1999年7月2日、金曜日。地球滅亡まであと30日。
夜明けと共に目を覚ました。
視界の端で揺れるカーテンの隙間から、柔らかな日が差す。その輝きに目を眩ませながら起き上がる。眠りに落ちるまで眼前にあった彼の背中はもう無く、ベランダには爽やかな早朝の潮風が吹いていた。
部屋の何処にも時計が無いため正確な時間は分からないが、恐らく午前6時前後だろう。カカシに起こされるまでもなかったようだ。
「カカシ?起きてる?」
「やあ。昨夜はゆっくり眠れたかい」
ロフトへ登りカーテンを開くと、多量の本に囲まれながら辞書のように分厚い本を広げているカカシの姿があった。最奥にある小窓は締め切っており、更に厚手のカーテンで日光を遮断している。しかし扇風機も無いこの空間はサウナのように暑苦しい。
「まあ、おかげさまで」
「それはよかった。学校は間に合いそうかい?」
「多分。とりあえず、泊まらせてくれてありがとう」
「どういたしまして」
そう礼を告げると、僕はカカシ宅を後にした。道中にあった公園で時計を見ると、6時半を少し過ぎた頃であった。
水道で水分補給と洗顔をしていると、登校中の小学生の群れに遭遇する。迫り来る終末など気にも留めない明るい声に寂寥感を覚えながら、僕は家路を辿った。
家に帰ったのは7時頃。義父は既に出勤しており、義兄は未だ自室で就寝中のようであった。リビングにはテレビを眺めながら小言を漏らし朝食を貪る義祖母の姿と、キッチンに立つ義母の姿があった。両者とも僕の帰りには無関心なようで、見向きもしなかった。
そんな彼女らの横を通り過ぎ、浴室へ向かう。昨日から一日中動き回り汗をかいた挙げ句、それを拭う時間もシャワーも浴びる時間もなかったため、早く身体を清めたかった。
いつもよりも泡立ちにくい髪をガシガシと洗い、爆速で乾かすとその足で学校へ向かった。僕は自転車を有しておらず徒歩で通学しているのだが、学校までは30分弱かかるため余裕を持って始業の1時間前には家を出発しているのだ。
いつもの通学路を辿りながら、僕は昨夜の出来事を逡巡した。権兵衛の死と、おかしな男・カカシとの出会い。一晩では収まりきらないことが勃発しているが、新鮮な体験であった。
そして、僕は何故か彼と過ごす時間が楽しいと思えた。ずっとひとりで生きてきた僕にとって、こんな感覚は生まれて初めてだった。
(また会えないかな……)
権兵衛を殺した奇人に対し、そんな淡い期待を抱くようになってしまった。
その晩。アルバイトの帰りに再び例のベンチへ寄ってみたが、権兵衛もカカシも姿を見せなかった。僕は落胆しながら、終末へ刻一刻と時を進める空を見上げる。
記憶も曖昧な幼少期、母と見たプラネタリウムのように満点の星空が目の前に広がっていた。
