胡蝶別曲 (나비별곡) : 乱れ蝶の詩 (みだれちょうのうた)

Scene 16.

薄暗く沈んだ日差しに、灯明がゆっくりと光を灯し始めた。薄暗くひっそりとしたある家屋で向かい合った二人が、灯明を点した者たちが退くのを待った。固く閉ざされた戸を確認した後、交わしていた話を再び交わそうと姿勢を正した。声の低い주교(主教:シュキョウ)が先に口を開いた。久方ぶりに向かい合った二人が互いの安否をしばし尋ねただけで、まだ本題には触れていなかったようで、淡い微笑を互いに交わしていた。

향림(香林:ヒャンニム) : よく育ったと聞いて。安心したよ。

이심(以心:イシム) : オンニのおかげです。

香林 : まだ、お前のところの娘どもは皆、誤解しているのだろう。

以心 : 私を殺そうとする子が一人二人であれば、退けもするでしょうが。私を慕ってくれる子も多いですが、もう少し遅かったように思います。まだ、オンニがやったことだと思っているのが申し訳ないだけです。私が出て再び説得し、何度も説得すべきでした。申し訳ありません。

香林 : お前の子が誤解していないなら、それでいいのだ。どのみち、私の子とお前の子は共に過ごすことになるのだから。

以心 : あの一件で、多くの人が命を落とし消えていきました。もう二十年以上が経ちましたね。引き返せない道へ踏み出し。私とオンニはこうして密かに話を交わさなければならないほど、再びすべての状況は悪い方へ変わらざるを得なくなりました。

香林 : それが道ならば、歩くしかあるまい。さて。久しぶりに訪ねてきた以心よ、何を言いたいのか打ち明けなさい。

慈愛に満ちた豪放さが、軽い溜息と共に團長の言葉を止めた。向かいに座る團長もまた、軽かった面持ちを収め、主教へ言葉を伝え始めた。

團長 : 私の書簡、お受け取りになり察していらっしゃるかと存じます。

主教 : ふむ。

團長 : ご決心を直にお伺いしたく、参りました。

主教 : 心の準備が容易にはつかぬのだ。先に私から訊いてもよいか。

團長 : はい。

主教 : お前は、知暎に傳令(デンレイ)をお預けするとき、どうだった。道がそうであったとはいえ、二番目の蝶が、お前の最初の蝶の心臓を抉り取ったとき、私のもとへ駆け込んで泣いたな。どうか、抱かせてほしいと。取り返しはつかぬだろうが、すべての蝶が生きる道だと、泣きわめいて懇願した。あのとき、お前はどうだった。

團長は容易く言葉を継げなかった。かすかな溜息が深い沈黙を呼んだ。灯明へ顔を向けたとき、遅れて現れた團長の姿は全以心——知暎と所姬を育てた母だった。母としての想いにしばし迷った以心が、潤む目で主教に言葉をかけた。

以心 : 辛いのです。実は。今でも。この歳、もう五十を超えようとしていますが、辛いのです。私が自分の娘に酷いことをしたのですから。己の欲で育て、生かすのだと抱き、いざ、私は私が背負えもしない未来まで、あの子たちに荷物を預けるように全て押しつけたのですから。

香林 : それで、晶善に私が頼めると思うのか。

香林の言葉に、以心が軽い笑みを悔恨のように含みながら、己の意を香林に伝えた。

以心 : 先代の案內者が私に言ったのです。私は、死ぬまで荷を押しつけるだけの人間になるだろうと。

香林 : だから。私にもそのような荷を背負えと。

以心 : オンニ。私がそのような言葉をオンニに申し上げたことはないと、ご存じでしょう。

香林は以心の詰問にしばし言葉を発さなかった。深い思案が続いた。容易には下せぬ決断だった。難しい逡巡を重ねながら何も言えずにいた、主教「香林」が、自らの身の上嘆きを再び続けた。

香林 : 我が齢、すでに四百を超えようとしている。お前が姉と呼ぶのを受け入れたのも、実はお前が幼い頃から私の正体も知らずに慕ってくれた小さな小さな以心の影が、私の頭に残っていたからだ。私はお前の案內者の言葉通りならば、この生が最後だろう。私すら知らぬ事件に、これ以上死を纏えなくなるだろう。私が目を閉じれば、あの何も知らぬ二十をわずかに超えたばかりの世間知らずに、身を寄せる場所があるだろうか。

以心 : 私たちの世代で終わらせたいのです。オンニ。お願いいたします。晶善と知暎。共にうまくやれます。知暎も、所姬も。晶善も、当然でしょう。あの子たち、互いを支え合えます。

香林 : ああ。分かっている。お前が知暎をよく育てたであろうし、私もまた晶善を我が子のようにお前にあれこれ尋ねながら育てたのだから。だが、その道の果てに、私の子は独り残ることになる。愛するすべての者が先に目を閉じるだろう。今。知暎の鏡のように。理を逆らい循環を追った私だった。死すべき命脈をとうに越え、死を恐れるがゆえに死を纏って過ごしてきた、矛盾した長い時を、晶善だけは追わぬことを願ったのだから。

以心は容易く言葉を継がなかった。香林が悩む時間を十分に与えようとするかのように、以心はせがみも急かしもしなかった。香林の深い溜息が外へ漏れたとき、香林が外で待っていた정선(晶善:ジョンソン)を静かに呼んだ。黒い韓服を纏った晶善が戸をそっと開け、中へ黒い襪(ポソン)の足を踏み入れた。

晶善 : お呼びでしょうか。主教。

香林 : 晶善。

晶善 : はい。

香林が黙って手を差し出した。晶善がしばし以心の顔色を窺った後、差し出された香林の手をそっと取り、香林が導くまま香林の傍にそっと腰を下ろした。

香林 : できるだろうか。私に。

香林の苦悩を晶善が知らぬはずがなかった。姿勢を正した後、晶善が黙って香林を見上げた。

香林 : この方は、お前の敵ではない。私が忙しいときは、お前の糞尿おむつすべて替えてくださり、共にお前を育ててくださった方だ。無論、私もこの友の娘をお前と一緒に世話し、汚れ仕事を厭わなかった。そのようなお前たちに、我々があまりにも酷いことをしでかすようで、済まぬ。

晶善 : 私は、主教の御恩に報いることさえできるのであれば、何でもいたします。

固い決意を終えた香林が、長い間黙って握っていただけの晶善の手をゆっくりと放した。誰も口を開かなかった。息遣いすらまともに聞こえなかった。静寂にして重い空気を退けるべく、主教が溜息をつきながら、晶善を呼んだ。

主教 : 一従長(イルジョンジャン)。尹晶善は聞くがよい。

晶善が深く体を折り、大きく礼を上げて主教の指示を聞いた。

主教 : 今すぐ。團(ダン)第五十五代團長、全以心に従い、傳令のもう一つの欠片を삼도천(三途川:サムドチョン)にて探し出し、傳令を宿す姜知暎の鏡、李始緣に届けよ。三つの欠片のうち、使節(シセツ)として創られた最後の欠片を李始緣に届ける間、万一のすべての事件と事態への支援は我ら玄敎(ゲンキョウ)が助けるが、我ら玄敎と團が敵対的関係に傾いた状況ゆえ、事件や事態が生じるまでは、対外的に事を進めることはできぬ。

晶善 : はい。

主教 : 七従長(チルジョンジャン)李淵を除き、玄敎の何人もこの事実を知ることのないよう独自に動き、次期團長の案內者と道を共にせよ。事が終わり次第、本教へ戻れ。

晶善 : 承知いたしました。

晶善が主教の長い指示をすべて聞き終え、待ちかねたとばかりに再び礼を上げ、志に従う意を示した。そんな晶善を再び抱き起こすように立たせた主教が、これまでにない温かい声で晶善に言った。

主教 : そして晶善。

晶善 : はい。主教。

主教が晶善の両腕をそっと支え、深く抱きしめた。

主教 : お前は、私に返すべきものなど、はなから何一つなかったのだ。


Scene 17.

惟碩が自らの本家の地下書庫に降りてきていた。傷はすべて治まっていた。中央道の外れに位置する自らの本家。書庫で古い文書を一つずつ確かめる惟碩の目に、古代の字句がびっしりと飛び込んでいた。惟碩が落ち着いて書物を確かめた後に積み上げた書籍が山と化していた。解けない答えだった。團長が白絲(ペクサ)を手にしたのでない限り、二箇所同時に玄絲が存在することはあり得なかった。すでに半端な遺物(イブツ)としてのみ残って数百年は過ぎた玄絲だった。半端な遺物であったにもかかわらず十分に強い力を持つ玄絲だった。そのような玄絲が二つあるなど受け入れられなかった。一つの遺物が二箇所に留まる方法も存在しなかった。確かに自分が相対したのは團長ではなかった。團長は依然として遺物を持っていた。惟碩が解決されぬ疑念に電話を手に取った。


Scene 18_01.

熙珍の執務室。楽な服装で座り、背に沈みゆく明け方の光を受けていた熙珍が、机上で鳴る電話を見やった。惟碩の電話を確認した後、周囲をさっと見回した。しばし電話を取らぬまま、机の引き出しにあった小さな香炉を取り出し火を点けた。白い煙が満ちてきた頃、熙珍が電話を取った。

熙珍 : はい。

惟碩 : もし、團長が白絲を見つけていらしたとすれば。

熙珍 : いやはや、唐突ですね。事務長(ジムチョウ)も。

惟碩 : そうでなければ二箇所に玄絲(ヒョンサ)が存在することはあり得ません。私が相対したものも確かに玄絲でしたから。

熙珍 : そうだとして、何が変わるのでしょうか。

惟碩 : 原流(ゲンリュウ)を取り戻すことになります。囁きがもはや通じなくなるでしょう。

熙珍 : ふむ。

惟碩 : 万が一、玄絲ではなく白絲を持ったまま何者かが團長を名乗って現れれば、團長が二人になりかねないのです。まさに分裂を免れ得ないことは明白でしょう。正体も分からぬ人間が玄絲を持っているということも問題です。しかもその人物は——。

熙珍 : 少し、落ち着かれた方がよいかと。

しばし堰を切ったように話していた惟碩が、熙珍の制止に合わせて息を静かに整え、軽い溜息をついた。

惟碩 : 強かった。あるいは團長よりも。

熙珍 : そこまででしたか。

惟碩 : 私は、戦闘においては精武館長(セイブカンチョウ)よりも遥かに上だと思っています。誰であろうと殺せますから。殺せぬ強靱さと殺せる未熟さ、より恐ろしいのは殺せる未熟さだと考えます。

熙珍 : それは当然のお言葉です。事務長がご判断なさった以上に遥かにお強い。お立場に相応しく十分にお強い。それでもそのような事務長が強いとお認めになるほどであれば。ふうむ。私ももう少し調べる必要がありそうですね。

惟碩 : 先日申し上げた通り、私は隠された人間を炙り出すために自分の妹を苦しめています。そのおかげで輪郭は掴めたと思っていたのですが、その人物がこれほど強いとは思いませんでした。想定以上であり、規格外でした。もしや、館長はご存じでしたか。

熙珍 : 私は正直に申し上げることにいたしました。少なくとも私と志を共になさった以上、私も事実をお伝えせねばなりますまい。ええ。強いであろうことは知っていました。まだ誰であるかは正確には分かりませんが。ですから連曦を苦しめることも敢えて止めはしなかったのです。おっしゃった通り、炙り出せる人間はすべて炙り出すと決めましたから。

惟碩 : 心当たりもないのですか。

熙珍 : 推測に過ぎませんので。もう少し確かになりましたらお伝えします。それまで、連曦はもうお手を引いていただけますか。下手をすれば危険になり得ますから。

惟碩 : 尻尾を隠しているようで腑に落ちませんが、出て行って危険になり得るという点には同意します。

熙珍 : だいぶお怪我をなさいましたか。

惟碩 : 大事にはありませんでした。

熙珍 : よかった。では、もう少しお休みになっていてください。

熙珍の言葉に答えが返されぬまま電話が切れた。熙珍も電話を再び置いたまま、まだかすかな煙を上げる香炉を見ながら、墨のついた筆の先端を焼いた。熙珍が燃え尽きていく筆と墨を見ながら小さな声で囁いた。

熙珍 : 電話のことは、お忘れおきください。

誰もいないかのように気配は感じられなかったが、確かに熙珍を見守る者がいるはずだと考えていた。墨の煙と共に渡った熙珍の囁きが届いた瞬間、存在しなかった気配が感じられた。熙珍の囁きが届いたかのように、薄暗い影の中で頷く一人の姿がかすかに映った。首肯するかに見えたわずかな反応を満足げに確かめた後、熙珍が席を立ちながら軽く伸びをした。


Scene 18_02.

執務室の扉を開け、すぐ目の前にあった小さな書庫へ向かった熙珍が、中で書物の山に埋もれていた정인(貞仁:ジョンイン)を静かに呼んだ。

熙珍 : 貞仁。

熙珍の気配に遅れて気づいた貞仁が、慌てて書物の山を片づけながら眼鏡を押し上げ、席を立った。

貞仁 : いらしたんですか。

熙珍 : 今日は週末なんだから、あんまり書庫にこもってないで、少し休みなさい。

貞仁 : あ、でも。ちょうど面白いところで。

熙珍が笑いながら貞仁の隣へ移ってきた。

熙珍 : 何の本を読んでたの?

貞仁 : あ、実録の編集本を読んでたんです。中期あたりまで来たと思うんですけど。思ってたよりずっと面白いですね。

熙珍 : あの頃はちょうど暗闘も多かった時期だったしね。

貞仁 : オンニは全部読んだんですか?

熙珍 : 私? 私はまあ。正本で暗記したけど。

得意げな熙珍に、貞仁は賛辞を惜しまなかった。表向きはごく普通の姉妹に見えたが、貞仁の奥深くには熙珍への敬意が根を下ろしていた。

貞仁 : さすが。

熙珍 : とにかく、ぼちぼちやりなさい。私はちょっと出てくるから。

貞仁 : 長くかかりますか?

熙珍 : いや。夕飯の前には戻るんじゃないかな?

貞仁 : じゃあ、書庫の整理でもしながら待ってますね。いってらっしゃい。お一人で出られるんですか?

熙珍がしばし歩みを止めた。

熙珍 : うーん。たぶん違うかな。おそらく。精武館長と出るんじゃないかな。