冷遇された花巫女姫は、火の皇子に溺愛される

 紅蓮(ぐれん)と会うようになって一週間が経った。
 朝餉(あさげ)の膳を下げに来た瀬奈(せな)が嬉しそうに微笑む。

咲久耶(さくや)様、最近お顔の色がいいですね」
「そう?」

 実際、自分でも元気になったという自覚があった。
 紅蓮と話すのは楽しく、もらえるお菓子やお茶は美味しい。

 しかも護符作りに忙しく、ぼうっとする時間がなくなったのも大きい。
 何もすることがないと余計なことを考えてしまうのだと、ここに来て気づいた。

「瀬奈、護符ができたんだけど……」

 咲久耶は護符を差し出した。

 霊気を込めた押し花を挟んだ紙を、縫ったお守り袋にいれてみたのだ。
 我ながら可愛くできたと思う。

「どうかしら?」
「とても素敵です!」

 瀬奈がぱっと顔を輝かせる。

「はぎれを使っているから、色や模様が全部違うのもいいですね。どれもほしくなります!」
「どれでも好きなものを選んで。こんなことくらいしかお返しできないから」

 咲久耶はそっと護符を渡した。

「じゃあ、一ついただきますね。残りは知り合いの雑貨店に持っていって買い取ってもらえるか聞いてみます」
「もし売れたらそのお金で飾り紐を買ってきてくれないかしら。組紐のお守りも作ってみようと思って」
「いいですね! わかりました」

 瀬奈が去ったあともドキドキが収まらない。

(思い切って庭に行ってから、すべてがうまくいき始めた気がする……)

 せっせと護符を作る作業は、無為の時間を過ごしていた咲久耶にとって充実したものになった。
 咲久耶はちくちくとお守り袋を縫った。



「沙羅!」

 紅蓮が東屋(あずまや)から大きく手を振ってくる。
 沙羅と呼ばれるのももう慣れた。十日間ずっと毎日会っているのだ。

 咲久耶はドキドキしながら、そっと贈り物を取り出した。

「これ、いつも美味しいものをいただいているお礼です」

 幸い護符が飛ぶように売れたので、飾り紐を買うことができた。
 紅蓮のためを思って一生懸命作ったお守りだ。

「これは……組紐か。花の形をしているな」
「はい。魔除け、厄除けになるよう梅にしました。紅蓮様のお力になれるよう、花を(かたど)ったお守りです」

 紅蓮は受け取るとさっそく組紐を手首に巻いた。

「これはいいな。ありがとう沙羅」
「いいえ、ささやかですが……」
「これにはおまえの霊気が込められているのか?」

 咲久耶はぎくっとした。そんな咲久耶を紅蓮が面白そうに見つめる。

「初めて会った日、おまえは花の霊気を舞わせていただろう?」

 やはり見られていたのだ。
 これまで聞かなかったのは紅蓮の優しさだろう。

 咲久耶はドキドキしながら胸に手を当てた。紅蓮の顔が怖くて見られない。

「な、なんのことだか……」
「嘘が下手だな」

 紅蓮が笑いを堪えるように言う。
 咲久耶はぐっと詰まった。

「なぜ隠す。霊気を扱えるのは希有な力だ。侍女などせずとも陰陽寮を目指せばいい」
「私にもいろいろ事情があるんです!!」

 思わず叫んでしまい、咲久耶は慌てて口に手を当てた。

(紅蓮様を怒鳴りつけてしまった……!)

 咲久耶の勢いに紅蓮がぽかんとし――そして、ぷっと吹き出した。

「はははは! そうか、悪かった」

 ひとしきり笑ったあと、紅蓮が咲久耶を見つめた。

「なあ、おまえ俺の側室になるか?」

 咲久耶は一瞬耳を疑った。
 すぐさま意味を理解した咲久耶は紅蓮をまっすぐ見つめた。

「なりません!」
「はは! 即答か」

 面白そうに笑う紅蓮だが、咲久耶はそれどころではなかった。

(まさか紅蓮様に求婚されるなんて!)

 咲久耶はハッとした。もしや冗談だったのだろうか。

「からかっていらっしゃるんですか?」
「いいや?」

 紅蓮がぐっと顔を近づけてくる。

「俺は本気だ。おまえといるとくつろげるんだ。気持ちが明るくなる」

 すっと紅蓮が咲久耶の髪を手に取った。

「初めて会ったときから惹かれていた」

 その真剣な眼差(まなざ)しに咲久耶は息を呑んだ。