扉の鍵を開けてくれたのは



 翌朝、みんなで朝食を食べた。
 昨日、貴也はいつ帰ったのだろう。
 朝の食卓にはいて、変わらない様子で屈託なく笑っている。

「翠、そういえば連絡先交換してなかったよね」
「あ、うん。そうだね」

 翠はテーブルに置いてあったスマホを取って、貴也のスマホとQRコードをスキャンした。

「よかった。これで何かあった時、翠に連絡ができる」
「何かあった時って何?」
「まあまあ」

 貴也が言葉を濁すようにして、にやっと笑った。翠には分からなくて眉をひそめた。

「貴也、翠くんに迷惑かけちゃだめよ。夕べもかなり遅くに帰って来たんだから」
「昨日はカラオケに行って、そこでご飯も食べていたら遅くなったんだよ」
「高校生がそんなに遅くまで遊んでいて、注意されないのかい?」

 父が不思議そうに言った。

「まあ、ばれないよね」

 貴也は平然と言う。翠にはそんなの怖くてできない。

「ごちそうさま」

 翠は手を合わせると席を立った。
 本当はみんなが食事をしている間は座っているべきなのだろうが、片づけをすませようと思った。
 貴也は学校はいいのだろうか。ずいぶん、ゆっくりしているなと思う。
 食器を洗っていると、貴也が隣にやって来た。翠は貴也の食器も洗おうと思った。

「あ、それも洗おうか?」
「あのさ、昨日バーガー屋で会ったのって、彼女?」
「……は?」

 翠は泡のついた手を止めて思わず貴也の顔を見た。そして、彼が誤解していることに気づく。

「ま、まさか」
「あ、そうなの? てっきり彼女かと思って、ちょっとショックだったんだよ。彼女いるんなら紹介して欲しかったなって思って」

 どうして自分に彼女がいたら貴也に伝えなきゃいけないのか。
 動揺して考えがまとまらず、慌てて否定してしまった。

「僕、そういうの嫌だから」
「そういうの嫌ってどういう意味?」

 しまった、と翠は焦った。言い訳が見つからなくって背中に汗をかいた。

「あ、その……」
「嫌なのに女の子とハンバーガー食べてたの?」
「ただの友だち」
「女の子が友だちかあ……」

 貴也にとって、女の子は好きになる相手であって、友だちという認識はないのかもしれない。
 翠も女の子に告白されたことはあるが、友だちでいいならと返事をすると、ムッとされた。

「あの……。貴也、学校、行かなくていいの? 遅刻しちゃうよ」
「あ? ああ、うん」

 翠の方から話題を変えると、貴也は腑に落ちない顔で食器を置いて台所を出て行った。翠は、貴也の分も片づけて部屋に戻った。
 昂生が来るまで少し時間があったので、読みかけの小説を読もうと思ったけど、何も手につかなかった。