胡蝶別曲 (나비별곡) : 乱れ蝶の詩 (みだれちょうのうた)

Scene 15.

自分の部屋へ入った熙珍(ヒジン)がホロン火を灯したまま、ぼんやりとした視線を収めずにいた。じっと座っていた熙珍が眼鏡を直しながら電話を開き、電話をかけた。さほど遠くない場所から感じ取れる気配を放置したまま、しばらく電話を続けていた熙珍の耳元に、聞き慣れた声が届いた。

連曦 : はい。集賢館長。

熙珍 : いやいや、週末の夜にそんな。連曦。体の調子はどう。

連曦 : 大丈夫ですよ。

熙珍 : ん? どこにいるの、ちょっとうるさいね?


Scene 16.

連曦(ヨンヒ)が電話を肩と耳の間に挟み込んだまま、延秀(ヨンス)と一緒にゲームをしていた。集中してどうにか必死に勝とうとしたが、連曦が握るパッドは連曦の思い通りに動いてくれなかった。ついに延秀が対戦ゲームで勝利を収めた。二十戦以上連勝を重ねた延秀が素っ気なく連曦を見やった。連曦がきちんと電話を持ち直して通話を続けた。

延秀 : まったく。ほんとゲーム下手だよね。

連曦 : はい。今、延秀とプレステルームに来てるんです。延秀がやたらせがむから。で、どうしたんですか。


Scene 17.

熙珍 : あ、延秀と一緒なんだ。忙しかったら後にするよ。体大丈夫かなと思って電話したの。また怪我したって聞いて、ちゃんと電話もでき—

電話が転がり落ちるように床へ叩きつけられたまま、飛んできた刃に深々と貫かれた。熙珍が驚いた目で慌てて横を見やった時、美延(ミヨン)が熙珍に飛びかかり床へ押し倒すと、素早く熙珍の両手首に금줄(禁繩:クムズル)を巻いた。

連曦 : え? もしもし? オンニ?

怒りを顔いっぱいに湛えた美延が、熙珍の電話を足で踏み砕いた。口元にねちねちとした嘲りを満面にたたえた美延が熙珍をじっと見下ろし、熙珍の電話を踏み潰したのと同じように、熙珍の頭を足で力任せに踏みつけた。


Scene 18.

連曦が不審さを覚えたまま、切れた電話を見つめた。

延秀 : どうしたの? 何かあった?

連曦 : ううん、電話が急に切れて。

延秀 : バッテリー切れでしょ。行こう。明日オンニも出勤しなきゃだし。

連曦 : うん。そうだね。ちょっとだけ待って。

連曦が電話をかけた。


Scene 19.

慶瑞(ギョンソ)が深夜に試薬瓶を手にして自分の小さな執務室へ入ってきた。かなり怒った表情で試薬瓶を持ったまま、空の卷子(トゥルマリ)を取り出し、その上へ試薬瓶に入った검은 물(黑水:コムンムル)を注いだ。黒い水が湿地のように染み込んで消えると、その上に小さく黒い粒が残っていた。검은 모래(黒砂:コムンモレ)だった。深く溜息をついた。静まり返っていた執務室の中へ小さな振動が響き渡った。電話に出た慶瑞の声は、酒気のかけらも残っていない静けさと怒りに満ちていた。

慶瑞 : ちょうどよかった。こっちからしようと思ってたところ。


Scene 20.

連曦 : どうしたの? 何かあった?

連曦が怪訝そうな顔で慶瑞に尋ねた。

慶瑞 : 始緣にやり方を教えたやつ。コムンモレだよ。智胤の血じゃない。

連曦がしばらく言葉を止めた。最悪の事態だと思った。少し前、團長がフィンモレを頼んだ理由が、コムンモレを制御するためだったという事実に遅れて気づいた。連曦が急いで立ち上がり、しばしプレステルームの外へ足を運んだ。延秀が付いて出ようとしたが、連曦が手振りで延秀を座らせた後、一人で急いで外へ出た。


Scene 21.

慶瑞 : どういう意味かわかるでしょ。これ、あいつだけじゃなくて、延秀まで巻き込まざるを得ないようにしたの。公にもできないように。私たちの中でコムンモレを使う人間があいつと延秀しかいないから。

連曦 : 延秀は絶対にそんな—

慶瑞の静かな怒りが続いた。

慶瑞 : わかってる。スススッカンの分際でそんな大胆なこと、するわけないってことも。でも律法はそう見ない。私は見なかったことにする。呪術の残滓を消す薬の準備も終わってるし。でも、オンニ。


Scene 22.

連曦が黙って慶瑞の話を聞いていた。

慶瑞 : いつまでもオンニみたいに優しくしてたら、全部失うかもしれないよ。オンニが守ろうとしてるもの全部。

連曦は答えられなかった。連曦の深い沈黙に慶瑞がそれ以上何も言わず、軽い溜息と共に話を変えた。

慶瑞 : で、なんで電話してきたの?

慶瑞の問いに連曦も軽い溜息で返しながら、しばし話題を逸らした。

連曦 : 熙珍オンニもしかして、本廳にいる?


Scene 23.

連曦の問いに慶瑞が首を巡らせ、遠くに位置する熙珍の宿舎を確かめた。ホロン火に映し出された影が一つ、そこにあった。

慶瑞 : うん。そうみたいだね。寝る支度してるんじゃない。

連曦 : あ。そうなんだ。

慶瑞 : それはまたなんで?

連曦 : 急に電話が切れたから。ありがとう。


Scene 24.

慶瑞 : とにかく、私の話。肝に銘じて。

連曦 : うん。わかった。お願いね。私が言うまでは—

慶瑞 : 私はオンニが言ったとしても何も見てないことにするから。どうせもうすぐ、始緣の体に残った残滓も消えるし。それに、今日何かするって言ってたから。

連曦 : うん。ありがとう。

連曦が力なく電話を下ろした。しばし深い思案に沈んだように、片手で腕を組んだ連曦が、ぼんやりとした考えを続けている間に、中にいた延秀がひょこりと顔を覗かせて連曦の様子を窺った。そんな延秀の気配に連曦が顔を上げ、大したことではないという表情で延秀に歩み寄った。外に半分ほど身を乗り出した延秀の腕組みを、連曦は黙って受け入れた。延秀もあえて連曦が受けていた電話のことを尋ねはしなかった。

延秀 : あー。今日楽しかった。

連曦 : あんたはゲーム好きだし上手いけど、私はずっと負けてばっかりだし。私ほんとに下手。

延秀 : でも、妹と遊んでやるっていつも一緒に来てくれるくせに何言ってんの。私もオンニと遊ぶのが好きだからそうしてるんだよ。次はオンニの好きなことしよう。

連曦 : うん。早く行こう。疲れたでしょ。あんた。

連曦が延秀と共にプレステルームを出た。