Scene 14.
月曜の朝の会議の時間だった。空席をちらりと見やった惟碩(惟碩:ユイセキ)が円卓の上座に座り、隣に立っていた己の秘書に小さな耳打ちを寄せた。秘書がその場を離れた後、惟碩が積まれた卷子(卷子:トゥルマリ)を開いた。会議場には惟碩と粹廷(粹廷:スジョン)、連曦(連曦:ヨンヒ)。美延(美延:ミヨン)と正賢(正賢:ジョンヒョン)、永敏(永敏:ヨンミン)、珠希(珠希:ジュヒ)、藝珠(藝珠:イェジュ)まで全員が席についていた。團長の席と伊仙(伊仙:イソン)、熙珍(熙珍:ヒジン)の席だけが空いたまま、ぽつんと置かれていた。惟碩が卷子をしばし検め、唇を歪めた後、正賢を見やって声をかけた。
惟碩 : 教正館長。
正賢 : はい。
惟碩 : 本日から、鍵を少し追ってみてください。
惟碩の指示に、場内のすべての者が惟碩を見やった。とりわけ驚いたのは美延だった。
美延 : は?
惟碩 : ん? 大民官長。何か問題でも。
大きな会議場の扉が開き、顔色のあまり冴えない伊仙が入ってきた。熙珍を探して見つけられず戻ってきた気配だった。硬い表情で場内に入った伊仙が、惟碩に腰を折って己の席へ向かった。
美延 : アニ、そういうことではありません。
惟碩 : 教正館長は週初の会議が終わり次第、私の部屋へお越しください。
藝珠 : アニ、その前に。事務長。突然鍵を。もしや、團長の指示がおありだったのでしょうか。
惟碩 : もともと我々の務めです。六十年に一度、ジョスンがイスンへ越え出ることのできる門を開かせぬよう、その鍵となる者を見つけ出して砕く。至極当然の我々の務め。そのためにすべての巫者が我々に控除金と供物、金を納めるのですから、皆さんが楽に遊んで食べながらおかしなこともできるわけで。
珠希 : 私たちはそんなこと—
惟碩 : なに、「鍵」を砕いたことがないと? それとも、遊んで食べたことがない? それとも、おかしなこと?
藝珠 : 「鍵」は常に砕いてまいりましたが、二十余年前、玄敎の乱入以降行方を断ちました。その間、鍵を探すためにどれほど多くの時間を費やしてきたかご存じないのですか。私たちすべてが楽に過ごしたわけではありません。今になってその年に生まれた孤児を探して殺せというのも、今の人員では十分で—
惟碩 : 名簿はすでに私の手元にあります。今指示を受けた教正館長もじきにわかるでしょう。
伊仙 : 教正館長一人ですべて処理しなければならないのですか。手に余るでしょう。いや、そもそもありえない水準です。時期が遅すぎますから。
惟碩 : ふむ。では、精武館長がお手伝いくだされば。
伊仙 : ご指示であればいつでもお助けできます。
正賢 : まずは、確保された名簿を確認した上で、申し上げましょう。数がさほど多くないかもしれませんので。
惟碩 : 多くはありません。長い時間を経ておりますから。すでに死んだ者も多い。ですから、教正館長にだけ指示しても済む水準ではありますが、誰かが助けるというなら止めはしません。それだけ重要な務めでもありますし。
美延 : 名簿を公開なさらない理由は何でしょうか、もしや。
惟碩 : 虫けらがあまりに群がりそうなので、少々静かに進めたいのです。志願された精武館長も後ほど私の執務室へお越しください。それ以外にもお手伝いを考えている方がいらっしゃれば、いつでもお越しください。名簿はその方々に漏れなく公開いたします。
伊仙 : 承知しました。
惟碩 : その他、些末な問題は館長方の範囲で解決され、結果のみ私にお知らせください。最も重要なのは鍵を見つけることですから。
藝珠 : なぜ、急に動こうとなさるのですか。
惟碩 : 「急に」ではありません。すでに名簿を持っています。すなわち、事務処で静かに進めていたということでしょう。
連曦が席を空けた熙珍を内心案じるように、熙珍の空席をしばし見つめていた。
惟碩 : 敎務所長がおっしゃりたいことがあるようですね。
連曦 : もしや、集賢館長がどちらにいらっしゃるか、ご存じの方はおられますか。
連曦の問いに、誰も答えなかった。知るところがなかった。だが伊仙すらもあえて答えなかった。知っている気配だった。最もあからさまに不安を隠しきれないのは、美延だった。
惟碩 : ご心配であれば直接お探しになっても構いません。
惟碩の言葉に連曦が惟碩の真意を察したように、目を静かに閉じ、そして開いた。
連曦 : はい。では行ってまいります。
團長 : その必要はないだろう。
会議場の扉を開けて入ってきた團長の気配に、場内のすべての者が身を起こした。團長の言葉に美延がしばし周囲の様子を窺った。
惟碩 : お越しになりましたか。
團長 : 月例会議を主宰できず申し訳ない。葬送谷から急いで戻ってからにするのがよいと思ったのだが、思いのほか長引いてしまった。それはそうと。来がけに外から聞いたところでは、鍵を追うということのようだが、計画を聞かせてもらおうか。
團長が円卓の椅子に身を据えると、場内のすべての者も己の席に再び腰を下ろした。
惟碩 : はい。まず、我々が確保した十五名の名簿を追跡。外部の傭兵を帯同し、我々の痕跡が残らぬよう静かに砕く考えです。追跡の先鋒には教正館長、万一の衝突に備え、後発隊は精武館長が進めます。
團長 : 外部の傭兵?
惟碩 : 我々の人員では困難と判断いたしました。年末の精算と控除費の精算、その他の内部業務が重なり、外に回す人員がさほど多くありませんでした。代わりに、我々は砕かれた鍵の候補者の冥福と安寧を祈ることのみ、祭礼で締めくくる考えです。
團長 : 傭兵は信頼に足る水準か?
惟碩 : はい。確保した傭兵を別途取りまとめてお上げします。その間、我々は玄敎を少し調べようかと。
團長 : ふむ。玄敎か。公の場では久しぶりに聞くな。
惟碩 : もし候補者を除いたとしても、真の鍵が見つからなかったならば、我々が確保できなかった鍵があるならば、必ずや玄敎の手中にあるものと見ております。
團長 : そうだろうな。だから精武館を後ろに据えたのか。起こりうる武力のゆえに。
惟碩 : 幸い、先に志願してくれました。
團長 : よかったな。
固く閉ざされていた会議場の扉が再び開いた。遅れて入ってきた端正な姿の熙珍が團長と惟碩に挨拶を送った後、空いていた己の席へ向けて、まだ少し不自由に見える歩みを運んだ。
熙珍 : 遅れまして申し訳ございません。
惟碩が口元に薄い笑みを浮かべた。美延が平静な気色をもはや保てないように見えた。震える手を隠した美延は顔さえ上げられなかった。
團長 : どこに、行ってきたのか。
熙珍 : はい、一鑑湖に少々行ってまいりました。お会いする方がおりましたが、私が時間の計算を誤りまして。申し訳ございません。
團長 : 構わないから、続きを聞こうか。
惟碩 : いずれにしましても、近いうちに傭兵業者の選別まで済ませましたら、團長の認可をいただきます。
團長 : そうしてくれ。それ以外に重要な報告事項のある部署は私に個人的に訪ねてきなさい。あるいは事務長を通してもよいから、月曜の会議はこのあたりにしようか。
惟碩が席を立とうとする團長の手首をちらりと窺った。確かに存在する黒い腕輪だった。團長が外へ出ようとすると、場内のすべての者が身を起こした。出ていく團長の歩みに従い、粹廷が共に外へ出た。團長が出た後もなお、薄氷のような空気は容易に沈まなかった。
惟碩 : このあたりにしよう、という言葉はお聞きになったと思いますが。なぜ皆さんここにおいでですか。お出になってはいかがでしょう。お出になる方は。教正館長と精武館長は私に付いてきてください。
惟碩が外套を整えた後、歩を進めた。惟碩の後に従う伊仙とは違い、取り乱したようにしばし躊躇った正賢を見て、惟碩が目配せで早く従えという意を送った。正賢が歩を進めて惟碩に近づいた。三人が場を離れると、残りの者たちもそれぞれの用があるとばかりに、席を立った。がらんとした会議場には連曦と熙珍、美延だけが残っていた。連曦が身を起こして熙珍に近づいた。
連曦 : 集賢館長、本当に一鑑湖に行ってこられたのですか。
熙珍 : はい。あちらでお会いする方がおりまして、話をしているうちに時間を忘れてしまい。
連曦が軽く頷き、熙珍の言葉を半ば信じるとばかりに腰を折って挨拶を伝えた。永敏をはじめ全員が場を去った時、冷え冷えとした会議場に残ったのは美延と熙珍だけだった。熙珍が先に身を起こし、進むことも退くこともできずただ座っている美延の傍へ歩み寄った。熙珍が美延の肩をつかみ、耳元に小さく何かを告げた時、美延が目を静かに閉じ、おぞましい現実を否定しようとした。熙珍が背筋を正した。肩をそっと撫でながら美延に淡々とした慰めを投げた。
熙珍 : それにしましても。本当にお一人になられたようですね。大民官長。お気の毒に。
熙珍がその場を離れた。美延が手に持った携帯電話をきつく握り締めた。
月曜の朝の会議の時間だった。空席をちらりと見やった惟碩(惟碩:ユイセキ)が円卓の上座に座り、隣に立っていた己の秘書に小さな耳打ちを寄せた。秘書がその場を離れた後、惟碩が積まれた卷子(卷子:トゥルマリ)を開いた。会議場には惟碩と粹廷(粹廷:スジョン)、連曦(連曦:ヨンヒ)。美延(美延:ミヨン)と正賢(正賢:ジョンヒョン)、永敏(永敏:ヨンミン)、珠希(珠希:ジュヒ)、藝珠(藝珠:イェジュ)まで全員が席についていた。團長の席と伊仙(伊仙:イソン)、熙珍(熙珍:ヒジン)の席だけが空いたまま、ぽつんと置かれていた。惟碩が卷子をしばし検め、唇を歪めた後、正賢を見やって声をかけた。
惟碩 : 教正館長。
正賢 : はい。
惟碩 : 本日から、鍵を少し追ってみてください。
惟碩の指示に、場内のすべての者が惟碩を見やった。とりわけ驚いたのは美延だった。
美延 : は?
惟碩 : ん? 大民官長。何か問題でも。
大きな会議場の扉が開き、顔色のあまり冴えない伊仙が入ってきた。熙珍を探して見つけられず戻ってきた気配だった。硬い表情で場内に入った伊仙が、惟碩に腰を折って己の席へ向かった。
美延 : アニ、そういうことではありません。
惟碩 : 教正館長は週初の会議が終わり次第、私の部屋へお越しください。
藝珠 : アニ、その前に。事務長。突然鍵を。もしや、團長の指示がおありだったのでしょうか。
惟碩 : もともと我々の務めです。六十年に一度、ジョスンがイスンへ越え出ることのできる門を開かせぬよう、その鍵となる者を見つけ出して砕く。至極当然の我々の務め。そのためにすべての巫者が我々に控除金と供物、金を納めるのですから、皆さんが楽に遊んで食べながらおかしなこともできるわけで。
珠希 : 私たちはそんなこと—
惟碩 : なに、「鍵」を砕いたことがないと? それとも、遊んで食べたことがない? それとも、おかしなこと?
藝珠 : 「鍵」は常に砕いてまいりましたが、二十余年前、玄敎の乱入以降行方を断ちました。その間、鍵を探すためにどれほど多くの時間を費やしてきたかご存じないのですか。私たちすべてが楽に過ごしたわけではありません。今になってその年に生まれた孤児を探して殺せというのも、今の人員では十分で—
惟碩 : 名簿はすでに私の手元にあります。今指示を受けた教正館長もじきにわかるでしょう。
伊仙 : 教正館長一人ですべて処理しなければならないのですか。手に余るでしょう。いや、そもそもありえない水準です。時期が遅すぎますから。
惟碩 : ふむ。では、精武館長がお手伝いくだされば。
伊仙 : ご指示であればいつでもお助けできます。
正賢 : まずは、確保された名簿を確認した上で、申し上げましょう。数がさほど多くないかもしれませんので。
惟碩 : 多くはありません。長い時間を経ておりますから。すでに死んだ者も多い。ですから、教正館長にだけ指示しても済む水準ではありますが、誰かが助けるというなら止めはしません。それだけ重要な務めでもありますし。
美延 : 名簿を公開なさらない理由は何でしょうか、もしや。
惟碩 : 虫けらがあまりに群がりそうなので、少々静かに進めたいのです。志願された精武館長も後ほど私の執務室へお越しください。それ以外にもお手伝いを考えている方がいらっしゃれば、いつでもお越しください。名簿はその方々に漏れなく公開いたします。
伊仙 : 承知しました。
惟碩 : その他、些末な問題は館長方の範囲で解決され、結果のみ私にお知らせください。最も重要なのは鍵を見つけることですから。
藝珠 : なぜ、急に動こうとなさるのですか。
惟碩 : 「急に」ではありません。すでに名簿を持っています。すなわち、事務処で静かに進めていたということでしょう。
連曦が席を空けた熙珍を内心案じるように、熙珍の空席をしばし見つめていた。
惟碩 : 敎務所長がおっしゃりたいことがあるようですね。
連曦 : もしや、集賢館長がどちらにいらっしゃるか、ご存じの方はおられますか。
連曦の問いに、誰も答えなかった。知るところがなかった。だが伊仙すらもあえて答えなかった。知っている気配だった。最もあからさまに不安を隠しきれないのは、美延だった。
惟碩 : ご心配であれば直接お探しになっても構いません。
惟碩の言葉に連曦が惟碩の真意を察したように、目を静かに閉じ、そして開いた。
連曦 : はい。では行ってまいります。
團長 : その必要はないだろう。
会議場の扉を開けて入ってきた團長の気配に、場内のすべての者が身を起こした。團長の言葉に美延がしばし周囲の様子を窺った。
惟碩 : お越しになりましたか。
團長 : 月例会議を主宰できず申し訳ない。葬送谷から急いで戻ってからにするのがよいと思ったのだが、思いのほか長引いてしまった。それはそうと。来がけに外から聞いたところでは、鍵を追うということのようだが、計画を聞かせてもらおうか。
團長が円卓の椅子に身を据えると、場内のすべての者も己の席に再び腰を下ろした。
惟碩 : はい。まず、我々が確保した十五名の名簿を追跡。外部の傭兵を帯同し、我々の痕跡が残らぬよう静かに砕く考えです。追跡の先鋒には教正館長、万一の衝突に備え、後発隊は精武館長が進めます。
團長 : 外部の傭兵?
惟碩 : 我々の人員では困難と判断いたしました。年末の精算と控除費の精算、その他の内部業務が重なり、外に回す人員がさほど多くありませんでした。代わりに、我々は砕かれた鍵の候補者の冥福と安寧を祈ることのみ、祭礼で締めくくる考えです。
團長 : 傭兵は信頼に足る水準か?
惟碩 : はい。確保した傭兵を別途取りまとめてお上げします。その間、我々は玄敎を少し調べようかと。
團長 : ふむ。玄敎か。公の場では久しぶりに聞くな。
惟碩 : もし候補者を除いたとしても、真の鍵が見つからなかったならば、我々が確保できなかった鍵があるならば、必ずや玄敎の手中にあるものと見ております。
團長 : そうだろうな。だから精武館を後ろに据えたのか。起こりうる武力のゆえに。
惟碩 : 幸い、先に志願してくれました。
團長 : よかったな。
固く閉ざされていた会議場の扉が再び開いた。遅れて入ってきた端正な姿の熙珍が團長と惟碩に挨拶を送った後、空いていた己の席へ向けて、まだ少し不自由に見える歩みを運んだ。
熙珍 : 遅れまして申し訳ございません。
惟碩が口元に薄い笑みを浮かべた。美延が平静な気色をもはや保てないように見えた。震える手を隠した美延は顔さえ上げられなかった。
團長 : どこに、行ってきたのか。
熙珍 : はい、一鑑湖に少々行ってまいりました。お会いする方がおりましたが、私が時間の計算を誤りまして。申し訳ございません。
團長 : 構わないから、続きを聞こうか。
惟碩 : いずれにしましても、近いうちに傭兵業者の選別まで済ませましたら、團長の認可をいただきます。
團長 : そうしてくれ。それ以外に重要な報告事項のある部署は私に個人的に訪ねてきなさい。あるいは事務長を通してもよいから、月曜の会議はこのあたりにしようか。
惟碩が席を立とうとする團長の手首をちらりと窺った。確かに存在する黒い腕輪だった。團長が外へ出ようとすると、場内のすべての者が身を起こした。出ていく團長の歩みに従い、粹廷が共に外へ出た。團長が出た後もなお、薄氷のような空気は容易に沈まなかった。
惟碩 : このあたりにしよう、という言葉はお聞きになったと思いますが。なぜ皆さんここにおいでですか。お出になってはいかがでしょう。お出になる方は。教正館長と精武館長は私に付いてきてください。
惟碩が外套を整えた後、歩を進めた。惟碩の後に従う伊仙とは違い、取り乱したようにしばし躊躇った正賢を見て、惟碩が目配せで早く従えという意を送った。正賢が歩を進めて惟碩に近づいた。三人が場を離れると、残りの者たちもそれぞれの用があるとばかりに、席を立った。がらんとした会議場には連曦と熙珍、美延だけが残っていた。連曦が身を起こして熙珍に近づいた。
連曦 : 集賢館長、本当に一鑑湖に行ってこられたのですか。
熙珍 : はい。あちらでお会いする方がおりまして、話をしているうちに時間を忘れてしまい。
連曦が軽く頷き、熙珍の言葉を半ば信じるとばかりに腰を折って挨拶を伝えた。永敏をはじめ全員が場を去った時、冷え冷えとした会議場に残ったのは美延と熙珍だけだった。熙珍が先に身を起こし、進むことも退くこともできずただ座っている美延の傍へ歩み寄った。熙珍が美延の肩をつかみ、耳元に小さく何かを告げた時、美延が目を静かに閉じ、おぞましい現実を否定しようとした。熙珍が背筋を正した。肩をそっと撫でながら美延に淡々とした慰めを投げた。
熙珍 : それにしましても。本当にお一人になられたようですね。大民官長。お気の毒に。
熙珍がその場を離れた。美延が手に持った携帯電話をきつく握り締めた。
