月曜日、翠の家から貴也が通う高校までは少し距離があるからと、貴也はぶつぶつ呟きながらも早く起きてきた。
翠はいつも通り早起きして、朝食とみんなのお弁当を作った。
森岡家の家事はほとんど翠がやっている。
貴也にお弁当を渡すと、食べるのがめっちゃ楽しみ、と言ってウキウキして出かけて行った。
翠が学校へ出かける時間に、ピンポーンとチャイムの音がした。
「翠くん、昂生くんが迎えに来てくれたわよ」
「はーい、すぐ行きまーす」
翠はカバンを持つと玄関へ向かった。同級生の西岡昂生が立っていた。
「おはよう、翠」
「おはよう。玲子さん行ってきます」
「行ってらっしゃい」
「行ってきまーす、玲子さん」
昂生が言って二人は外へ出た。彼は小学校の時からの友人で唯一、翠の性癖のことを知っている少年だった。
歩き始めてすぐに、翠は貴也の話をした。
昂生は相槌を打ちながら、へええと意味ありげな声を出した。翠は唇をすぼめた。
「何、その言い方」
「そんなにかっこよかったんだ」
「え? まあ、うん……」
「翠は惚れっぽいからなあ」
「う……」
それを言われると反論できない。
誰かと付き合うなんて想像したことないし、告白しないって決めているから、妄想だけで満足する癖がついているのかもしれない。
友だちの昂生も整った顔の少年だったが、彼には恋愛感情を抱いたことは一度もなかった。それを言うと、俺も同じ、と昂生が笑って言った。
「翠って、女子を抜いてダントツに可愛い顔をしているけど、恋愛の対象にはならないんだよなー」
「当たり前だろ、それが普通なんだから」
何を言ってるんだ、と呆れる。しかし、小学生の頃、下校時、一人で歩いていると、知らない人につきまとわれたことがあった。なので高校も昂生と同じ学校を選んで、登下校はいつも昂生がいてくれる。
学校まで他愛のない話をしながら二人は同じ教室へ入った。
ホームルームが始まり、いつもの日常が始まる。
貴也も今頃、学校にいるんだろうな、と想像してしまってから慌てて打ち消した。
こんなおかしな癖やめなくちゃ。
一時間目の教科書を机から出しながら翠は息をついた。
昼休みは昂生と机を合わせてお弁当を食べる。お弁当の蓋を開けると昂生がからかうように言った。
「あれー? なんかいつもより豪華じゃないか」
「そう? 普通だけど」
きんぴらごぼうをもごもごさせて目を逸らす。昂生は鋭いな、とどきりとした。おかずを一品増やしただけなのに。
昂生はニヤニヤしている。
翠は亡くなった祖母から料理を習っていた。
自分の趣味が料理でよかったと思う。お弁当の本とか料理本を眺めるのも好きだった。
あ、そうだ。貴也が一緒に暮らし始めるなら、好みを聞いておいた方がいいかもしれない。
そう思った瞬間、すぐに思考が貴也へ向いてしまうことに気づいて小さく首を振った。
ダメダメ。考えない。
翠はお弁当を食べることに集中した。

