扉の鍵を開けてくれたのは



 その日の夕食時、玲子と父、そして貴也がいる前で叔父から連絡をもらって困っていることを相談した。
 父は顔を険しくさせて、彼にはきちんと話をつけると言ってくれた。
 事情を知らない貴也と玲子に説明をすると、玲子がぷんぷんと怒った。

「弱みに付け込む悪代官みたいな人ね」

 たとえがよく分からないが、悪代官はいい人ではないのだろう。

「翠、今すぐにスマホに登録してある哲司くんを着信拒否にして、連絡先をブロックするんだ」
「いいの?」
「いいんだよ。お母さんの弟だからって翠が相手をする必要はない」

 父の強い言葉を聞いて、相談してよかったと思った。

「うん。ありがとう」
「もっと早くに対処すればよかったよ。ごめんな、翠」

 父に謝られて翠は首を振った。

「僕ももっと早く言えばよかった」

 叔父の連絡先をすべて抹消してしまうと、急に心が軽くなった気がした。
 片づけをすませて部屋に戻るとき、貴也がついてきた。

「翠、部屋に入ってもいい?」
「いいよ」

 ドキッとしたが、最初ほど緊張はしない。
 貴也はベッドに座ると、怖かったなと呟いた。

「ずっと悩んでたのか?」
「悩みというほどじゃないけど、連絡が来るたびにびくっとしたかな」
「誤解しないでほしいんだけど、そいつたぶん、翠が可愛かったんだと思うよ」
「え?」
「あ、いや、変な意味じゃなくて。翠ってきれいな顔しているから。つながりを絶ちたくなかったんじゃないかな」

 叔父にとって、翠は血のつながりのある甥っ子ではある。母が亡くなる前までは優しい叔父だった。
 でも、人はあんなにも豹変するのだと思わせたのも叔父だった。

「あー、それでその叔父さんなんだけど、帰りとか気になるんだったら俺、帰り迎えに行こうかと思って」
「え? な、なんで?」
「翠の友だちだって、たまに用事があったりするだろ。俺、暇だし」

 アミはいいのだろうか、と言いかけてやめた。

「あ、ありがとう。でも、近いうち僕もまた女の子たちと会う約束していて……」
「へ?」
「前にハンバーガー屋さんで会ったでしょ。あの子たちがまた会いたいって言ってくれて。女の子って苦手だったんだけど、いつまでもそんな事言っていたらダメだと思って。会ってみたいって、昂生に頼んだんだ」
「そ、そっか。よかったな」
「うん。だから、大丈夫だよ。昂生もいるし」
「あー、うん。そうだな、分かった。あ、それで、翠の誕生日だけど、どこに行く? ハンバーガーはさすがに飽きただろ」

 今週の土曜日が誕生日だ。
 どこに行きたいだろうか。水族館も行きたいしカフェでもいい。
 貴也はどんな服が好きかとか知りたいし、正直言って、貴也とだったらどこでもよかった。

「水族館……」
「え?」
「男二人で水族館って……おかしいかな」
「おかしくない。俺も行きたいって思ってたし」
「じゃあ、水族館に行きたい」

 場所が決まるとその日のスケジュールは俺が組むから、と貴也がウキウキしたような口調で言った。
 自分は家族で恋人でもないから、アミちゃんに遠慮する必要はない。
 貴也のようにさっぱりした性格だったら、もし、自分が女の子だったとしても分け隔てなく誘ってくれたような気がした。

「楽しみだね」

 翠が嬉しそうに笑って言った。