扉の鍵を開けてくれたのは


 放課後、昂生と二人で待ち合わせのハンバーガー店に向かった。
 店の前に女の子が二人いる。
 昂生はハンバーガー屋まではよくしゃべっていたのに、女の子を見ると少しシュンとしたのが分かって苦笑した。

 挨拶をしあってから店内に入る。
 女の子のうち一人は化粧をしていて、もう一人は口紅だけ軽くつけていた。

 お化粧をしている女の子を見るとアミのことを思いだした。目が大きくてとても可愛かったけど、もうおぼろげにしか覚えていない。
 ハンバーガーのトレーを持って席につき、自己紹介をした。

 彼女たちは恋愛対象にはならないのに、それでも何を話していいか分からなくて緊張した。
 女の子たちの方がこういう事に慣れているのか、けっこうおしゃべりで仲がよさそうだった。

 四人で他愛のない話をしていると、あれーっ? と言う声にびっくりした。
 横を見るとトレーを持ったままの貴也と女の子が立っていた。

「うわ、翠じゃん。すごい偶然」
「誰ー、この子。めちゃ可愛いじゃん」
「翠だよ。俺がいつも話してるだろ」
「あー、再婚相手の息子かあ」
 
 アミちゃんだ。
 翠はギクッとして思わず顔を背けてテーブルを見た。
 自分の知っている貴也が、普通の男子高校生のような反応だったので、いたたまれない気持ちになった。

「あー、ごめん。邪魔して悪かった。じゃな」

 貴也はさらりと言ってアミと別の席に行ってしまった。
 昂生と二人の女の子も一瞬、黙ってしまい、翠はいつまでも下を向いているわけにはいかないと思って顔を上げた。

「あ、ごめんね。この間、お父さんが再婚して、その相手の息子さんで一緒に暮らすようになったんだ」
「へえー、そうなんだ」

 女の子たちは興味深そうに身を乗り出してきたが、翠はこれ以上は言いたくないと思った。昂生が助け船を出してくれる。

「まあ、離婚とか再婚とか、今じゃよく聞く話だよな」
「そうよね。うちの隣の家も離婚したんだよー」

 女の子の話が離婚の話題に移り、翠はふうっと息をついた。

 まさか、こんなところで貴也に会うなんて予想もしなかった。でも、よく考えたら鉢合わせる可能性はゼロじゃなかったことに気づく。その時、コツンと翠の肩に昂生の肩が触れた。横を見ると、ごめんな、と女の子には聞こえない声で謝った。翠は小さく首を横に振った。

 それからハンバーガーを食べながら少し話をして解散した。
 帰る間際に、女の子たちが連絡先を交換して欲しいと頼んできた。翠たちは快く連絡先を教えた。
 家までの帰り道、昂生はさっきまで話をしていた女の子たちの話題ではなく、貴也の話に触れてきた。

「貴也だっけ、かなりのイケメンだったな」

 昂生の言葉にドキッとする。長い付き合いなので嘘はつけなかった。

「……うん。昂生の目から見てもかっこいいと思うよね」
「まあね、隣にいた女の子って彼女なん?」
「うん。アミちゃんて言うんだって」
「ふうん……」

 昂生はそれ以上、聞いてこなかった。
 家の前まで送ってもらい昂生と別れた。

「ただいまー」

 家に入ると玲子が台所からスリッパをパタパタさせて玄関へ出てきた。

「お帰りなさい、今日の夕飯は私が作るから、翠くんはゆっくりしてね」
「え……。あ、はい。ありがとうございます」

 夕食の準備を考えていたので翠は拍子抜けした。考えていた献立は明日にまわそうと思い部屋に戻る。
 食事を作ることは翠にとっては苦ではない。むしろ、気分転換になっていた。

 部屋に入ってすぐに私服に着替えた。

 六月に入ってすぐに梅雨入りしたのに、雨はあんまり降っていない。半そでを着るには少し寒いし、かといって着込むと暑い。
 黒の半そでシャツにパーカーを羽織り、ジャージを履いた。

 今日出された宿題を片付けようと机に広げる。もくもくと宿題を済ませた。
 それから夕食前に父が帰って来た。
 貴也が帰って来たのは最後だったらしい。
 翠は一番にお風呂に入らせてもらって、ベッドに横になるといつの間にか眠ってしまっていた。