扉の鍵を開けてくれたのは




 夏休みに入って学校も休みになると、貴也は以前の学校の友だちと出かけたり、時々、翠とプールや図書館などに出かけた。
 何となくだが、遊園地の後から貴也の様子が少し変わった気がした。
 昂生に言うと、全く分からんけど、と言われたが、スキンシップがなくなったのだ。
 肩に腕をまわしたり、動画を見ていても肩に寄りかかってきたりしない。
 それが普通なんだろうけど。

 夜、夏休みの宿題もほとんどすませて壁にもたれて本を読んでいると、ドアをノックする音と貴也の声が同時に聞こえてきた。

「翠?」
「何?」

 翠は本を置いてドアを開けた。貴也は、お風呂に入ったはずなのに洋服を着ている。

「コンビニ行かないか?」
「いいけど」

 まだ夜の七時で外は薄暗くなった程度だ。何か買いたい物があるのかもしれない。
 特に買い物はなかったが、父と玲子からもらった肩掛けショルダーバッグに財布とスマホを入れて外へ出た。
 夜になっても暑い。
 高温とまではいかないが、歩き始めると少し汗ばむ。貴也も何を考えているのか、何も言わずコンビニへとぶらぶら歩いて行く。

「何買うの?」
「アイス」

 アイスか。僕も何か買おうかな、と思いながら貴也の隣を歩いた。
 だいぶ慣れてきた気がする。
 隣にいても以前ほどドキドキしない。
 よかった、と少し下を向いて笑った。靴先を見ながら歩いていると、少しつまずいて転びそうになった。

「翠っ」

 驚いた貴也が腕を引いてくれた。ひやっとして翠は笑ってごまかした。

「ごめん、下向いて歩いていた」
「気をつけろよ」
「うん」

 それから二人で学校の話をしながらコンビニに着いた。中に入って二人でアイスクリームを物色していると、コンビニに数人の男女が入ってきた。彼らはまっすぐに、アイスを選んでいた翠たちの方へ向かってきた。

「貴也じゃん! マジで奇跡なんだけど」
「え? なんでみんなここにいるの?」

 貴也が驚いて四人グループを見た。

「アミが貴也に会いたいって言うからさ、こっちまで来てやったのよ」
「でも家が分かんないから、コンビニに呼び出そうぜって話してたんだけど、ラッキー」

 翠はドキリとして四人グループの中にアミちゃんがいるのに気づいた。以前よりもさらに髪が伸びていた。
 貴也はキョトンとしている。

「俺に? なんで?」
「なんでってー、もうっ」

 アミが口を尖らせた。

「転校すんじゃんっ。会いに来なきゃ、貴也に会えないじゃんっ」

 そう言うなり、唇を震わせるとうつむいた。翠は息が苦しくなって貴也を見た。貴也は呆然とした顔でアミを見ていた。

「ヨリ戻してやれよ」

 まわりの子たちが言うとアミはいいから、と顔を振った。

「友だちでいいんだよ。ずっと友だちで」

 けなげだなー、と男子がはやすのをアミがすごい目で睨む。翠は、自分はここにいちゃいけないと思った。

「貴也、僕、帰るよ」
「ダメだっ」

 翠が出ていこうとすると、貴也がその手をぎゅっと握った。

「ごめん。みんな。こいつ一人にするわけにいかないから、家まで送ってからまた来るよ。待っててくれる?」
「いいけど……」

 四人の視線が自分に集まる。
 翠はいたたまれない気持ちになった。

「貴也、もう大丈夫だから」
「絶対にダメ」

 貴也は頑なに言って、その手を放してくれなかった。何も買わないでコンビニを出る。コンビニの店員が迷惑そうな顔をしていた。
 家までの帰り道、貴也は手を放さなかった。
 翠は何か言おうとしたが、言葉が見つからなかった。自分のために学校を転入するという貴也の気持ちを思うと、どうしていいか分からなくなる。
 誕生日のプレゼントは何がいい? と聞かれた時によく似ていた。転校なんかしなくていいよ、なんて簡単に言ってしまって、貴也の気持ちを踏みにじるのは嫌だった。
 けれど、本当に貴也は転校までする必要はあるのだろうか。

 家に着くなり、貴也は走ってコンビニに行ってしまった。
 翠は部屋に戻るとベッドに腰かけて顔を枕へ押し付けた。
 貴也は、アミちゃんとヨリを戻すのだろうか。
 嫌だ。こんな気持ちになる自分が一番最低だ、と思った。