扉の鍵を開けてくれたのは


 食後、部屋に戻り、順番にお風呂に入ってもらって待っている間、翠は部屋で休んでいた。すると、ドアをノックして貴也が顔をのぞかせた。

「入ってもいい?」

 そういえば、いつも貴也が部屋に来てくれてばかりだと気づいた。翠の方から動くことはあまりない。
 貴也がいつものようにベッドに腰かけた。

「おじさんたちにばれてたな」
「そうだね」

 そう言って貴也の隣に翠も座った。ベッドが少し傾くと体が近くなってドキドキした。

「夏休みもほとんど終わったな」
「うん」
「明日は水族館に行こう」
「うん」
「その後は……」
「来年は塾とか行ったりするんだよね」
「まあ、そうかもな」

 翠はそっと貴也の肩にもたれてみた。貴也がびくっとする。少しだけ貴也に触れたかった。

「なあ、俺たちの親って、ちょっと変わってるな」
「え?」

 そうかもしれない。父は、翠が小学校の頃からずっと悩んでいた事をあっさりと受け入れてくれていたのだ。でも、この変化は、貴也と玲子がうちに来てくれたからだ。

「貴也、ありがと」
「何、急に」
「僕、一生、一人で生きていこうって思ってたんだ」
「マジでか」
「うん」
「はあー」

 貴也が大きく息を吐きだす。

「翠を誰かにとられる前に、俺が先に出会っててよかったあ……」
「何それ」
「翠はモテてる自覚が足りないと思う。昂生に言われたことない?」
「ないよ。そんなはずないから」
「どこからその思考になるんだ?」

 自分は男だ。どんなに肌がきれいでかわいいと言われても男だから。お母さんが女優をしていたというだけで、特別でもなんでもない。

「僕は普通だよ」
「翠」

 貴也が翠の頭を優しくなでなでした。

「子ども扱いしてない?」
「そうかも。でも、やりたくなるんだよなー」

 いいけど別に。
 翠が口を尖らせて、二人で笑う。貴也がふっと真顔になって顔を近づけた。

「貴也ー、お風呂入ってー」

 突如、玲子の声がして貴也が慌てて体を離した。

「風呂入ってくる」
「う、うん」

 あたふたと出て行く貴也を見送りながら、心臓がドッキンドッキンと激しく鳴り首筋が熱かった。
 今のって……。
 翠は自分の唇をそっと押さえると、ベッドに顔を押し付けた。