後、連曦に伝えかけていた言葉をまとめた。

知暎 : 気をつけて。いつも。大多数が敵だということを否定したいお気持ちは、よくわかっています。でも、連曦さんももう知らなければなりません。連曦さんの周りに信じられる人はそう多くないから。そう作られたのだから。

連曦 : ご承知かと思いますが、あの者たちは必ず。知暎さんをどうにかしてでも。

知暎 : わかっています。あの人は今、私の正体を察しているでしょうし。止まらないでしょう。私を消すまでは。当分、連曦さんも、私も。常に危険でしょうから、気をつけて。お願いします。

連曦 : ありがとうございます。どうか、お体に気をつけて。

知暎 : はい。ありがとうございます。

知暎の声を最後に長い通話が終わった。連曦が電話をしばし見つめ、思案を続けた。このまま番号を残したかったが、万一のことは常に存在した。連曦が決心した後、躊躇なくかかってきた番号を削除した。連曦が電話を閉じ、扉に垂らしていたフィンモレを軽い手振りで再び収めた。席を離れぬまま、片眼鏡を耳に掛けた。書類の山を集中して見つめようとした時、執務室の扉の向こうの秘書室から慌ただしさが伝わった。連曦が眼鏡を掛けたまま席を立ち、慌ただしさを確かめようとした。連曦の執務室の扉を開けて入ってきたのは、團長のたおやかな足取りだった。やや驚いた連曦が急いで身を整え、机の端から出て、團長の歩みに深い礼を送った。連曦が送った礼を黙って受けた團長が、連曦の腕を支えるように抱え、連曦が立ち上がれるよう助けた。

團長 : 少し座ろうか。

連曦の執務室のソファの上座に座った團長。連曦が團長がすべて座り終えた後、隣のソファに身を下ろした。團長が腕輪を振り、連曦の部屋に誰も入れぬようにした。いかなる声も聞こえず、いかなる声も外へ漏れぬ緻密な黒い帳が鉄糸で編まれた。團長が連曦に複雑な表情を浮かべた。

團長 : まずは、気になることから、私が先に話してもよいかい。

連曦 : はい。ありがとうございます。

團長 : この遺物は本物だよ。知暎が身につけているものも。

連曦 : それがどうして可能なのですか。

團長が袖をもう一度解いた。手首に嵌められていた腕輪が姿を消した。呪術はなおも残っていたが、團長の手首に据わっていた腕輪は跡形もなく消えた状態だった。

團長 : いくつかの手がかりを、玄敎から得た。まだ未熟ではあるけれど、それでも一つの遺物が二人の主を選んでくれて幸いだった。知暎は幼い頃、お前が知暎を救ってくれた時以降ずっと私の手元で育ち、絶えず多くのことを身につけてきた。お前ほどではないだろうけれど。

連曦 : では、すでにすべての規則や、律法を。

團長 : 律法の存在は知ってはいるが、律法に縛られずに、呪術と力を振るうこともできる。そして。すでに傳令を宿した鍵でもある。

連曦が驚かなかったのを見て、團長が薄く微笑んだ。手首を軽く振って消えていた腕輪を再び現した。

團長 : すでに、所姬から聞いていたのだね。

連曦 : はい。

團長 : であれば、長くは語るまい。連曦よ。

連曦 : はい。

團長 : 我々のために、他の者たちが死ぬことは望んでいない。無論、お前たちも死んではならない。だが、腐ったものはすべて切り取らなければならない。否応なく血を見なければならぬ日が必ず来る。もちろん、来ないことを切に願っている。私がいつも望むのは皆が共に笑って過ごすことだけれど、もはやただ幼いだけだったお前たちではなくなったということも受け入れなければならなかった。そのすべてが、私の思い通りになるはずがなかった。すぐ手元の娘たちでさえ思い通りにならないのだから。

連曦 : 團長。一つお伺いしてもよろしいでしょうか。

團長 : 何でも聞いていいよ。

連曦 : なぜ、鍵をお造りになったのですか。鍵を見つけて消すことは我々の永遠の課題です。我々の團の存在の価値、理由でもあります。私にはそれが最も大きな疑問でした。

團長 : お前は、なぜ知暎を庇い、鍵を殺さないと言ったのだい。

連曦も言葉を出せなかった。ただ、幼い心でなし得た「義侠の志」と断ずるには、人の欲で誰かが犠牲になることは正しくないと感じてきた。そんな連曦を見つめ、團長が深い息を吸い込んだ。

團長 : 鍵のようなものは、もう存在してはならないのだよ。私の娘を最後に、今度が過ぎれば、理を違えたすべての循環は終わる。

連曦 : であれば。

團長 : 私たちは、門を開ける。門が開かねば、歪んだすべての循環が終わりを結ばないのだから。

連曦が團長の確信をじっと見つめた。

團長 : 私の言葉を信じられないのであれば。

團長が手首につけていた腕輪を外し、連曦に渡した。

團長 : いつでも私と知暎を消してもいいのだよ。

連曦は動じぬまま、團長の悲しい勧めを固辞した。

連曦 : 團長。私にはできません。そのようなことはいたしません。考えすら抱きません。私は、いつも團長の御意に従ってまいりました。信じられぬはずがございません。そのようなお言葉はお取り下げください。

團長 : 空言ではなかったが、指示したのでもないよ。頼みに近い。

連曦が戻した腕輪を、慎重に受け取った團長が、空いていた手首に腕輪を再びはめ直した。複雑な声を静かに継いだ。

團長 : 連曦よ。

團長が柔らかく温かな手を差し伸べ、連曦の両手を包むように握ってやった。

團長 : 我々の團には、血の嵐を洗い流す蝶の羽ばたきが要る。血の嵐は、知暎が血色の羽ばたきを起こすだろうが、その後は連曦、お前に抱き留めてほしい。お前だけができる最善の方法を、お前はいつも胸に秘めてきたのだから。

連曦 : 團長。今のお言葉は、私が二代の團長をいずれも—

團長が軽く首を横に振った。連曦の意をしばし否定した團長が、連曦を握っていた己の手でもう少し温かな力を伝えてやった。

團長 : 知暎のために死ぬ者たちも、知暎が立ち塞がるだろうが、一人では足りまい。ゆえに。頼む。

連曦がしばし揺れる眼差しを見せたが、やがて、目を静かに閉じると何かを確と定めたように、ゆっくりと閉じた目を開いた。連曦の澄んだ眼差しが團長に届いた時、團長が温かな頼みを連曦に伝えた。

團長 : どうか。お前たち自身を助けておくれ。