扉の鍵を開けてくれたのは



 日曜日も朝からいい天気だった。
 
 一緒に家を出て、時間通り映画を観た後、貴也が何か食べたいと言った。そのまま家に帰らないのだと知って、ちょっと嬉しかった。

 貴也がオススメの喫茶店があるとのことで、そこへ行くことにした。歩きながらいろいろ話をした。
 意外にも貴也は甘い物が好きらしい。

 喫茶店には行ったことがない。高校生が入っていいのだろうかと不安になる。
 貴也は慣れているのか、店内に入ると給仕の女性が席に案内してくれた。二人掛けのソファだったが、翠の隣に貴也が座った。
 メニューを広げる。

「翠は何にする?」
「あ、うん」

 どれも美味しそうだった。

「俺、これにする」

 貴也はいちごパフェを選んだ。

「この間さ、アミが食べてんの見て、俺も食べてーって思ったんだ」
「へ?」

 アミという女の子の名前が出て来て、思いがけずドキッとした。とっさに声が出なかった。

「あ……か、彼女?」
「え? ああ、まあそんな感じだな」

 ヘヘっとはにかんで笑う。貴也に彼女がいてもおかしくなかったのに、自分はかなり浮かれていたんだ、とその時になって気づいた。

「写真とかあるの?」
「えー、意外。翠ってそういうの見たい方なんだ」

 貴也が言ってスマホを出して見せてくれた。
 女の子と貴也が一緒に笑っている写真だった。前髪を下ろして、目がぱっちりした少しだけ髪を茶色に染めた可愛い女の子だった。二人の肩はぴったりくっついている。

「すごく可愛いね」
「そうか? ちょっと派手じゃね?」

 そう言うわりにうれしそうに見える。
 自分とは全く正反対のタイプだ、と考えて、女の子と比較してどうする、と自分に嫌気が差した。

「た、貴也の学校って校則厳しくないの? 化粧とか髪の色とか」
「ああ! 学校で思い出した。俺、一緒に暮らせてラッキーって思ったのはさ、翠の学校って偏差値高いじゃん? よかったら勉強教えてよ。アミはこの通り茶髪だし」

 茶髪と偏差値が何の関係があるのか分からないが、校則は割と自由らしい感じがした。

「ぼ、僕でよかったら」

 社交辞令のような返事をして、ふうっと息を吐いた。

 良かった、と自分に言い聞かせる。
 貴也には彼女がいるんだ。だったら大丈夫じゃん。もっと気楽に接すればいい。
 おかげでかなり気分が楽になったし、気持ちも吹っ切れた気がした。

 翠が急ににこにこしだしたので、貴也が怪訝な顔で見た。

「どした?」
「ううん、なんでもない。えっと僕はこれにする」

 翠はチーズケーキのセットを指さした。
 この店にはよく来るのかもしれない。貴也はお店の人に手を挙げるとさっそく注文を取ってくれた。
 貴也の彼女の話題のおかげで、翠の体からすっかりと緊張が解けていた。

 映画に誘われて有頂天になっていた。
 貴也は僕とは違って普通なんだから。
 普通の人に自分の性癖を言うわけにはいかない。ていうか、もうこの時点で世界が違う。
 そう思うと、この喫茶店での体験は、最初で最後の思い出にしようと思った。