Scene 25_01.
意識を失った所姬(ソヒ)を抱えていた始緣(シヨン)が、主教(シュキョウ)と晶善(ジョンソン)をもう一度呼ぼうと急いで足を踏み出した瞬間、韓服姿の見知らぬ人が中へ入ってくるところだった。一目見ただけでも、悪い人ではなかった。そして、見覚えのある姿だった。人の顔をよく覚える始緣の頭に、所姬の車のグローブボックスに入っていった一枚の写真が浮かんだ。所姬を育ててくれたお母さんだという確信が生まれた。急いでいた始緣の足を一旦退かせた以心(イシム)が、手首から腕輪を散らした。両の目で見つめていた始緣を見て、以心が低い声で言った。
以心 : 始緣、ちょっと手伝ってくれますか。
かなり年上であるにもかかわらず、むやみに砕けた口をきかない丁寧な声に、しばし呆然としていた視線を急いで正した始緣が、以心の呼びかけを聞き逃すまいとした。
以心 : 所姬をちゃんと横にしてあげて。何があっても驚かないで。
始緣 : はい、はいはい。はい!!
倒れた所姬を改めて抱え直した始緣が、黒い水にびっしょりと濡れた所姬をきちんと横たえてやった。以心が鉄線を束ねた左手をそのままにしたまま、残った右手で懐に入れておいた小さな福袋を取り出した。
以心 : これを、もう少ししたら所姬の胸に振りかけて。血がたくさん出るけど、驚かないで。わかりましたね。
以心の落ち着いた声に始緣が頷いた。以心の手にあった小さな福袋を受け取った始緣。以心が左手で鉄線を握り直しながら、所姬の黒く染まった肌へ鉄線の一部の先端をそっと潜り込ませた。黒い水が鉄線から遠ざかろうと所姬の肌を伝って流れていった。最も多くの血が集まる心臓の近くまで黒い水路が到達し始めた。以心が慎重な手さばきを続けた後、残った右手で鉄線の一軸を引き寄せ、所姬の心臓付近の肌に鉄線の塊を力いっぱい突き刺した。所姬が凄まじい痛みを感じたのか、目を大きく見開いて己の胸から黒ずんだ血を噴き出した。発作のようにのたうつ所姬を始緣が必死に押さえながら狼狽すると、以心がもう少し声を張って始緣に言った。
以心 : 今、入れて!
以心の言葉に、始緣は躊躇わず手にした福袋から灰色の粉を所姬の胸へ振りかけた。所姬の口から溢れた赤い血がたちまち収まり、生じていたすべての傷が徐々に鎮まり始めた。以心が大きく振るっていたすべての鉄線を収めると、膝を落として所姬の容態を確かめた。安定し始めた所姬の呼吸を確かめた後、以心が張り詰めていた体をようやく解くようにその場にへたり込んだ。所姬も速やかに回復に向かい始めたのか、辛うじて目を開け、隣に座った以心を見つめた。
所姬 : お母さん。
以心が所姬の呼びかけに穏やかに腰を寄せて、横たわっていた所姬を抱きしめた。所姬の血に染まった衣に、以心の韓服の衽もまた赤く染まったが、以心も、所姬もさして気にしなかった。傍らで見守っていた始緣が、目まぐるしい中にあっても以心と所姬を見つめ、心の奥で深い羨望を覚えていた。以心が所姬をひょいと抱き上げ、所姬の部屋へ運んで横たえた後、再び居間へ出てきて始緣と向かい合うように腰を下ろした。しばし、以心が言葉を継がぬまま、じっと始緣を見つめた。
以心 : ありがとう。始緣のおかげで、所姬が大事に至らずに済んで。
主教を前にした時とはまるで異なる空気を纏った始緣が、以心の穏やかな慰めと感謝に、言葉をどうにも継げずにいた。以心が血にまみれた手をそっと差し出して、始緣の冷たい手を覆った。始緣の手もまた所姬の血にまみれていた。
以心 : ありがとう。
以心が何に対して礼を言っているのか、当の始緣にはわからなかったが、悪い気はしなかった。むしろ、よかった。以心の温かい手は、あれほど求めていた、しばらく忘れて過ごしていた大人の手のように感じられた。始緣が黙って自分の手をじっと見下ろした。
始緣 : あの、
以心 : 疲れたでしょう。早く休んで。近いうちにまた会えるから。
始緣 : あの、その。
以心が始緣の残りの言葉を聞こうと、しばし始緣をじっと見つめた。
始緣 : 私は、何もしてないので。
以心が始緣の言葉に首を横に振った。
以心 : 始緣は、もうたくさんのことをしてくれました。だから、心配しないで。痛くないように。怪我しないように。
以心が先に体を起こした。大きく起こした体と共に、まだ握っていた始緣の手をそっと引いて、始緣まで立ち上がらせた。始緣は自分を立たせてくれた以心と共に立ち上がり、所姬の部屋へ向かった。所姬の隣に始緣を座らせた以心が、始緣の小さな背中をぽんぽんと叩いた。
以心 : もう少しだけ見守ってあげて。何もないと思うけど、もしあったらここに、
以心が自分の名前が記された小さな名刺を始緣の隣に置いた。
以心 : 連絡くれたらすぐ来ますから。今は所姬にも、始緣にも、休息が必要だと思います。
以心が始緣の冷たい手を放し、体を翻して外へ向かった。始緣が外へ出ていく以心の後ろ姿をしばらく見つめていた。
Scene 25_02.
以心(イシム)が己の体にべったりと付いた血を拭うこともできぬまま、所姬が暮らしていた古びたアパートを出るところだった。駐車場に停めてあった主教の車がまだ動いていなかった。以心が薄い微笑みを浮かべたまま、車へ歩みを進めた。助手席からドアを開けて出てきた晶善が、しゃくり上げながら腰を折った。以心が晶善の子供のような涙を見て怪訝そうにした。
以心 : アニ、一従長。どうして泣いてるんですか。
晶善 : あ、その。私。お酒飲んだって。主教に怒られて……。
晶善の身の上嘆きが終わりを結べなかった。中型車の後部ドアが開き、主教が身を外へ乗り出した。
香林(ヒャンリム) : 中は、片付いたか?
以心 : もう、オンニ。アニ、若い子同士はしゃいでお酒も飲めるでしょうに。それをなんで。わざわざ、
香林 : 私があれほど、大事を控えて酒を飲むなと言ったのに。晶善はどうしてもそういう話だけは聞かないんだから。
以心 : でも、無事だったんだからよかったじゃないですか。怒らないでちゃんと—
香林 : お前も知暎を叱るだろう。酒を飲むたびに。
さほど近くない場所に停めてあった知暎(ジヨン)の車から、知暎のくしゃみが弾けた。車が見えないほどの距離だったが、大きなくしゃみの音はかなりはっきりと聞こえていた。團長(ダンチョウ)がきまり悪そうに笑みを浮かべたまま、深く腰を折った。主教も團長の挨拶に合わせて軽く腰を折った。互いに挨拶を交わした後、二人が静かに見つめ合った。
團長 : 感謝いたします。主教。
主教 : そのようなことはない。團長。私がイスンに留まる間に、使節をお目にかかれるとは思わなかったゆえ。私の方こそ、より感謝しているよ。
團長 : 大きな御決断を下してくださり、私はどのようにお伝えすればよいかわからぬほどです。それから、一従長、
團長が晶善を見つめた。晶善がいつの間にか、しゃくり上げることすら残さぬ顔色で、團長と向き合った。
晶善 : はい。團長。
團長が深く腰を折った。折った腰の下から、以心の偽りなき涙が落ちた。晶善が驚いた目で、腰を折る間もなく駆け寄り、深く頭を下げた團長をどうすることもできず、途方に暮れていた。
以心 : 申し訳ありません。
香林が歩み寄り、以心の肩をしとやかに撫で、深く頭を下げた以心を起こしてやった。
香林 : 以心。
香林の低い声に、以心はとても返事を返せずにいた。悲しみの涙が顔いっぱいに溢れたまま、香林の呼びかけに何も答えられなかった。香林は以心を大切に抱きしめ、以心の哀しみをあやした。
以心 : オンニの娘が……。オンニの娘なのに。私も一緒に育てた、私の子なのに。ごめんなさい。本当に。
香林が悲しみの涙を流す以心の背を撫でた。
香林 : ただ、いつか。私たちの子供たちが互いに仲良く過ごしてくれたら、それでいい。だから抱いたのだし、だから抱くことができたのだから。今は私も胸が痛いし、お前も面目がないと思っているだろうけれど、違う。そのようなことではないというのは、実のところ、私と晶善が今日二つの目で確かめることができた。そう、むしろありがたかった。お前と私には、もったいないほどの子供たちだったよ。だから、鎮めなさい。お前は、お前の務めを果たした。私たちは、私たちの務めを果たしたのだから。
以心 : ごめんなさい。みんなに。
香林 : そのおかげで、みなが息をできるようになったのだから。もう、自分を責めないでほしい。ただ、まだ始まりに過ぎないのだから。お前も心を固くして。
香林のあやしに、以心はたちまち涙を隠し始めた。始まりに過ぎないというその言葉が、以心を鎮めることができた。大きく息を吐いた以心が、頷いたまま、香林のあやしから体を離した。
團長 : 改めてもう一度。お二方に感謝いたします。
深い礼を伝えた團長に、主教と晶善の二人もまた深く礼を返した。いつの間にか彼らの近くまで歩み寄っていた知暎が、両手を丁寧に重ね、主教と晶善に挨拶を送った。
知暎 : 主教。姜知暎と申します。
晶善が始緣とうり二つの知暎を見て、しばし驚きの色を浮かべた。主教が知暎の姿を見て、歩みを進めて知暎に近づき、その手をそっと握ってやった。
主教 : お前は、苦労が多かろう。
知暎が黙って首を横に振った。
知暎 : 私よりも母の方がもっとお辛いと思います。主教のお力添え、いつも感謝しております。
主教 : そうか。お前は、変わりなく過ごしていたか。
知暎 : もちろんです。お二方のお世話のおかげで、私たちみな元気に過ごしております。ありがとうございます。
年齢がそこまで離れているわけでもない知暎の姿を見て、晶善が驚きを隠せずにいた。中で見た始緣と本当にそっくりな姿だった。主教が晶善をちらりと見て知暎を指した。
香林 : 見たか。
晶善 : は、はい??
香林 : お前もちょっとな? その。このオンニを少し見習って、言うことも少しは聞いて、な?
知暎 : これはまさか。お母さんの友達の娘……。
香林 : お前もだから。
晶善が大変なことになったという顔で、香林の腕をひっ掴み、急いで車に飛び乗った。
意識を失った所姬(ソヒ)を抱えていた始緣(シヨン)が、主教(シュキョウ)と晶善(ジョンソン)をもう一度呼ぼうと急いで足を踏み出した瞬間、韓服姿の見知らぬ人が中へ入ってくるところだった。一目見ただけでも、悪い人ではなかった。そして、見覚えのある姿だった。人の顔をよく覚える始緣の頭に、所姬の車のグローブボックスに入っていった一枚の写真が浮かんだ。所姬を育ててくれたお母さんだという確信が生まれた。急いでいた始緣の足を一旦退かせた以心(イシム)が、手首から腕輪を散らした。両の目で見つめていた始緣を見て、以心が低い声で言った。
以心 : 始緣、ちょっと手伝ってくれますか。
かなり年上であるにもかかわらず、むやみに砕けた口をきかない丁寧な声に、しばし呆然としていた視線を急いで正した始緣が、以心の呼びかけを聞き逃すまいとした。
以心 : 所姬をちゃんと横にしてあげて。何があっても驚かないで。
始緣 : はい、はいはい。はい!!
倒れた所姬を改めて抱え直した始緣が、黒い水にびっしょりと濡れた所姬をきちんと横たえてやった。以心が鉄線を束ねた左手をそのままにしたまま、残った右手で懐に入れておいた小さな福袋を取り出した。
以心 : これを、もう少ししたら所姬の胸に振りかけて。血がたくさん出るけど、驚かないで。わかりましたね。
以心の落ち着いた声に始緣が頷いた。以心の手にあった小さな福袋を受け取った始緣。以心が左手で鉄線を握り直しながら、所姬の黒く染まった肌へ鉄線の一部の先端をそっと潜り込ませた。黒い水が鉄線から遠ざかろうと所姬の肌を伝って流れていった。最も多くの血が集まる心臓の近くまで黒い水路が到達し始めた。以心が慎重な手さばきを続けた後、残った右手で鉄線の一軸を引き寄せ、所姬の心臓付近の肌に鉄線の塊を力いっぱい突き刺した。所姬が凄まじい痛みを感じたのか、目を大きく見開いて己の胸から黒ずんだ血を噴き出した。発作のようにのたうつ所姬を始緣が必死に押さえながら狼狽すると、以心がもう少し声を張って始緣に言った。
以心 : 今、入れて!
以心の言葉に、始緣は躊躇わず手にした福袋から灰色の粉を所姬の胸へ振りかけた。所姬の口から溢れた赤い血がたちまち収まり、生じていたすべての傷が徐々に鎮まり始めた。以心が大きく振るっていたすべての鉄線を収めると、膝を落として所姬の容態を確かめた。安定し始めた所姬の呼吸を確かめた後、以心が張り詰めていた体をようやく解くようにその場にへたり込んだ。所姬も速やかに回復に向かい始めたのか、辛うじて目を開け、隣に座った以心を見つめた。
所姬 : お母さん。
以心が所姬の呼びかけに穏やかに腰を寄せて、横たわっていた所姬を抱きしめた。所姬の血に染まった衣に、以心の韓服の衽もまた赤く染まったが、以心も、所姬もさして気にしなかった。傍らで見守っていた始緣が、目まぐるしい中にあっても以心と所姬を見つめ、心の奥で深い羨望を覚えていた。以心が所姬をひょいと抱き上げ、所姬の部屋へ運んで横たえた後、再び居間へ出てきて始緣と向かい合うように腰を下ろした。しばし、以心が言葉を継がぬまま、じっと始緣を見つめた。
以心 : ありがとう。始緣のおかげで、所姬が大事に至らずに済んで。
主教を前にした時とはまるで異なる空気を纏った始緣が、以心の穏やかな慰めと感謝に、言葉をどうにも継げずにいた。以心が血にまみれた手をそっと差し出して、始緣の冷たい手を覆った。始緣の手もまた所姬の血にまみれていた。
以心 : ありがとう。
以心が何に対して礼を言っているのか、当の始緣にはわからなかったが、悪い気はしなかった。むしろ、よかった。以心の温かい手は、あれほど求めていた、しばらく忘れて過ごしていた大人の手のように感じられた。始緣が黙って自分の手をじっと見下ろした。
始緣 : あの、
以心 : 疲れたでしょう。早く休んで。近いうちにまた会えるから。
始緣 : あの、その。
以心が始緣の残りの言葉を聞こうと、しばし始緣をじっと見つめた。
始緣 : 私は、何もしてないので。
以心が始緣の言葉に首を横に振った。
以心 : 始緣は、もうたくさんのことをしてくれました。だから、心配しないで。痛くないように。怪我しないように。
以心が先に体を起こした。大きく起こした体と共に、まだ握っていた始緣の手をそっと引いて、始緣まで立ち上がらせた。始緣は自分を立たせてくれた以心と共に立ち上がり、所姬の部屋へ向かった。所姬の隣に始緣を座らせた以心が、始緣の小さな背中をぽんぽんと叩いた。
以心 : もう少しだけ見守ってあげて。何もないと思うけど、もしあったらここに、
以心が自分の名前が記された小さな名刺を始緣の隣に置いた。
以心 : 連絡くれたらすぐ来ますから。今は所姬にも、始緣にも、休息が必要だと思います。
以心が始緣の冷たい手を放し、体を翻して外へ向かった。始緣が外へ出ていく以心の後ろ姿をしばらく見つめていた。
Scene 25_02.
以心(イシム)が己の体にべったりと付いた血を拭うこともできぬまま、所姬が暮らしていた古びたアパートを出るところだった。駐車場に停めてあった主教の車がまだ動いていなかった。以心が薄い微笑みを浮かべたまま、車へ歩みを進めた。助手席からドアを開けて出てきた晶善が、しゃくり上げながら腰を折った。以心が晶善の子供のような涙を見て怪訝そうにした。
以心 : アニ、一従長。どうして泣いてるんですか。
晶善 : あ、その。私。お酒飲んだって。主教に怒られて……。
晶善の身の上嘆きが終わりを結べなかった。中型車の後部ドアが開き、主教が身を外へ乗り出した。
香林(ヒャンリム) : 中は、片付いたか?
以心 : もう、オンニ。アニ、若い子同士はしゃいでお酒も飲めるでしょうに。それをなんで。わざわざ、
香林 : 私があれほど、大事を控えて酒を飲むなと言ったのに。晶善はどうしてもそういう話だけは聞かないんだから。
以心 : でも、無事だったんだからよかったじゃないですか。怒らないでちゃんと—
香林 : お前も知暎を叱るだろう。酒を飲むたびに。
さほど近くない場所に停めてあった知暎(ジヨン)の車から、知暎のくしゃみが弾けた。車が見えないほどの距離だったが、大きなくしゃみの音はかなりはっきりと聞こえていた。團長(ダンチョウ)がきまり悪そうに笑みを浮かべたまま、深く腰を折った。主教も團長の挨拶に合わせて軽く腰を折った。互いに挨拶を交わした後、二人が静かに見つめ合った。
團長 : 感謝いたします。主教。
主教 : そのようなことはない。團長。私がイスンに留まる間に、使節をお目にかかれるとは思わなかったゆえ。私の方こそ、より感謝しているよ。
團長 : 大きな御決断を下してくださり、私はどのようにお伝えすればよいかわからぬほどです。それから、一従長、
團長が晶善を見つめた。晶善がいつの間にか、しゃくり上げることすら残さぬ顔色で、團長と向き合った。
晶善 : はい。團長。
團長が深く腰を折った。折った腰の下から、以心の偽りなき涙が落ちた。晶善が驚いた目で、腰を折る間もなく駆け寄り、深く頭を下げた團長をどうすることもできず、途方に暮れていた。
以心 : 申し訳ありません。
香林が歩み寄り、以心の肩をしとやかに撫で、深く頭を下げた以心を起こしてやった。
香林 : 以心。
香林の低い声に、以心はとても返事を返せずにいた。悲しみの涙が顔いっぱいに溢れたまま、香林の呼びかけに何も答えられなかった。香林は以心を大切に抱きしめ、以心の哀しみをあやした。
以心 : オンニの娘が……。オンニの娘なのに。私も一緒に育てた、私の子なのに。ごめんなさい。本当に。
香林が悲しみの涙を流す以心の背を撫でた。
香林 : ただ、いつか。私たちの子供たちが互いに仲良く過ごしてくれたら、それでいい。だから抱いたのだし、だから抱くことができたのだから。今は私も胸が痛いし、お前も面目がないと思っているだろうけれど、違う。そのようなことではないというのは、実のところ、私と晶善が今日二つの目で確かめることができた。そう、むしろありがたかった。お前と私には、もったいないほどの子供たちだったよ。だから、鎮めなさい。お前は、お前の務めを果たした。私たちは、私たちの務めを果たしたのだから。
以心 : ごめんなさい。みんなに。
香林 : そのおかげで、みなが息をできるようになったのだから。もう、自分を責めないでほしい。ただ、まだ始まりに過ぎないのだから。お前も心を固くして。
香林のあやしに、以心はたちまち涙を隠し始めた。始まりに過ぎないというその言葉が、以心を鎮めることができた。大きく息を吐いた以心が、頷いたまま、香林のあやしから体を離した。
團長 : 改めてもう一度。お二方に感謝いたします。
深い礼を伝えた團長に、主教と晶善の二人もまた深く礼を返した。いつの間にか彼らの近くまで歩み寄っていた知暎が、両手を丁寧に重ね、主教と晶善に挨拶を送った。
知暎 : 主教。姜知暎と申します。
晶善が始緣とうり二つの知暎を見て、しばし驚きの色を浮かべた。主教が知暎の姿を見て、歩みを進めて知暎に近づき、その手をそっと握ってやった。
主教 : お前は、苦労が多かろう。
知暎が黙って首を横に振った。
知暎 : 私よりも母の方がもっとお辛いと思います。主教のお力添え、いつも感謝しております。
主教 : そうか。お前は、変わりなく過ごしていたか。
知暎 : もちろんです。お二方のお世話のおかげで、私たちみな元気に過ごしております。ありがとうございます。
年齢がそこまで離れているわけでもない知暎の姿を見て、晶善が驚きを隠せずにいた。中で見た始緣と本当にそっくりな姿だった。主教が晶善をちらりと見て知暎を指した。
香林 : 見たか。
晶善 : は、はい??
香林 : お前もちょっとな? その。このオンニを少し見習って、言うことも少しは聞いて、な?
知暎 : これはまさか。お母さんの友達の娘……。
香林 : お前もだから。
晶善が大変なことになったという顔で、香林の腕をひっ掴み、急いで車に飛び乗った。
