扉の鍵を開けてくれたのは


 同性しか好きになれない事に気づいたのは割と早かった。
 女子は細くて可愛いけど自分も小柄だったせいか、少し体格のいい男子がそばにいるだけで、心臓が破裂しそうなくらいドキドキした。
 自分は変態だと悩んだこともあったが、女の子と手を繋いでもドキドキしない。だから、中学に上がった時にこの気持ちを受け入れることにした。

 これまでたくさん片思いをしてきたけど、気持ちを打ち明けたことは一度もない。きっとこれからも告白する勇気なんて起きないと思う。

 同性を好きだと受け入れた数年後、母が亡くなり、父が再婚したいと言った。
 再婚相手の写真を見せてもらった時、一緒に写っている少年を見てドキッとした。自分とは違ってすごくかっこよかった。
 父は優しくてとてもいい人だ。だから、その人も息子さんもきっといい人だと思う。
 翠は、反対することもなく再婚を受け入れた。

 玲子の息子が父親と一緒に住むと聞いて、正直言うとがっかりしたけど、よかったと思っていた。もし、一緒に暮らすようになって、自分が恋愛の対象になると知ったら、きっと気持ち悪いと思われてしまう。
 だから、父親の方に行ってもらってよかったと安堵していたのに――

 悶々と考えていると、部屋のドアをノックをする音にハッとした。

「あ、はい!」
「翠? 俺だけど入っていい?」
「あ、うん」

 翠は急いで立ち上がるとドアを開けた。貴也が人懐っこい笑みで立っている。

「ど、どうぞ」

 ドキドキしながら貴也を部屋に入れる。
 貴也は部屋の中をじろじろ見ながら、綺麗な部屋だなー、と感心して言った。

「あ、あの、何?」
「いやー、いきなり一緒に暮らすって聞いて、嫌な気持ちにさせたかなーと思って」
「ま、まさかっ」

 翠は慌てて否定した。

「それならいいや」

 貴也は笑うと座っていい? とベッドの方を指さした。

「あ、どうぞ」

 貴也がベッドの縁に腰かける。翠はどこに座ろうと悩んでから椅子に座った。

「あー、俺が使える部屋ってあるかな」
「余ってる部屋……」

 翠は一人っ子だ。この家は年代ものの純和風の家で、部屋の数は多くて広い。確か一階の客室の和室が一つ空いていた。でも、その部屋には家具以外何も置いていなかった。

「この部屋使ってよ」
「は?」

 貴也がぽかんと口を開ける。

「いやいや、翠はどこに行くんだよ」
「和室が一つ空いているから、僕がそこへ行く。布団を敷けばいいだけだし」

 そう言うと貴也が急に真顔になって、翠はドキッとした。

「あ……僕何か変な事言った?」
「だって、後から入った俺がそこで寝るべきだろ普通」
「そうなのかな……」

 普通がよく分からない。翠はどこででも寝られるし、気にしないタイプだった。二人とも黙りこんだので部屋がシーンとなった。

「あ、あの、怒った?」
「怒るわけないだろ」

 貴也が首を振って息をついた。

「おじさんと相談してくる」
「あ……」

 貴也は部屋を出て行ってしまった。
 どうすることもできず翠は肩を落とした。

 それから貴也は、父に相談して空いている和室を使う事に決めたらしい。あっという間に引っ越しをすませてしまった。
 本当に一緒に暮らすんだ。
 何の覚悟もできないまま、翠はまるで夢の中にいるのではないかと思った。