放課後は推しのため、君のため。

 チャイムが鳴るより、ほんの少し早く立ち上がる。
——ガタッ。

椅子の脚が床を擦る音が、教室の中でほんのわずかに早く響く。

まだ先生は「起立」と言っていない。
けれど俺の体は、もうそれを待たない。

いつからだろうな、これ。

最初は「早く帰りたい」っていう、ただそれだけの理由だった気がする。

でも今は違う。

考える前に体が動く。
反射みたいに、条件反射みたいに。

鞄を掴んで、肩に引っかける。
その一連の動きは、もう癖だ。

「起立」

先生の声が後ろから追いかけてくる。
それに被せるように、俺はもう一歩踏み出していた。

「礼」

その声を背中で聞きながら、俺は教室のドアに手をかける。

絢斗(あやと)ー!じゃあなー、また明日!」
「おつー」

背後から飛んでくる声に、振り返りもせずに軽く手だけ上げる。

顔を見なくても誰だかわかるし、
向こうも別に俺の返事なんて期待していない。

それくらいの距離感が、ちょうどいい。

ドアを開けると、廊下はすでに放課後の色に染まっていた。

ざわざわとした空気。
少しだけ浮ついた声。
靴音が重なり合う、雑多なリズム。

部活に向かうやつらは、どこか急ぎ足で。
友達と帰るやつらは、ゆるく並んで笑いながら。

スマホを耳に当てているやつは、もう別の世界にいるみたいな顔をしている。

それぞれの「放課後」が、ここにはあった。

俺も、その中の一人だ。

ただ——

向かう場所が、少し違うだけ。

別に、孤立しているわけじゃない。

昼休みになれば、いつものメンバーで机をくっつけて飯を食うし、
授業中にはくだらない落書き付きのメモが回ってくる。

文化祭の準備だって、ちゃんと参加した。
夜遅くまで残って、笑って、ふざけて、怒られて。

「普通の高校生」の範囲から、外れてるつもりはない。

——でも。

放課後だけは、別だ。

誰かと寄り道する時間も、ダラダラ過ごす余裕もない。

理由は単純。

放課後の時間は、全部——

“金”に変える!