【続編♡】かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい2


帰宅した俺は、とりあえずシャワーを浴びて、晩メシを食うことにした。
焼きそばでも作ろうかと冷蔵庫を開けたけど、途端に怠くなって、お湯を沸かし、カップ麺の蓋を開ける。

お湯が沸くのを待つ間、
カップ麺の出来上がりを待つ間。

ふと頭を過ぎるのは、先程のカゲヤンの言葉。


──えっち、したいっちゅうことやろ


「……っいやいやいや。一旦、考えるのはやめだ。……そうだ、この前の続きでも観よう」


出来上がった味噌ラーメンをローテーブルに置き、リモコンを操作する。
この前、千冬と一緒に見たアクションアニメを選択して、再生ボタンを押した。

前回までのあらすじを流し見しながら、ラーメンを啜る。
あの晩、何度も聞いたイントロが流れ出し、千冬の腕の中の感覚を呼び起こす。

千冬の腕の力、体温、匂い、眼差し、声…。


「………」


食べかけのカップの上に箸を置き、ビーズクッションに深くもたれかかって身体を沈めた。


「…ふぅ」


スマホを開き、検索エンジンの画面に、迷いながら文字を打ち込む。


『男同士 』


そこまで打ち込み、一度手が止まる。
やや悩んでから、単語を追加した。


『男同士 はじめて  えっち』


ゆっくりキーボードから指を離し、検索ボタンに指をかざす。
無意識に、息を止めた。


「………はぁ」


少し躊躇ったけど、結局俺は、検索ボタンをタップせずにスマホを閉じる。


「………そんなこと調べて、どうすんだよ…」


誰もいない部屋に、再び重いため息が落ちた。


問題は、そこじゃない。


「千冬は、本当に俺と…したい、のか…?」


俺は、千冬と…、

…したい……か…?








水曜の午後。マロ知将の采配により、俺は駅近くにある映画館併設のショッピングモールに来ていた。
今日、観に来たのは、例のアクションアニメの劇場版。
映画の後に、さりげなく柚月とカゲヤンを2人にしてやるという作戦だ。

平日の映画館は、人もまばら。
映画館のロビーのベンチで、大きな窓の外を眺めていると、マンティスにスマホで肩を突かれた。


「伊織。早いな」
「おー」
「千冬氏は一緒じゃないのか?来るんだろ?」
「家逆方向だし。現地集合」
「…喧嘩でもしたのか?」
「は?してねぇけど」
「ふん?」


マンティスは、わざとらしく眉を上げて、外に目を逸らす。
何だよ?


「いっおりー!」
「…この声は、柑奈だな」


エレベーターホールの方から、俺を呼ぶ元気な声がして振り向く。
隣のマンティスが怪訝そうに俺に尋ねた。


「…伊織。俺は女子が2人来ると聞いていたんだが?」
「おう。あの背の高い方が柑奈で、低い方が柚月な」
「……背が高い方も女子なのか…?美形男子ではなく…?」


マンティスが困惑するのも無理はない。
現れた柑菜は、長い金髪を黒のショートウィッグの中にしまった男装姿。
隣に並ぶ柚月は、ふんわりしたトップスに、ショートパンツという可愛らしい格好。
どうみても、2人は男女カップルだった。


「柑奈は男装好きなんだよ。中学の時からあんな感じだった。普段は金髪派手女だけどな」
「………女子、なのか…」


合流した柑奈と柚月に、マンティスを紹介する。
ちなみに、柚月の許可のもと、カゲヤン以外のメンバーには柚月の片思いについては共有されている。


「伊織くん、本っ当にありがとう…!私、今日こそ頑張るね…!」
「お礼はマロに言えよ。でもまあ、頑張れよ」


グッと拳を握りしめて意気込みを語る柚月。
緩く巻いた茶色とピンクの髪が揺れる。
このピンクを見ると、俺はどうしても千冬を思い出してしまい、無性に柚月の応援をしてしまいたくなる。


「脚、寒くないのか?」
「倫くんー、そんなお母さんみたいなこと言わなくていいの。『かわいい』って一言、言うだけでいいんだから」
「そ、そうか…すまん」


マンティスの指摘を柑奈が一蹴する。
確かに柚月の脚は寒そうだが、これも「カゲヤンは太もも好き」というマロ情報に基づいての勝負服なんだろう。
健気だな。


「伊織先輩!」
「お待たせぇ〜」
「あ…千冬、…と、マロと…」
「初めまして。赤木成実(あかぎ なるみ)です。」


マロと並んで現れたのは、マロと同じふわふわした雰囲気の糸目の女性。マロの彼女だ。
…確かに似てる。
俺たちより3歳上で社会人だと聞いてるけど、柔らかい雰囲気のおかげか、親しみやすさを感じる。


「伊織先輩、お待たせしました」


一緒にいたマロカップルを追い抜き、小走りで俺の目の前まで来た千冬は、今日も百点満点のビジュアルだった。
ふわりと跳ねるピンクの髪、陽の光でキラキラと光る栗色の瞳、柔らかく微笑む唇。
ロビーにいた女子大生らしき集団が、小声できゃあきゃあと騒ぎながら千冬を振り返る。


「あ、先輩。この前のバイトで、このタオル置き忘れてましたよ?」
「ああ、悪ぃ。さんきゅ…、洗濯してくれたのか?千冬ん家の匂いがする」
「…っ、はい。今日も使うかと思って」
「そっか。ありがとな」
「ふふ。いいえ」


マロ達がお互いに挨拶をする横で、俺は千冬からタオルを受け取る。
千冬はマロ達を振り返り、嬉しそうに俺に微笑みかけた。


「グループデート、って言うんですかね?楽しみですね」
「本題は柚月とカゲヤンだけどな」
「ふふ。上手くいくといいですね」


白い歯を見せてかわいらしく笑った千冬に、俺も頬を緩める。

千冬の笑顔を見ると、俺も嬉しい。


俺はこの数日間、ずっと考えていた。
千冬の言葉の意味と、…自分の気持ちについて。

俺は、千冬の優しい声も、魅力的な笑顔も、全部全部、好きだ。

だけど、身体のことは……、まだ分からねぇ。
触れられるのは嫌じゃねぇ。
でも、…そこまで踏み込んだ関係が、どうしても想像できなかった。

だから、俺は、…もう少し、このままでいたい。


……それでもいいか、千冬?



「?、どうかしたんですか、伊織先輩?」
「……なぁ、千冬。今度、ちょっと、聞きてぇことあるんだけど。…いいか?」
「はい、もちろん」

「よぉ。みんな早いやん」


密かな思いを胸にしまったまま千冬と話していると、今日のもう1人の主役が登場した。
すかさず柚月が柑奈の横から離れ、カゲヤンの真正面に立つ。


「こ、こんにちは、影山くんっ!」
「おー柚月チャン。こんちは。えらい可愛い格好しとるな」
「……!」


普段なら、セクハラだ、変態だ、とイジるようなカゲヤンのコメントだが、今日に限っては誰もツッコまない。

おそらく全員が、心の中でほくそ笑んで、顔を真っ赤にした柚月にエールを送った瞬間だっただろう。


「じゃあ早速行こうかぁ〜」
「カゲヤン、お前がビリだ。何か奢れ」
「ぼくキャラメルポップコーンねぇ」
「はぁ?理不尽過ぎるやろ」
「私ホットドッグ食べたい」
「ポテトあるかなぁ?」
「ちょ、待てや!8人分はエグいて。ガチで破産するわ!」
「それでも自分の分までカウントしてるのか」
「あははっ」


賑やかな友人たちと、映画館に向かう。
俺の隣には、千冬。


「伊織先輩は何か食べますか?」
「俺もポップコーン食うかな。キャラメルか、塩か…」
「それなら両方買って、僕と半分こしましょう?」
「おう!やった!」
「ふふ」


恋人の優しい笑顔に、胸の中がぽかぼかと温かくなる。

この幸せな時間を、めいっぱい楽しもう。