「ここでは、大切なものを介して、
その持ち主の記憶や想いをたどることができます。
ものを通して、その人の過去や気持ちを
辿ることができます」
私は手に握った傘に視線を落とす。
大切なもの――傘。
少し躊躇いながら視線を向け、迷う気持ちが胸を占める。
「大切なもの……」
小さく呟く。
「ただ、記憶に触れたら、
その大切なものは消えてしまいます」
店主はそう言って、どこか神妙な顔をした後、
ゆっくりと私が持っている傘を見た。
大切なものが――消える。
彼の遺品、最後に私の手に残ったもの――。
「ゆっくりと考えて後悔のない選択をしてください…」
店主はカウンター越しに言って、ゆっくりと視線を
向けてから、カウンターのテーブルを布巾で拭いた。
