貴也とスマホの連絡先を交換したが、連絡をもらったことはない。
自分から連絡しようとも思わなかった。
昨日会った女の子にも連絡をするつもりはなくて、向こうからも連絡は来なかった。
女友だちだなんて嘘をついた自分に嫌気が差す。
その日、学校が終わって、玄関を出ようとすると雨が降っていた。
傘を忘れたことに気づく。
運悪く、昂生も委員会だか何だかで一緒には帰れなかった。
今更だが、スマホで天気予報を確認すると、雨のマークがついていて90%と予報も高い。力強い雨粒が地面を叩きつけている。
少し雨が止むのを待とうか、そう思っていると、ピコンとスマホにメッセージが入った。昂生かなと思ってみると、タカヤという名前が表示されている。
「あ……」
思わず声が出ていた。
急いでメッセージを開いてみると、今、校門で待ってるんだけどまだ学校にいる? とあった。
「えっ」
翠は濡れるのも構わずに玄関を飛び出していた。急いで校門へ走ると他校の制服姿の貴也が大きめの傘をさして立っていた。
翠が濡れているのに気づいて貴也が走ってきた。
「翠、濡れるぞ」
「ど、どうしてっ」
「母さんから連絡があったんだよ。翠がたぶん傘を忘れているから、持って行ってやれって」
「家を出たのは僕の方が後だったのに……」
「母さん、ドジだよな。俺が出かける時、雨が降るから持って行けって、こんな大きな傘を押し付けてきたのに。俺、折り畳み傘、持っているから」
貴也がそう言って自分の折り畳み傘を差し出した。
翠は受け取って傘を開くと、待ってくれていた貴也が歩き始めた。
翠は黙って隣を歩いた。
嬉しい。唇を噛みしめる。
ありがとうって言えばいいのに、恥ずかしくて言えなかった。
話しかけたいのに緊張しすぎて言葉が見つからない。
貴也もあんまり話をしなかった。
家につくとそれぞれの部屋に入った。玲子もいない。仕事で遅くなるのだろう。父もたいてい十九時頃に帰ってくる。
着替えをすませて少しぼんやりする。
せっかく二人で帰ったのに、何も聞けなかった。意識しすぎると何を話していいか分からない。
宿題をすませようと思って机に向かう。同じ家に貴也がいる。
前は一緒に勉強しようと声をかけてくれたのに、今日は来ない。さみしい。だったら自分から話しかければいいのに、素直になれない。
その時、廊下を歩く音がしてドキッとした。静かに歩く足音が玄関に向かって扉が閉まる音がした。出かけたんだ。
そう思うとホッとしている自分と悲しんでいる自分がいた。
宿題しなきゃ。気持ちを切り替えて翠は宿題を始めた。
台所に立って夕飯の準備をしていると、今になって、貴也にちゃんとお礼を言っていなかったことに気づいた。
今からでも遅くない。スマホでいいからお礼を言おう。
急いでスマホを手に取った。
『今日は迎えに来てくれてありがとう。お礼を言うのが遅くなってごめんね』
そう文章を入れるとすぐに既読になって、気にしなくていいよ、と返事が来た。
可愛いスタンプを見て、貴也が気にしていない事にホッとする。
それだけで心が浮き浮きしている自分に笑ってしまった。
貴也の一言だけで一喜一憂している。
沼にはまっていく自分に気づいた。早めにセーブしなきゃいけないのかもしれない。

