青春はスクリーンの手前に落ちている


去年の文化祭で上映した短編映画はホラーとまではいかないけれどその類だった。
身近で起きた不思議な出来事をテーマにした作品。

撮影に使われた空き教室や音楽室を通るたびに映像が過ぎって半年くらいは怖かったのを覚えている。

今年はどんな作品が上映されるんだろう。


「ねえ」


何も仕事が回ってこないといいな、なんて思いながら廊下を歩く。



楠木(くすのき)さん」



私は“見る専”部員なんだから。



「楠木さんて」


唐突にリュックを引っ張られ、うわ、と小さく声がもれた。

後ろによろけたけれど、掴まれたリュックのおかげて倒れずに済んだ。


そして、ようやく呼ばれた名前が脳まで届く。

「…え?呼んでた?」


「呼んでた。何度か」
トン、とリュックの重みが肩に戻ってくる。
目を細めて答えたのは(ひいらぎ) 蒼一郎(そういちろう)

同じく映像研究部の2年生。
クラスも同じだけど、話したことはほぼ無い。

でも彼がどんな生徒か、なんとなく説明はできる。



ごく限られた数人と行動を共にし、
休み時間は本を読んでいるか、スマホをジッと見ている。
たまにタブレットで何か作業をしていたり。
話しかける隙は一切ない。

少しクセのある髪は無造作だけど、制服はきちんと着てるし、上履きも踵まで履いている。

近寄り難い雰囲気も相まって、隠れファンが多いのも頷ける。

それに、とっておきの情報がもうひとつ。


柊 (たもつ)
日本が誇る映画監督。
数多くの俳優が彼の作品をきっかけにスターダムへと駆け上がった。
時代を代表する超有名監督。
その孫が、彼。


知っているけど、口には出さない。

それはおじいさんの情報であって、彼自身の情報ではないから。