扉の鍵を開けてくれたのは



 父と玲子は遅くなるらしかったので、二人で夕食を食べた。
 貴也は学校の話や彼女のことを話してくれた。
 アミの名前が出るたびにドキッとしたが、何回も聞いていると自分の中にもなじんできたので、話してもらえて嬉しいとさえ感じた。

「貴也、先にお風呂入って」
「いいのか?」
「うん。僕は後でいい」

 あ、そうだと思い出す。貴也にあれを渡さなきゃ。
 貴也が来た日にネットで注文をしていた。注文した翌日には届いていたので、翠の部屋に置いてあった。

「貴也にプレゼントがあるんだ」
「えっ? マジで?」

 はしゃいだ声を聞いて翠もつられて笑った。貴也に少し待ってもらい部屋に取りに行く。机に置いてあったそれを持ってリビングに戻った。はい、と貴也に手渡す。

「僕の趣味で悪いんだけど」
「は?」

 受け取った貴也はその場でプレゼントを破った。出てきたのは紺色の無地のパジャマだ。

「パジャマ……」
「うん。玲子さんがうちで暮らすって聞いた時、何かプレゼントしようってお父さんが言い出して。それでパジャマにしたんだけど」
「ありがとう……」

 もしかして貴也はパジャマを着ない派だったりするのかな。この間の恰好は上下スウェット姿だったような気がする。

「あ、あの無理に着なくてもいいよ。着る習慣がなかったら別のにするし」
「何言ってんだよ。翠が選んでくれたんだろ?」
「う、うん……」
「できれば翠とおそろいにしてくれたらよかったのに」

 貴也が口を尖らせる。翠は泣きたいほど嬉しい気持ちになった。
 思わず顔が熱くなる。

「ありがとう、使わせてもらう」
「うん。着る前に一回洗うから洗濯機に入れておいてね」
「いろいろ知ってんだな翠は。今からでも嫁に行けそうだな」
「アハハそうかな」

 翠は笑いながら、僕はこのままでいい、と心の中で返事をした。
 貴也にお風呂に入ってもらい、自分は部屋に戻ってからベッドの上に寝転がって頭を抱えた。

 ヤバイ。
 向こうは単なる兄弟、友だちのような感覚でいるのに、こっちはドキドキしてばかりだ。
 絶対にばれないようにしなきゃ。

 そう思っているとスマホにメッセージが届いた。連絡をくれるのは昂生しかいない。
 アプリを開いて見る。

『明日ダブルデートしない?』と書かれてあった。
『誰か紹介されたの?』
『うん。放課後、ハンバーガー食べに行くならいいって。友だちも連れて来て欲しいって言われた』
『いいよ。行く』

 迷わずに返事をすると、昂生からのメッセージが一瞬、途絶えた。それからちょっとしてメッセージが入った。

『普通にびっくりした。何かいいことあった? 翠が一回でオッケーすることってないのに』

 そう書かれていてドキリとする。全く考えてもいなかった。知らずうちに浮かれていたのだろうか。

『別に何もないけど、ハンバーガー食べに行きたいと思っただけ』
『そうなんだ。じゃあ、明日また説明する』

 可愛いスタンプが送られてきて、既読にするとスマホを閉じた。

 昂生にはまだ彼女はいない。モテるのだがドキドキする相手じゃないから、と言っていた。それで、中学の時の友だちとたまに連絡を取って女の子を紹介してもらっている。
 翠もよく呼ばれるのだが、昂生が誰かと交際に至った女の子は一人もいなかった。

 天井を見上げて翠は呟いた。

「明日、女の子とハンバーガーか……」

 どうしてすんなりオッケーしちゃったんだろ、と自分でもちょっと不思議に思った。