扉の鍵を開けてくれたのは


 ドーナツを食べた後、貴也が本屋に寄りたいというので、寄り道をして家に帰った。
 そのままそれぞれ部屋に戻ったが、貴也がすぐに部屋にやってきた。

「宿題しよ」

 貴也がノートを抱えて入ってくる。
 案外、真面目なんだな、と翠は感心してしまった。

 玲子が夕食を作ってくれるというので、時間はたっぷりある。
 宿題をすませてしまうと、貴也がスマホを見始めたので、自分は読みかけの推理小説を読んだ。

 集中して読んでいると、気づけばベッドの上で貴也が寝ていた。
 静かだなと思っていたので、思わず笑ってしまった。
 お茶でも持って来ようと思い、部屋を出て戻ってからもまだ眠っていた。

 貴也はどうして転入しようと思ったんだろう。
 どうしても分からなくて、不思議に思って眺めていると貴也が目を覚ました。

「あ、麦茶あるよ」
「ああ……ごめん、寝てた? 俺」

 貴也が目をこすって小さくあくびをした。

「ねえ、貴也って好きな食べ物は何?」
「好きな食べ物?」
「お弁当のおかずの参考にしようと思って」
「何でもいいよ」

 定番の答えだ。翠は思わず苦笑した。
 作る方はいろいろ考えるが、作らない人はそう答えるのが普通かもな、と思う。

「そうだよね。あ、そうだ。明日は図書館に本を返しに行くから、迎えに来なくていいよ」
「ええ、なんで?」
「昂生と行くから」

 翠が言うと貴也が顔をしかめた。

「俺が一緒に行くよ」
「いいよ。申し訳ないから」
「いいって言ってんだろ」
「あの、大丈夫だよ?」
「何が」
「誕生日の日の事、気にしてるなら貴也は何も悪くないし」

 貴也の顔がこわばる。

「俺が罪滅ぼしのために、そばにいると思ってる?」

 あ、まただ。
 自分は考えなしに相手を不機嫌にさせることばかり言ってしまっている。

「ごめん……」

 また、二人の間でひんやりした空気が流れる。貴也は少し黙っていたが、そうじゃないよ、と呟いた。

「翠から見たら俺、頼りない奴に見えるかもしれないけど、俺にとって、翠は弟みたいな感じでさ。実際は俺の方が誕生日は後だけど、なんかほっとけないんだよ」
「弟……」
「父さんの再婚相手の女の子ってこんなに小さくてさ、守ってあげたい感じで、それと似てるんだ」
「……へ? その子って五歳でしょ?」
「まあ、そうなんだけど」

 そうか。僕、五歳の女の子と一緒に思われてたんだ。
 事実が分かって、自分に笑ってしまった。

 翠が前に、うっかりと自分の恋愛対象は男だという話をしても責めなかったし、気持ち悪いとも言われなかった。
 それでいて、放っておけないと思ってくれるなんて。
 貴也は本当に優しい。

「分かった。貴也がそれでいいのなら」
「いいって言ってるだろ」

 貴也が手を伸ばすと、翠の頭をなでなでした。

「かわいいかわいい」
「あのね、男だからね」
「知ってるって」

 完全に子ども扱いされている。
 貴也ってきっと面倒見がいいんだな、と思うことにした。
 もし、自分にも小さな弟ができたら、きっと可愛がりたいって思うはずだ。
 それと同じだ。答えはこんなにも簡単だったのだ。