Scene 08.
まだ陽の差さぬ夜明け前、連曦(連曦:ヨンヒ)が現代風の韓服を丁寧に着こなし、自室に据わる化粧台の鏡に向かって残りの支度を仕上げていた。がさごそと物音が外から聞こえた。連曦が髪を捻り上げて結び目をつくった後、扉を開けて外の音を確かめた。
連曦 : もう起きたの??
連曦の声に、台所で冷蔵庫を漁っていた延秀(延秀:ヨンス)が驚いた目で連曦を見やった。
延秀 : なに、もう出るの?
連曦 : 今日は月例会議の日だよ。團長は葬送谷(葬送谷:ジャンソンゴク)に行ってらっしゃるし。ていうか、あんた。まさか。徹夜したの??
連曦の小言に延秀が空咳で答えを代えた。延秀が冷蔵庫から取り出したケーキを、連曦が怪訝そうな目でじっと見つめた。
連曦 : お腹空いて眠れないの??
延秀 : あ、うん。その。えっと。
連曦 : やっぱり。前の日の午後まで寝てたって言ってたじゃない。あんたそうやって昼夜逆転したらどうするの。今日バイトもあるでしょ。
延秀 : えー、まあ。大丈夫だって。一日二日くらい。さっさと食べてゲーム一戦やってから出なきゃ。
連曦が短い溜息をついたまま、扉を閉めずに元の場所へ戻った。延秀が皿にケーキの一切れを載せ、フォークで憎らしげに食べながら連曦の部屋へ向かった。
延秀 : 連曦オンニも少し食べてから行きなよ。
フォークでケーキをすくい、連曦の口元へ運んだ。連曦が延秀の心遣いを退けはしなかった。ケーキを口に受けた連曦が、延秀への小言を続けた。
連曦 : ゲームしながら寝落ちしないで。あそこの社長さん良い方なんだから。あんたに何も言わなくても、あんたがもっと自分からちゃんとしなきゃ。
延秀 : はいはい!! わかったって。出る時にオンニにメールするから。それでいい? 安心する?
延秀の言い返しに連曦が口の端をそっと上げた。ケーキの載った皿をしばし置いた延秀が、連曦の装身具の着用を手伝った。長い煙管には二匹の蝶が飾り房にぶら下がっていた。
延秀 : オンニいつ昇進するかなあ。
連曦 : 昇進?? いきなり? 私が??
延秀 : そうしてくれないと私を正式に團に採ってくれないじゃん。及第してるのに何もできないから、どんどん忘れられてる気がする。
連曦 : 昇進する席もないけど。たとえ昇進したとしても、私そういう口利きはしないよ?
延秀 : 口利きじゃないでしょ。これは正当なことだよ。及第した私に末端の職でもくれるべきでしょ。それが筋なのに家柄の割合と年齢のせいで今こうなってるんじゃない。もうすぐ、年齢だって満たすのに。
連曦の髪の間に煙管を挿し込んだ後、蝶の飾りの下にぶら下がる房を肩の前へ降ろしてやった。
延秀 : あー、うちのオンニだけど超綺麗。
連曦 : うやむやにしようとしないで。今日あんたバイト遅刻したら、オンニ明日帰ってきて怒るからね。
延秀 : 信じてよ。ちょっとは。てか何で明日なの?
連曦 : 今日は書類仕事が多くて、たぶん本廳の宿所で一泊すると思う。だから、オンニがいなくても必ず。
延秀がもう飽きたとばかりに、自分の長い小指で耳を掻いた。連曦がしょんぼりした顔で延秀をちらりと睨んだ後、化粧台から身を起こした。延秀が化粧台の上に置いてあった皿を手に取り、ケーキの残りを食べながら連曦を見送った。小さな手提げ鞄を持った連曦が、玄関で雲鞋(雲鞋:ウンヘ)を取り出して履いた。白い襪が雲鞋の中へ滑り込んだ。延秀が羨望の眼差しを連曦に最後まで送り続けていた。
連曦 : じきに、團長がお呼びになるでしょうね。もう少しだけ普通の日常を過ごしなさい。あんた後になってかえって今が良かったって言うかもしれないから。
延秀が憎らしげにケーキを食べながら連曦の言葉に頷いた。
延秀 : そうだね。もともと昔の方を恋しがるものだから。でもさ、オンニがああやって綺麗に着飾ったの見るたびに、私がガキになっちゃうのはどうしようもないよ。
連曦 : 慶瑞に言ってあげようか? 一着仕立ててって。
延秀 : いや。私またぶたれる。やだ。やめて。
連曦が明るい笑顔を浮かべ、延秀に手を振って挨拶した。
Scene 09.
四方が血に塗れていた。一人だけが残り、今起きた状況を理解しがたいという恐怖を纏ったまま、自分の前にぼんやりと立つ誰かをただ見つめているだけだった。床に散らばった刃物と人の残骸。所々に散ったコムンムルの痕が狭い空間に絡み合っていた。床にへたり込んだまま、怯えた男が自分の前に立って天井を見上げている残りの一人を恐る恐る呼んだ。
閔石 : そ、それじゃ。俺たちは。何を。
智胤(智胤:ジユン) : 私が喰ったんだよ。あんたたちを。だから、これから私が言うことを死ぬほどちゃんとやればいいでしょ?
閔石 : だから、な、何をすればいいのか。
智胤 : あんたたち人殺し得意でしょ。違う?
智胤が歩を進め、壁の棚に掛かった何丁もの銃器を見渡した。
智胤 : こうやってモノの手配もよくできるし。おい、これめちゃくちゃいいやつじゃん。
銃を一丁手に取り、あちこち検分していた。
智胤 : ああ、金はあんたらが自分で稼ぎな。私は自分で食うので精一杯だから。嫌ならあんな風にはらわたぶちまけて転がってればいい。
閔石 : それは、俺たちが。
閔石の言葉はすべて繋がらなかった。そのまま智胤が銃口を向けて引き金を引き、閔石の片腕を丸ごと吹き飛ばした。散弾を受けた閔石が床に血を撒き散らしながら、四方へ転がるように身をもがいた。智胤の手に握られた短い散弾銃の銃口が煙を上げていた。机の上に腰掛けた後、疲れた体をなだめるように腰を捻った。
智胤 : よそに行こうか? あんたらの手下を残らず殺して。あと10人くらい残ってる?
閔石 : 好きにしろこのシバル女が!!
智胤が再び銃口を向け、閔石の片脚まで吹き飛ばした。ぼろぼろの脚と腕をどうすることもできない閔石。遅ればせながら憎悪と虚勢を畳み、智胤を見上げた。智胤が残弾を確認した後、薬莢を手慣れた手つきで排出し、残った弾を掴んで薬室へ押し込んだ。
閔石 : い、いつ。始めれば。
智胤がポケットに入っていたジェッカルを取り出し、閔石の消え失せた片腕と穴の開いた片脚の上に無造作に振りかけた。すでに失われた腕は繋がらなかったが、脚の傷は完全に元の姿を取り戻していった。智胤がポケットから小さな封筒を取り出した。ジェッカルが載った閔石の脚の上に封筒を放り投げるように置いた智胤。小さな散弾銃を満足そうに眺めながら歩き出した。出ようとした扉の前で足を止めた智胤が何かを思いつき、投げやりな声を寄越した。
智胤 : 近いうちに?
まだ陽の差さぬ夜明け前、連曦(連曦:ヨンヒ)が現代風の韓服を丁寧に着こなし、自室に据わる化粧台の鏡に向かって残りの支度を仕上げていた。がさごそと物音が外から聞こえた。連曦が髪を捻り上げて結び目をつくった後、扉を開けて外の音を確かめた。
連曦 : もう起きたの??
連曦の声に、台所で冷蔵庫を漁っていた延秀(延秀:ヨンス)が驚いた目で連曦を見やった。
延秀 : なに、もう出るの?
連曦 : 今日は月例会議の日だよ。團長は葬送谷(葬送谷:ジャンソンゴク)に行ってらっしゃるし。ていうか、あんた。まさか。徹夜したの??
連曦の小言に延秀が空咳で答えを代えた。延秀が冷蔵庫から取り出したケーキを、連曦が怪訝そうな目でじっと見つめた。
連曦 : お腹空いて眠れないの??
延秀 : あ、うん。その。えっと。
連曦 : やっぱり。前の日の午後まで寝てたって言ってたじゃない。あんたそうやって昼夜逆転したらどうするの。今日バイトもあるでしょ。
延秀 : えー、まあ。大丈夫だって。一日二日くらい。さっさと食べてゲーム一戦やってから出なきゃ。
連曦が短い溜息をついたまま、扉を閉めずに元の場所へ戻った。延秀が皿にケーキの一切れを載せ、フォークで憎らしげに食べながら連曦の部屋へ向かった。
延秀 : 連曦オンニも少し食べてから行きなよ。
フォークでケーキをすくい、連曦の口元へ運んだ。連曦が延秀の心遣いを退けはしなかった。ケーキを口に受けた連曦が、延秀への小言を続けた。
連曦 : ゲームしながら寝落ちしないで。あそこの社長さん良い方なんだから。あんたに何も言わなくても、あんたがもっと自分からちゃんとしなきゃ。
延秀 : はいはい!! わかったって。出る時にオンニにメールするから。それでいい? 安心する?
延秀の言い返しに連曦が口の端をそっと上げた。ケーキの載った皿をしばし置いた延秀が、連曦の装身具の着用を手伝った。長い煙管には二匹の蝶が飾り房にぶら下がっていた。
延秀 : オンニいつ昇進するかなあ。
連曦 : 昇進?? いきなり? 私が??
延秀 : そうしてくれないと私を正式に團に採ってくれないじゃん。及第してるのに何もできないから、どんどん忘れられてる気がする。
連曦 : 昇進する席もないけど。たとえ昇進したとしても、私そういう口利きはしないよ?
延秀 : 口利きじゃないでしょ。これは正当なことだよ。及第した私に末端の職でもくれるべきでしょ。それが筋なのに家柄の割合と年齢のせいで今こうなってるんじゃない。もうすぐ、年齢だって満たすのに。
連曦の髪の間に煙管を挿し込んだ後、蝶の飾りの下にぶら下がる房を肩の前へ降ろしてやった。
延秀 : あー、うちのオンニだけど超綺麗。
連曦 : うやむやにしようとしないで。今日あんたバイト遅刻したら、オンニ明日帰ってきて怒るからね。
延秀 : 信じてよ。ちょっとは。てか何で明日なの?
連曦 : 今日は書類仕事が多くて、たぶん本廳の宿所で一泊すると思う。だから、オンニがいなくても必ず。
延秀がもう飽きたとばかりに、自分の長い小指で耳を掻いた。連曦がしょんぼりした顔で延秀をちらりと睨んだ後、化粧台から身を起こした。延秀が化粧台の上に置いてあった皿を手に取り、ケーキの残りを食べながら連曦を見送った。小さな手提げ鞄を持った連曦が、玄関で雲鞋(雲鞋:ウンヘ)を取り出して履いた。白い襪が雲鞋の中へ滑り込んだ。延秀が羨望の眼差しを連曦に最後まで送り続けていた。
連曦 : じきに、團長がお呼びになるでしょうね。もう少しだけ普通の日常を過ごしなさい。あんた後になってかえって今が良かったって言うかもしれないから。
延秀が憎らしげにケーキを食べながら連曦の言葉に頷いた。
延秀 : そうだね。もともと昔の方を恋しがるものだから。でもさ、オンニがああやって綺麗に着飾ったの見るたびに、私がガキになっちゃうのはどうしようもないよ。
連曦 : 慶瑞に言ってあげようか? 一着仕立ててって。
延秀 : いや。私またぶたれる。やだ。やめて。
連曦が明るい笑顔を浮かべ、延秀に手を振って挨拶した。
Scene 09.
四方が血に塗れていた。一人だけが残り、今起きた状況を理解しがたいという恐怖を纏ったまま、自分の前にぼんやりと立つ誰かをただ見つめているだけだった。床に散らばった刃物と人の残骸。所々に散ったコムンムルの痕が狭い空間に絡み合っていた。床にへたり込んだまま、怯えた男が自分の前に立って天井を見上げている残りの一人を恐る恐る呼んだ。
閔石 : そ、それじゃ。俺たちは。何を。
智胤(智胤:ジユン) : 私が喰ったんだよ。あんたたちを。だから、これから私が言うことを死ぬほどちゃんとやればいいでしょ?
閔石 : だから、な、何をすればいいのか。
智胤 : あんたたち人殺し得意でしょ。違う?
智胤が歩を進め、壁の棚に掛かった何丁もの銃器を見渡した。
智胤 : こうやってモノの手配もよくできるし。おい、これめちゃくちゃいいやつじゃん。
銃を一丁手に取り、あちこち検分していた。
智胤 : ああ、金はあんたらが自分で稼ぎな。私は自分で食うので精一杯だから。嫌ならあんな風にはらわたぶちまけて転がってればいい。
閔石 : それは、俺たちが。
閔石の言葉はすべて繋がらなかった。そのまま智胤が銃口を向けて引き金を引き、閔石の片腕を丸ごと吹き飛ばした。散弾を受けた閔石が床に血を撒き散らしながら、四方へ転がるように身をもがいた。智胤の手に握られた短い散弾銃の銃口が煙を上げていた。机の上に腰掛けた後、疲れた体をなだめるように腰を捻った。
智胤 : よそに行こうか? あんたらの手下を残らず殺して。あと10人くらい残ってる?
閔石 : 好きにしろこのシバル女が!!
智胤が再び銃口を向け、閔石の片脚まで吹き飛ばした。ぼろぼろの脚と腕をどうすることもできない閔石。遅ればせながら憎悪と虚勢を畳み、智胤を見上げた。智胤が残弾を確認した後、薬莢を手慣れた手つきで排出し、残った弾を掴んで薬室へ押し込んだ。
閔石 : い、いつ。始めれば。
智胤がポケットに入っていたジェッカルを取り出し、閔石の消え失せた片腕と穴の開いた片脚の上に無造作に振りかけた。すでに失われた腕は繋がらなかったが、脚の傷は完全に元の姿を取り戻していった。智胤がポケットから小さな封筒を取り出した。ジェッカルが載った閔石の脚の上に封筒を放り投げるように置いた智胤。小さな散弾銃を満足そうに眺めながら歩き出した。出ようとした扉の前で足を止めた智胤が何かを思いつき、投げやりな声を寄越した。
智胤 : 近いうちに?
