扉の鍵を開けてくれたのは


 一緒の家に住んでいるのに、自分の誕生日の日が待ち遠しくてたまらない。
 何を着ていこうかと一週間くらい前から考えた。

 それまでに一度、女の子たちとも会ってみた。
 放課後にフードコートで待ち合わせて会ってみると、二回目だったせいか、案外、話が合って楽しかった。
 彼女たちの学校も共学で、クラスメートの男子になかなか声をかけられないと言っていた。

 二人は前のように恥ずかしがるばかりではなくて、気さくに同級生のような感じで接してくれた。
 こうして素直に心を開いてみると、叔父の事や女の子の事など、自分が勝手に思い込んでいた部分が大きかった気がする。
 貴也と出会った事でいろんな事に気づけた。それに昂生はいつもそばにいて、自分を助けてくれているんだと思った。

「昂生」
「ん?」

 カフェラテのミルクをかき混ぜていた昂生がこちらを見た。

「ありがとう」
「は?」

 スプーンを混ぜる手が止まって顔が赤くなる。

「いきなりなんだよっ」
「いや、お礼が言いたくなってさ」
「仲いいんだねー」

 女の子がニヤニヤして言った。

「うちらも仲いいけどねー」

 二人は手をぎゅっと繋いでにこりと笑った。
 今日は楽しかったね、と言って彼女たちと別れた。

 昂生と家まで歩きながら、思い切って女の子たちと会ってよかったことを伝えた。

「昂生はどちらかと付き合ってみたいって思わないの?」
「うーん……」

 昂生が腕を組んで考えている。

「今はそんな気持ちにならないな。楽しかったからよかったなって感じ。それよりさ、翠の方が気になる。貴也だっけ。どうなんだよ、好きなの?」
「うっ」

 ずばり聞かれて、どうリアクションを取っていいか分からずに翠は足を止めた。

「す、好きってそんなの分かんないよ」
「まあ、出会ったばかりでお互いの事なんて全然分かんないよな」

 昂生のように理解してくれている人は稀だ。

「昂生、貴也には絶対に俺の事言わないでね」
「わーってるよ。でも、好きになったんなら応援するよ」

 親指を立ててグーッというサインを出す。

「いや、何もしないで頼むから」

 気持ちは嬉しいけど、そっとしておいてほしい。
 翠は思わず手を合わせて頼んだ。昂生が笑いだす。
 いつものように家まで送ってもらうと、誰かが家の前に立っていた。

「あれって貴也じゃないの?」

 昂生が先に気づいた。翠も目を丸くして貴也を見る。

「ただいま。貴也、どうしたの?」
「お帰り。何時頃帰る? って、スマホに送ったんだけど」
「えっ」

 すっかり話に夢中でスマホの確認をしていなかった。ごめんね、と慌てて謝る。いいよ、と貴也は言いながら、ちらと昂生を見て頭を下げた。

「この前は挨拶しなくてごめん。佐野貴也です」
「ああ、俺こそ。初めまして。西岡昂生です」

 昂生と貴也が挨拶をしている。何だか不思議な感じがした。二人が友だちになるのもありかもしれない。

「昂生……に会いたかったんだ。翠から聞いた。いつも守ってくれてるって」
「は? 守る?」

 昂生がキョトンとする。翠も同じようにキョトンとした。

「翠がよく変質者につきまとわれるって聞いたから」
「ああ、そういう事。そうなんだよ、な、翠」
「いや、毎日じゃないけど」
「その役目、俺も手伝いたいって思って」
「えっ」

 翠が驚きのあまり声を上げた。

「な、何言ってんの?」
「いいじゃん、翠、貴也がそう言うんだから、手伝ってもらえよ」
「でも、貴也だって忙しいだろ、それに学校も違うし」
「学校のことは仕方ないけど、それでも休みの日とか、放課後とかいろいろあるだろ」

 翠は困惑した。何が起きているのかパニックになりそうだった。それに――。

「アミちゃんは? 彼女いるんでしょ? いいの?」
「アミとはもう会ってないよ」

 貴也の衝撃発言に、翠と昂生がギョッとした。

「とにかく今はフリーだから。翠の面倒を見る余裕があるの」
「男らしー、かっこいいじゃん、なあ、翠」

 昂生がからかう。翠はどう答えていいか分からない。
 アミちゃんと何かあったのだろうか。そっちの方が心配だ。

「とにかくアミのことはいいから」
「そっか。じゃあ、翠のことは任せた。でも、困ったときはいつでも俺に連絡して。あー、さみしいけど、俺もかわいい彼女見つけちゃおっかな」

 昂生が明らかにふざけた口調で言った。貴也は、昂生を見てけらけら笑い、翠の方へ近づくと腕を回して肩を引き寄せた。

「任せてくれ」

 あまりの展開についていけない。貴也の顔が近すぎて息を止めてしまった。

「じゃあ、俺は帰るね。また月曜日な」

 昂生が去って行く。翠は隣にいる貴也を見上げた。

「な、なんで? 何かあったの?」
「別にいいだろ。入ろ」

 貴也が翠の手を引いて家の中に入った。