Scene 12.
所姬がすっかり苛立った表情で、油汚れのこびりついた食器をごしごしと洗っていた。シンクの向こうまで水が飛び散るほどごしごしと皿を洗うと、思い切り水を浴びせられた知暎が所姬を落ち着かせようとした。
知暎 : おい、なんで関係ないあたしにまで水ぶっかけんの??
所姬 : あ。ごめん。後で何が起きるか目に見えてて。つい。
知暎 : ん? 何があるの? あたしが行って手伝わなきゃダメ?
所姬 : ううん。そっちじゃなくて。ううう。行ったら家の中が修羅場だと思う。
知暎 : なんで??
所姬 : あいつら。酒飲んでる。一人は知っての通りもう前後不覚だし。
以心 : ん? 一従長も?
所姬 : あの人、意外とバカなんですよ。
以心がソファに座って衣服を整えていた。家で着ていた楽な服を退けた以心が、いつの間にか着替えた韓服の裾を丁寧に整えていた。所姬のぼやきに以心が意外だという顔をして、所姬を見つめた。
以心 : なぜ?
所姬 : あ、だから。ううう。バカはちょっとアレだけど。なんか。本当にすごおおく善くて純粋な。そういう人。
以心がそういうこともあるだろうと頷きながら、ソファテーブルの上に置かれた鏡台へ再び視線を移した。知暎が所姬の皿を受け取ると、所姬が嵌めていたゴム手袋を脱がせた。
所姬 : なんで??
知暎 : 行って早く片付けなよ。ここはあたしが片付けるから。お母さんと一緒に行かなきゃいけないんじゃなければ、先に行って片付けてなって。
所姬 : ううん。やってから行っても大丈夫。
知暎 : これ以上置いたら、あたしが洗い物の水でシャワー浴びることになりそうだから。
知暎の勧めと叱咤に、所姬が申し訳ない気配を漂わせた。残ったゴム手袋も脱いで置いた後、急いで身支度を始めた所姬。
所姬 : はあ……。良い人なのは分かってたけど、一緒にバカになりやすい人だとは思わなかった。私も。
知暎 : 所姬。大丈夫だから。気を遣わないで、行って早く用事済ませな。あいつらがもっと滅茶苦茶にする前に。あたしと同じ鏡なら、きっととっくに限度を超えてるよ。よく分かるでしょ。
所姬 : もう滅茶苦茶にはなってるんだけど、はあ。オンニごめん。洗い物お願いしていい。
知暎 : 大丈夫。早く行きな。
所姬 : お母さん! 先に行きますね! このおバカさんたちのせいでダメです。後でお伺いします。
以心 : うん。後でね。うちの娘。
所姬 : はい! オンニごめん!
所姬が足早に外へ出た。知暎が洗い物を仕上げようとすると、以心が出てきて知暎の隣に歩み寄った。知暎が母を押しとどめ、再びソファへ連れ戻して以心を座らせた。
知暎 : あぁもう。お母さん。座ってなってば。服まで韓服に全部着替えたくせに、石鹸の泡まみれになったらどうすんの。
Scene 13.
연희(連曦:ヨンヒ)が연수(延秀:ヨンス)と共に食事の後片付けをしていた。延秀が洗い物を手伝う傍らで、連曦が食卓を拭いていた。延秀がいきなり連曦を見つめ、声を荒げた。
延秀 : アニ、ちょっと待って。ていうか考えてみたらムカつくんだけど。
連曦 : ん? 何が?
延秀 : あのクソ野郎はなんで毎回姉さんばっかりいじめるわけ? たかがフィンモレ一つ手に入れようってあんなジラル大騒ぎするのかよ?? いや、それが目的で合ってんの??
連曦が布巾を片付けながらシンクへ歩みを移した。延秀が出しっぱなしの水をいったん止め、唐突な苛立ちを連曦にぶつけた。止まった蛇口を連曦が再び捻り、布巾を洗った。
連曦 : 原流(ゲンリュウ)を宿した遺物(イブツ)が、そう多くないからそうなるんだと思う。まあ、私が譲れるなら、とっくにお兄ちゃんに渡してたけど、同じ行列では死なない限り受け継ぐこともできないから。
延秀 : それをなんでそんな淡々と言えるわけ?
連曦 : できないって分かってるから。しないことも分かってる。それが目的じゃないこと、お前も、私もよく分かってるでしょ?
延秀 : もう四回も死にかけてるじゃん。
連曦 : 生きてるじゃん。
延秀 : 殺そうとしたのは事実じゃん。
連曦 : でも、最後までは出来ないよ。私がちょっと辛くて苦しいのは確かだろうけど。
連曦が布巾をぱっと広げ、シンクの端にクリップで吊るした。
連曦 : お兄ちゃんだって罪悪感がないわけじゃないだろうし。
延秀 : あいつが? ハ! よく言うよ。あのシバル野郎が。
連曦 : 悪口。また。
延秀が再び水を出して洗い物を始めた。連曦が黙って濡れた手を拭いた後、先に食卓へ腰を下ろした。
延秀 : あたしの記憶じゃ、母さんが残れなかったのは、全部あいつのせいだよ。姉さんがその役をあたしにしてくれたのも、分かってる。だからこそもっと不安なんだよ。なのに、姉さんは理由も教えてくれないし。
延秀の不安と心配を連曦が知らないはずがなかった。それでも、確かな事実もあった。유석(惟碩:ユイセキ)が苦しんだり喪失感に沈む人間ではないが、道義と相反する自意の逡巡はいつも感じ取れていた。だから初めて今回、自ら乗り出したのだろうと思った。
連曦 : 実は今回も、お兄ちゃんが直接出てきたの。
延秀が拭いていた皿の手を止めた。驚いた兎の目のようにまん丸く見開いた目を上げ、連曦を見つめた。連曦が延秀と目を合わせぬまま、落ち着いて言葉を続けた。
連曦 : 私を縛って殴って、脅して。私も腹が立ったよ。でも、最後に殺すのは自分の手じゃできなかったのか、刃物で脅すだけだった。子供みたいに。
延秀 : この事実、誰と誰が知ってるの。
連曦 : 私を助けてくれた方と、お前だけ。
延秀 : じゃああたしが公にすれば、あいつは終わりだな?
連曦 : 難しい。呪術を私に使ったわけじゃないから。
延秀 : そこまで用意周到な奴をなんで庇うの?
連曦 : ううん、庇ってない。悪いことは罰を受ける。罰する。でも。死んではほしくない。
延秀 : あいつは姉さんを殺そうとしたのに?
連曦がしばし息を整え、落ち着いて延秀を呼んだ。
連曦 : 延秀。
延秀 : 何。
連曦 : 「恨」って分かる?
延秀 : あたしの知ったことかよ。シバル 恨なんか。
連曦 : 正直。まだ、私にも理解できない。でも、一瞬感じたの。なぜあんなに意地を張るのか。なぜやってはいけないことを、命を懸けてやっているのか。私が、目的ではないんじゃないか、って。
延秀 : は?
連曦 : 今、お兄ちゃんが狙ってるのは。表向きには私のフィンモレで合ってる。分かってる。でも、あの砂がもしお前に渡ったとしても、お前には手を出さないよ。もちろん、口ではお前も私みたいに苦しめてやると言うけど。
延秀 : じゃあ。
連曦 : 私を助けてくれている方を狙ってるんじゃないかと思う。そして、その方がどんな方なのかも、たぶん予想はついてるんじゃないかな。だから、わざわざ私を囮にしながら律法は破りたくないんだろうし。ただ考えてみれば簡単じゃない。私を殺すのに呪術を使えない理由なんて他にある? ただ殺して埋めてしまえば誰にも分からないのに。なのに、呪術を最後まで使わないじゃない。本当に死ぬ寸前まで行かなければ出てこないと分かっているかのように。死ぬ直前まで追い詰めるだけで。
延秀 : 良く考えすぎじゃないの? 失敗したときバレたら困るから、ただ呪術使わない臆病者を。
連曦 : 私も、やっと。あの方が誰なのか分かったから。だから、確信が持てた。もしかしたら、私の業かもしれないけど。だから余計に助けたいと思ってくださっているみたいだし。
延秀 : それ誰なんだよ。誰を隠してるんだ? 姉さんもあいつも?
連曦 : ごめんね。まだ言えない。
延秀が再び皿を洗い始めた。皿の縁にたぷたぷと寄せた水を振り切り、食洗機の中へ入れて片付けた。
延秀 : めちゃくちゃ大事な人なんだな。
延秀が食洗機を回してから、かえって自分の方が理不尽だとでも言うように口ごもりながら、連曦に詰め寄るように尋ねた。
延秀 : でもさ、じゃあ。姉さんの言う通りだとしよう。じゃあ、姉さんはずっとその人の囮をやりながら毎回死にかけて怪我して、そうやって生きなきゃいけないの? その人は姉さんを助けるだけで?? あいつをさっさと消せば済む話じゃん?? その人も姉さんみたいにもどかしい人なの??
連曦 : じきに、終わると思う。たぶん。
延秀 : 聖人君子なの? 仙人なの? 殴られすぎてイカれたの? それとも、ストックホルム症候群? もうあいつが可哀想に見えてきた??
連曦 : ただ、なんていうか。理由のある歩みだと思う。私が理解した瞬間、私の中にあった怒りが少し、変わったの。
延秀 : 怒りが変わって恨になったって?
連曦が黙って微笑みながら頷いた。
延秀 : あぁもう この未練がましい姉ちゃんは。怒りを吐き出せよ。ただ。怒って中に溜まったもんを吐き出せって。火病ってわけでもないのにさ。
連曦が伸びをするように食卓から体を起こした。
連曦 : それでも、お前に話したら少しすっきりしたかな。
延秀 : あたしはめちゃくちゃモヤモヤしてるんだけど? 責任取れ。
連曦 : お姉ちゃんと出かけて風に当たらない? お腹もいっぱいだし。
延秀が片付け終えた洗い物を整えた後、濡れた手を乾いたタオルで拭いてから連曦に歩み寄った。連曦より背の高い延秀が連曦をじっと見下ろした。
延秀 : 痛い思いするな。怪我するなよ。
連曦 : うん。ありがとう。
延秀 : 出よう。食洗機が回ってる間にちょっと外で風に当たろう。あたしがアイス買ってやろうか?
所姬がすっかり苛立った表情で、油汚れのこびりついた食器をごしごしと洗っていた。シンクの向こうまで水が飛び散るほどごしごしと皿を洗うと、思い切り水を浴びせられた知暎が所姬を落ち着かせようとした。
知暎 : おい、なんで関係ないあたしにまで水ぶっかけんの??
所姬 : あ。ごめん。後で何が起きるか目に見えてて。つい。
知暎 : ん? 何があるの? あたしが行って手伝わなきゃダメ?
所姬 : ううん。そっちじゃなくて。ううう。行ったら家の中が修羅場だと思う。
知暎 : なんで??
所姬 : あいつら。酒飲んでる。一人は知っての通りもう前後不覚だし。
以心 : ん? 一従長も?
所姬 : あの人、意外とバカなんですよ。
以心がソファに座って衣服を整えていた。家で着ていた楽な服を退けた以心が、いつの間にか着替えた韓服の裾を丁寧に整えていた。所姬のぼやきに以心が意外だという顔をして、所姬を見つめた。
以心 : なぜ?
所姬 : あ、だから。ううう。バカはちょっとアレだけど。なんか。本当にすごおおく善くて純粋な。そういう人。
以心がそういうこともあるだろうと頷きながら、ソファテーブルの上に置かれた鏡台へ再び視線を移した。知暎が所姬の皿を受け取ると、所姬が嵌めていたゴム手袋を脱がせた。
所姬 : なんで??
知暎 : 行って早く片付けなよ。ここはあたしが片付けるから。お母さんと一緒に行かなきゃいけないんじゃなければ、先に行って片付けてなって。
所姬 : ううん。やってから行っても大丈夫。
知暎 : これ以上置いたら、あたしが洗い物の水でシャワー浴びることになりそうだから。
知暎の勧めと叱咤に、所姬が申し訳ない気配を漂わせた。残ったゴム手袋も脱いで置いた後、急いで身支度を始めた所姬。
所姬 : はあ……。良い人なのは分かってたけど、一緒にバカになりやすい人だとは思わなかった。私も。
知暎 : 所姬。大丈夫だから。気を遣わないで、行って早く用事済ませな。あいつらがもっと滅茶苦茶にする前に。あたしと同じ鏡なら、きっととっくに限度を超えてるよ。よく分かるでしょ。
所姬 : もう滅茶苦茶にはなってるんだけど、はあ。オンニごめん。洗い物お願いしていい。
知暎 : 大丈夫。早く行きな。
所姬 : お母さん! 先に行きますね! このおバカさんたちのせいでダメです。後でお伺いします。
以心 : うん。後でね。うちの娘。
所姬 : はい! オンニごめん!
所姬が足早に外へ出た。知暎が洗い物を仕上げようとすると、以心が出てきて知暎の隣に歩み寄った。知暎が母を押しとどめ、再びソファへ連れ戻して以心を座らせた。
知暎 : あぁもう。お母さん。座ってなってば。服まで韓服に全部着替えたくせに、石鹸の泡まみれになったらどうすんの。
Scene 13.
연희(連曦:ヨンヒ)が연수(延秀:ヨンス)と共に食事の後片付けをしていた。延秀が洗い物を手伝う傍らで、連曦が食卓を拭いていた。延秀がいきなり連曦を見つめ、声を荒げた。
延秀 : アニ、ちょっと待って。ていうか考えてみたらムカつくんだけど。
連曦 : ん? 何が?
延秀 : あのクソ野郎はなんで毎回姉さんばっかりいじめるわけ? たかがフィンモレ一つ手に入れようってあんなジラル大騒ぎするのかよ?? いや、それが目的で合ってんの??
連曦が布巾を片付けながらシンクへ歩みを移した。延秀が出しっぱなしの水をいったん止め、唐突な苛立ちを連曦にぶつけた。止まった蛇口を連曦が再び捻り、布巾を洗った。
連曦 : 原流(ゲンリュウ)を宿した遺物(イブツ)が、そう多くないからそうなるんだと思う。まあ、私が譲れるなら、とっくにお兄ちゃんに渡してたけど、同じ行列では死なない限り受け継ぐこともできないから。
延秀 : それをなんでそんな淡々と言えるわけ?
連曦 : できないって分かってるから。しないことも分かってる。それが目的じゃないこと、お前も、私もよく分かってるでしょ?
延秀 : もう四回も死にかけてるじゃん。
連曦 : 生きてるじゃん。
延秀 : 殺そうとしたのは事実じゃん。
連曦 : でも、最後までは出来ないよ。私がちょっと辛くて苦しいのは確かだろうけど。
連曦が布巾をぱっと広げ、シンクの端にクリップで吊るした。
連曦 : お兄ちゃんだって罪悪感がないわけじゃないだろうし。
延秀 : あいつが? ハ! よく言うよ。あのシバル野郎が。
連曦 : 悪口。また。
延秀が再び水を出して洗い物を始めた。連曦が黙って濡れた手を拭いた後、先に食卓へ腰を下ろした。
延秀 : あたしの記憶じゃ、母さんが残れなかったのは、全部あいつのせいだよ。姉さんがその役をあたしにしてくれたのも、分かってる。だからこそもっと不安なんだよ。なのに、姉さんは理由も教えてくれないし。
延秀の不安と心配を連曦が知らないはずがなかった。それでも、確かな事実もあった。유석(惟碩:ユイセキ)が苦しんだり喪失感に沈む人間ではないが、道義と相反する自意の逡巡はいつも感じ取れていた。だから初めて今回、自ら乗り出したのだろうと思った。
連曦 : 実は今回も、お兄ちゃんが直接出てきたの。
延秀が拭いていた皿の手を止めた。驚いた兎の目のようにまん丸く見開いた目を上げ、連曦を見つめた。連曦が延秀と目を合わせぬまま、落ち着いて言葉を続けた。
連曦 : 私を縛って殴って、脅して。私も腹が立ったよ。でも、最後に殺すのは自分の手じゃできなかったのか、刃物で脅すだけだった。子供みたいに。
延秀 : この事実、誰と誰が知ってるの。
連曦 : 私を助けてくれた方と、お前だけ。
延秀 : じゃああたしが公にすれば、あいつは終わりだな?
連曦 : 難しい。呪術を私に使ったわけじゃないから。
延秀 : そこまで用意周到な奴をなんで庇うの?
連曦 : ううん、庇ってない。悪いことは罰を受ける。罰する。でも。死んではほしくない。
延秀 : あいつは姉さんを殺そうとしたのに?
連曦がしばし息を整え、落ち着いて延秀を呼んだ。
連曦 : 延秀。
延秀 : 何。
連曦 : 「恨」って分かる?
延秀 : あたしの知ったことかよ。シバル 恨なんか。
連曦 : 正直。まだ、私にも理解できない。でも、一瞬感じたの。なぜあんなに意地を張るのか。なぜやってはいけないことを、命を懸けてやっているのか。私が、目的ではないんじゃないか、って。
延秀 : は?
連曦 : 今、お兄ちゃんが狙ってるのは。表向きには私のフィンモレで合ってる。分かってる。でも、あの砂がもしお前に渡ったとしても、お前には手を出さないよ。もちろん、口ではお前も私みたいに苦しめてやると言うけど。
延秀 : じゃあ。
連曦 : 私を助けてくれている方を狙ってるんじゃないかと思う。そして、その方がどんな方なのかも、たぶん予想はついてるんじゃないかな。だから、わざわざ私を囮にしながら律法は破りたくないんだろうし。ただ考えてみれば簡単じゃない。私を殺すのに呪術を使えない理由なんて他にある? ただ殺して埋めてしまえば誰にも分からないのに。なのに、呪術を最後まで使わないじゃない。本当に死ぬ寸前まで行かなければ出てこないと分かっているかのように。死ぬ直前まで追い詰めるだけで。
延秀 : 良く考えすぎじゃないの? 失敗したときバレたら困るから、ただ呪術使わない臆病者を。
連曦 : 私も、やっと。あの方が誰なのか分かったから。だから、確信が持てた。もしかしたら、私の業かもしれないけど。だから余計に助けたいと思ってくださっているみたいだし。
延秀 : それ誰なんだよ。誰を隠してるんだ? 姉さんもあいつも?
連曦 : ごめんね。まだ言えない。
延秀が再び皿を洗い始めた。皿の縁にたぷたぷと寄せた水を振り切り、食洗機の中へ入れて片付けた。
延秀 : めちゃくちゃ大事な人なんだな。
延秀が食洗機を回してから、かえって自分の方が理不尽だとでも言うように口ごもりながら、連曦に詰め寄るように尋ねた。
延秀 : でもさ、じゃあ。姉さんの言う通りだとしよう。じゃあ、姉さんはずっとその人の囮をやりながら毎回死にかけて怪我して、そうやって生きなきゃいけないの? その人は姉さんを助けるだけで?? あいつをさっさと消せば済む話じゃん?? その人も姉さんみたいにもどかしい人なの??
連曦 : じきに、終わると思う。たぶん。
延秀 : 聖人君子なの? 仙人なの? 殴られすぎてイカれたの? それとも、ストックホルム症候群? もうあいつが可哀想に見えてきた??
連曦 : ただ、なんていうか。理由のある歩みだと思う。私が理解した瞬間、私の中にあった怒りが少し、変わったの。
延秀 : 怒りが変わって恨になったって?
連曦が黙って微笑みながら頷いた。
延秀 : あぁもう この未練がましい姉ちゃんは。怒りを吐き出せよ。ただ。怒って中に溜まったもんを吐き出せって。火病ってわけでもないのにさ。
連曦が伸びをするように食卓から体を起こした。
連曦 : それでも、お前に話したら少しすっきりしたかな。
延秀 : あたしはめちゃくちゃモヤモヤしてるんだけど? 責任取れ。
連曦 : お姉ちゃんと出かけて風に当たらない? お腹もいっぱいだし。
延秀が片付け終えた洗い物を整えた後、濡れた手を乾いたタオルで拭いてから連曦に歩み寄った。連曦より背の高い延秀が連曦をじっと見下ろした。
延秀 : 痛い思いするな。怪我するなよ。
連曦 : うん。ありがとう。
延秀 : 出よう。食洗機が回ってる間にちょっと外で風に当たろう。あたしがアイス買ってやろうか?
