胡蝶別曲 (나비별곡) : 乱れ蝶の詩 (みだれちょうのうた)

Scene 03.

深い夜明け前だった。深く眠る所姬(所姬:ソヒ)の手を握っていた始緣(始緣:シヨン)が、ベッドの脇に座っていた身を起こした。出がけに所姬の部屋の灯りを消してやり、外に出てリビングの灯りまで落とした。一人で何かを考える時間が必要だった。正確には、確信だった。確信が必要だった。死んだことを確実に悟る必要があった。これ以上迷いたくなかった。怒涛のように押し寄せたこの数日の出来事が、始緣にはまだきちんと整理されていない状態だった。まず思い浮かんだ場所から行ってみようとした。リビングに置いてあった所姬の帽子を深く被り、帽子の外にはみ出た自分の長い髪をゴムできつく縛った。所姬の家の、玄関の靴箱に入っていた自分の新しいスニーカーを履き、所姬が目を覚まさぬよう静かに玄関を開けて外へ出た。玄関の鍵を薄い上着のポケットから取り出し、確実に施錠してからその場を離れた。静まり返った団地の駐車場へ向かった始緣が、大きな自分のバイクを引いた。音を立てぬよう駐車場ではエンジンをかけず、少し離れた大通りへ向かった始緣が、遅れてバイクに跨り、轟くエンジンをかけた。計器盤に灯った光で状態をしばし確かめた後、ポケットの中の携帯でカードの残高を確認した。金は十分に見えた。所姬が起きる前に戻れたらいいという考えをしばし巡らせた後、バイクの上に置いてあった自分のヘルメットを手に取った。所姬の帽子を手首に縛りつけた後、ヘルメットを被った始緣。アクセルに足を乗せ、力いっぱいギアを引いた。


Scene 04.

袋を引きずり出した美延(美延:ミヨン)と美延の秘書。二人。トランクから重い麻袋を取り出し、山裾へ引きずり上げた。人気のない貯水池の前で麻袋を刃物で裂き、剥がした。熙珍(熙珍:ヒジン)が歪んだ眼鏡を掛けたまま、中で荒い呼吸を繰り返していた。美延が熙珍の口に噛ませていた猿轡を外した。熙珍が荒く息を吐きながら美延を睨みつけた。熙珍の髪を掴んで引き起こした美延が、熙珍の拘束を組み直すように縛り上げた。足首に巻かれたクムズルはそのまま、前で縛っていた両手を背後へ捻り上げるように固く縛り直した後、首へ重い石の塊をクムズルと繋ぎ、いつでも沈められるように熙珍を縛り上げた。

美延 : ほんとに私だけが馬鹿を見たわ、熙珍オンニ。

熙珍が嘲るように含み笑いをゆっくりと高めていった。怒りを堪えきれなかった美延が足を荒々しく振り回し、熙珍の顔面を大きく蹴り上げた。熙珍の口から血が飛んだ。

美延 : ええ、私は馬鹿だからよくわからないから、さあ言ってみなさいよ。そのご立派な頭で。どこからどこまで仕組んで、鍵を放って利権を食い荒らそうとしてる理由。一つ一つ。何を狙ってるのかまで。全部。

熙珍が含み笑いをとうとう堪えきれず、大きな笑い声を上げた。

熙珍 : 美延。よく聞いて。

熙珍が弾けた笑いをかろうじて抑え、あやすように静かに言葉を紡いだ。

熙珍 : 私は、あなたたちみたいに地位なんかに執着しない。

美延が熙珍の馬鹿げた言い分を嘲った。

美延 : 聖人君子? 仙人にでもなったの? 見返りもないのに何で隠れてやってるのよ。

熙珍 : 私は隠してない。隠すつもりもない。政治ごっこがしたいんでしょ? ああやって群れて一山しっかり懐に入れたい。そう。それは誰だって同じでしょうね。私がやりたいことを成し遂げたとしても、あなたたちの目にはどうせ村の馴れ合いにしか映らない。でもね。あなたたちは本当に一番大きなものをいつも見落としてる。

美延 : 何よ。

熙珍 : 私たちは、いつも團長の御意に従って動いてきた。團長の御心に沿って行動してきた。あなたたちは、あなたたちのレベルで頭目を立てた政治ごっこに見えるだろうけど、簡単なこと。自分が何者かのつもりでいる思い上がりさえ捨て—

熙珍の言葉はすべて繋がらなかった。太腿に食い込んだ美延の銀装刀が熙珍の太腿の筋肉を引き裂いた。熙珍が静寂の湖畔で悲鳴を上げ、激しい苦痛を退けようと懸命にもがいたが、美延はそんな手に容赦を置かず、さらに力を込めて捻り、熙珍の太腿を使い物にならないほど切り刻んだ。

美延 : 私がこの世で一番嫌いなのはね、私を馬鹿にすること。徒党を組んで。

悲鳴はやがて、大きな笑いへと変わった。

熙珍 : あなたたちがやってることは良くて!?

美延 : あんたたちが先にやったからでしょ!!

熙珍 : さっきの話、もう一回言おうか?

美延が熙珍の太腿に刃を突き刺したまま。肩で息をしながら身を起こした。秘書に手を差し出した時、秘書がしばし躊躇う眼差しを見せた。美延がそんな己の秘書の顔を平手で荒々しく張った。秘書は躊躇う手つきで用意していた道具を取り出し、地面に広げた。熙珍が土の地面に散らばった工具を見て、焦りから体を倒してその場から逃れようともがいた。取るに足らない足掻きを止めもしなかった美延が、地面に転がった鋸を一つ手に取り、みすぼらしい足掻きでその場から退こうとする熙珍の足首をもう一方の手で掴み取った。

美延 : さあ。どこから話してくれる?

熙珍 : な、何が聞きたいの。

熙珍が切迫した声で美延を止めようとした。熙珍が今からでも話す気になったかと思えた美延が、熙珍の足首の上に鋭い鋸を据えたまま、しばし立ち止まった。

美延 : まず。候補者の名簿。確保したやつ寄越しなさい。取るに足らない鍵の候補の首を刈る程度、どうってことないでしょうから。私がやる。寄越しなさい。

熙珍 : それで?

美延 : 最も高い功績を積んだ者を、次の高位に就けなくて誰を就けるのよ。

熙珍 : もう十分高い地位じゃない!!

美延 : 團長にでもなれば、オンニの言う通り私を中心にクソ馴れ合いするでしょうが。

美延の荒唐無稽な野心は思いのほか本気に見えた。怯えた振りをするのもそろそろ限界に達したらしく、熙珍が怯えた顔をそのまま保とうとしながら笑いを必死に堪えた。そんな熙珍の妙な表情が何を意味するのか、美延はあまりにも馴染んだものだというように、躊躇なく熙珍の足首の裏の腱を鋸で切り始めた。熙珍が悲鳴とともに血を四方に撒き散らした。思っていたよりもはるかに凄惨な光景に、美延の秘書はとてもその光景を正視できず、顔を背けて目を逸らすのが精一杯だった。ざくざくと肉が切れる音が、熙珍の悲鳴にもかかわらず、はっきりと聞こえていた。

美延 : どうせ教えてくれないんでしょ。でしょ? あんたみたいなシバル女は、よく知ってる。慣れてる。人の前に据えて堂々と嘲笑うシバル女たち。自分だけが優れてると思い込んでる。

歩けなくなる程度にだけ切り残し、抵抗もできないほどに力を失った熙珍をずるずると引きずって、貯水池の深い所へ力いっぱい放り投げた。両手を覆った熙珍の血をしばし見つめ、不快そうに湖の水で急いで洗い流した。何でもないように手を払うと、熙珍の太腿に刺さったまま熙珍とともに湖の中へ沈んでいた美延の銀装刀が、淡い光の粒を弾けさせながら再び美延の手に収まった。水気ひとつない銀装刀をポケットへ仕舞った後、躊躇っていた秘書を睨みつけ、共にその場を離れた。これ以上時間は引けなかった。間もなく、東雲が昇る刻だった。中央の本廳(ホンチョウ)からかなり遠くまで出ていたため、美延の車が急いでその場を離れた時、静寂に包まれていた一鑑湖の水面に赤い血の色が浮かび上がっていた。もはや気泡すらも上がらなくなった時、白い紙が四方に翻りながら赤い血が噴き上がる一鑑湖の上に垂れ下がった。姿を見せぬ月の光を遮るように翻っていた白い紙が、その動きを止め、一斉に降り注ぐように水面を叩いた。広い面をいっぱいに振りかぶって打ちつけた白い紙が、誰もいない凄然とした湖畔で小さな爆発音を起こした時、白い紙ではなく萩の種が四方に散り飛び、白い紙とともに浅くなった水面を穿った。貯水池の深みに沈んでいた熙珍を導き、外へ放り出すように引き上げた。