Scene 14.
帳の向こうの人に深く腰を折った一人の女が、深く捧げた礼をすべて終えた後、分厚い座布団の上にそっと身を落ち着けた。閑かな緑の光を放つ人火(インブル)が、外を照らしたまま部屋の中まで仄かに入り込んでいた。思いのほか暗くない部屋には、釣り灯籠とともに仄かに灯された白い人火が置かれていた。
熙珍(ヒジン) : お呼びでございましょうか。
遅い夜。格式ある現代風の韓服を纏っていた女に、帳の内に留まっていた團長がやるせない声で尋ねた。
團長 : 本当に。大丈夫なのかい。
慈しみ深く温かな声の内には、やるせない気色がいっぱいに宿っていた。やるせない声とともに届いた問いの真意を悟ったかのように、座布団に座った女は答えをすぐには返さなかった。しかし沈黙は長くなかった。かすかに微笑みだけを含んだ女は待ちかねたとばかりに、帳の向こうに座っていた團長に落ち着いた声を伝えた。
熙珍 : 造る者は、蝶を描くであろうと申しました。しかし、造る者を追うのが蝶であることを知らず、蝶になることを願いながら過ごしてきたと申しました。造る者は、蝶を描くがゆえに待ち続けることができたのでございます。
團長 : おまえが案内された道を訊いているのではないよ。
熙珍 : 私は。ダンチョウにも、あの子にも借りがございます。ひたすらに返すことができるのであれば、何でもいたします。私の二度の命はいずれも、お二方がお救いくださったものでございます。
熙珍が毅然として柔らかな声を團長に伝えた。すでにすべての決断を終えたかのように、落ち着いた通告を伝えた熙珍の声に、慈しみの声を伝えていた團長の溜息はいっそう深くなった。
熙珍 : ダンチョウもご承知の通り、私は、備えてまいりましたし、備えてまいります。
團長 : 誰にも、そのような重荷を背負わせるつもりはない。
熙珍 : すでに、ダンチョウが抱くとお決めになったあの瞬間、私を助けてくださったあの瞬間、私をお救いくださる中で受けられた屈辱に至るまで。すべての歯車は噛み合うようにできていたのでございます。どうか、私のことをご心配なさらないでいただきたくお願い申し上げます。私は、いつでも。いかなる道であっても、迷子のまま留まり、新たに造りながら歩んでまいります。
團長 : してほしくはないのだよ。だが、しなければならないのであれば。そうなったのであれば、そうすると決めたのであれば。
團長の言葉がしばし止まった。深い沈黙が流れる間、釣り灯籠が燃え尽きる音が聞こえるほど静まり返った部屋の空気がいっそう重く居座った。長いこと躊躇った言葉だった。團長は容易く出てはならなかった言葉を、ついに長い沈黙の中に重く繋いだ。
團長 : 最も強い敵になってくれればよいのだがな。誰も、その座を代わりに占めることができぬように。
Scene 15.
所姬が始緣を連れ出した。近くにある薄汚い食堂に入った。エアコンすら不十分で、入った内部でも暑さが感じられるほどだった。なかなか暑さが容易に引かなかった。髪が血で絡まった始緣が、不快なほどあからさまな視線で、所姬の隅々を窺った。どれだけ見ても知った顔ではなかった。始緣はまだ恐れの視線と警戒心を容易に収められずにいた。所姬が始緣におしぼりを差し出した。
所姬 : ちょっと。拭いて。
始緣が所姬の手をじっと見ていた。何もできないほどの漠然とした恐怖が残っているかのように、始緣が何もできずにいると、所姬がおしぼりの袋を破って始緣に改めて差し出した。
所姬 : お腹空いてるでしょ。死んでから、何も食べてないだろうし。
始緣 : は?
所姬が始緣に差し出していたおしぼりをいつまでも持っているわけにもいかなかったのか、始緣の席のほうにそっと置いた。腕を組んでテーブルの上に肘を載せた後、所姬が軽い溜息の後に続く淡々とした声を始緣に伝えた。
所姬 : 私は、生きている人の道が見える。確率ではあるけど、その人が選ぶ種類まで。何を選ぶか、なぜそんな選択をして、その人が結局どうなるかまで。
始緣 : それ何。
所姬 : 予言みたいなものだと思っていいよ。
始緣がテーブルの上のおしぼりをしばし見つめた後、おそるおそる手に取って自分の手と顔をざっと拭き始めた。
始緣 : じゃあ、私が、今こうやって拭くのも知ってたの?
子供じみた問いを投げた始緣を見つめていた所姬は、大きな反応も見せず、ただ軽く首を横に振った。
所姬 : ううん。
始緣の薄汚い跡をたっぷり含んだおしぼりが、再びテーブルの上に置かれた。悪意は感じられなかった所姬の言葉に、始緣がゆっくりと緊張を解き始めた。
始緣 : 大したことないね。
所姬 : 言ったように。生きてる人しか見えないから。
所姬は黙って始緣を見守るばかりだった。始緣が不快そうな表情で所姬を睨んだ。ぶっきらぼうな始緣の問いが所姬に届いた。
始緣 : まあ、いいよ、私が死んだとして。でも、あんた、私のこと知ってんの?
所姬が溜息とともに、誰も明かしたことのない始緣の名前を口にした。
所姬 : イ・シヨン。さっき言ったように、あんたは私を助けてくれた。六か月前。冬に。
始緣 : 私の客だったの? 覚えてないけど。
所姬 : 「助けてください! あの人が! 私の友達を!!」
所姬の言葉を反芻した。始緣が何か思い当たったように、所姬の顔をまじまじと見た。ようやく所姬が言ったあの日の記憶を思い出した始緣が、緊張をもう少し解いた。
始緣 : ああ。
所姬 : 信じられないだろうけど、あんたは死んだのは本当。私は、そんなあんたを助けに来たの。もちろん、私もあんたの助けを借りるけど。
ぶっきらぼうな口調で会った理由を告げる所姬。始緣はそんな所姬の口調を気にする余裕すら残っていないようだった。
始緣 : 私は何すればいいの?
所姬の注文した料理が来た。熱い汁物が煮立っていた。
所姬 : まず、食べて。あんたの好きな料理ではあるけど、ここの味がどうかはわからないね。
始緣が所姬の言葉をしばし噛みしめるように考えた。どうやって知ったかは重要ではなかった。今は、思いのほか空腹な腹から先に満たすつもりだった。始緣が料理をじっと見てから、そのまま匙を探して最初の一口を掬い始めた。料理をかき込み始めた始緣のがつがつした様を眺めていた。所姬もまず食べてからにしようという考えで、軽く溜息をつき、最初の匙を掬った。
帳の向こうの人に深く腰を折った一人の女が、深く捧げた礼をすべて終えた後、分厚い座布団の上にそっと身を落ち着けた。閑かな緑の光を放つ人火(インブル)が、外を照らしたまま部屋の中まで仄かに入り込んでいた。思いのほか暗くない部屋には、釣り灯籠とともに仄かに灯された白い人火が置かれていた。
熙珍(ヒジン) : お呼びでございましょうか。
遅い夜。格式ある現代風の韓服を纏っていた女に、帳の内に留まっていた團長がやるせない声で尋ねた。
團長 : 本当に。大丈夫なのかい。
慈しみ深く温かな声の内には、やるせない気色がいっぱいに宿っていた。やるせない声とともに届いた問いの真意を悟ったかのように、座布団に座った女は答えをすぐには返さなかった。しかし沈黙は長くなかった。かすかに微笑みだけを含んだ女は待ちかねたとばかりに、帳の向こうに座っていた團長に落ち着いた声を伝えた。
熙珍 : 造る者は、蝶を描くであろうと申しました。しかし、造る者を追うのが蝶であることを知らず、蝶になることを願いながら過ごしてきたと申しました。造る者は、蝶を描くがゆえに待ち続けることができたのでございます。
團長 : おまえが案内された道を訊いているのではないよ。
熙珍 : 私は。ダンチョウにも、あの子にも借りがございます。ひたすらに返すことができるのであれば、何でもいたします。私の二度の命はいずれも、お二方がお救いくださったものでございます。
熙珍が毅然として柔らかな声を團長に伝えた。すでにすべての決断を終えたかのように、落ち着いた通告を伝えた熙珍の声に、慈しみの声を伝えていた團長の溜息はいっそう深くなった。
熙珍 : ダンチョウもご承知の通り、私は、備えてまいりましたし、備えてまいります。
團長 : 誰にも、そのような重荷を背負わせるつもりはない。
熙珍 : すでに、ダンチョウが抱くとお決めになったあの瞬間、私を助けてくださったあの瞬間、私をお救いくださる中で受けられた屈辱に至るまで。すべての歯車は噛み合うようにできていたのでございます。どうか、私のことをご心配なさらないでいただきたくお願い申し上げます。私は、いつでも。いかなる道であっても、迷子のまま留まり、新たに造りながら歩んでまいります。
團長 : してほしくはないのだよ。だが、しなければならないのであれば。そうなったのであれば、そうすると決めたのであれば。
團長の言葉がしばし止まった。深い沈黙が流れる間、釣り灯籠が燃え尽きる音が聞こえるほど静まり返った部屋の空気がいっそう重く居座った。長いこと躊躇った言葉だった。團長は容易く出てはならなかった言葉を、ついに長い沈黙の中に重く繋いだ。
團長 : 最も強い敵になってくれればよいのだがな。誰も、その座を代わりに占めることができぬように。
Scene 15.
所姬が始緣を連れ出した。近くにある薄汚い食堂に入った。エアコンすら不十分で、入った内部でも暑さが感じられるほどだった。なかなか暑さが容易に引かなかった。髪が血で絡まった始緣が、不快なほどあからさまな視線で、所姬の隅々を窺った。どれだけ見ても知った顔ではなかった。始緣はまだ恐れの視線と警戒心を容易に収められずにいた。所姬が始緣におしぼりを差し出した。
所姬 : ちょっと。拭いて。
始緣が所姬の手をじっと見ていた。何もできないほどの漠然とした恐怖が残っているかのように、始緣が何もできずにいると、所姬がおしぼりの袋を破って始緣に改めて差し出した。
所姬 : お腹空いてるでしょ。死んでから、何も食べてないだろうし。
始緣 : は?
所姬が始緣に差し出していたおしぼりをいつまでも持っているわけにもいかなかったのか、始緣の席のほうにそっと置いた。腕を組んでテーブルの上に肘を載せた後、所姬が軽い溜息の後に続く淡々とした声を始緣に伝えた。
所姬 : 私は、生きている人の道が見える。確率ではあるけど、その人が選ぶ種類まで。何を選ぶか、なぜそんな選択をして、その人が結局どうなるかまで。
始緣 : それ何。
所姬 : 予言みたいなものだと思っていいよ。
始緣がテーブルの上のおしぼりをしばし見つめた後、おそるおそる手に取って自分の手と顔をざっと拭き始めた。
始緣 : じゃあ、私が、今こうやって拭くのも知ってたの?
子供じみた問いを投げた始緣を見つめていた所姬は、大きな反応も見せず、ただ軽く首を横に振った。
所姬 : ううん。
始緣の薄汚い跡をたっぷり含んだおしぼりが、再びテーブルの上に置かれた。悪意は感じられなかった所姬の言葉に、始緣がゆっくりと緊張を解き始めた。
始緣 : 大したことないね。
所姬 : 言ったように。生きてる人しか見えないから。
所姬は黙って始緣を見守るばかりだった。始緣が不快そうな表情で所姬を睨んだ。ぶっきらぼうな始緣の問いが所姬に届いた。
始緣 : まあ、いいよ、私が死んだとして。でも、あんた、私のこと知ってんの?
所姬が溜息とともに、誰も明かしたことのない始緣の名前を口にした。
所姬 : イ・シヨン。さっき言ったように、あんたは私を助けてくれた。六か月前。冬に。
始緣 : 私の客だったの? 覚えてないけど。
所姬 : 「助けてください! あの人が! 私の友達を!!」
所姬の言葉を反芻した。始緣が何か思い当たったように、所姬の顔をまじまじと見た。ようやく所姬が言ったあの日の記憶を思い出した始緣が、緊張をもう少し解いた。
始緣 : ああ。
所姬 : 信じられないだろうけど、あんたは死んだのは本当。私は、そんなあんたを助けに来たの。もちろん、私もあんたの助けを借りるけど。
ぶっきらぼうな口調で会った理由を告げる所姬。始緣はそんな所姬の口調を気にする余裕すら残っていないようだった。
始緣 : 私は何すればいいの?
所姬の注文した料理が来た。熱い汁物が煮立っていた。
所姬 : まず、食べて。あんたの好きな料理ではあるけど、ここの味がどうかはわからないね。
始緣が所姬の言葉をしばし噛みしめるように考えた。どうやって知ったかは重要ではなかった。今は、思いのほか空腹な腹から先に満たすつもりだった。始緣が料理をじっと見てから、そのまま匙を探して最初の一口を掬い始めた。料理をかき込み始めた始緣のがつがつした様を眺めていた。所姬もまず食べてからにしようという考えで、軽く溜息をつき、最初の匙を掬った。
