アイドルの君へ伝えたいことー配信アイドルの僕が、本物のアイドルに恋をした—

「お邪魔のところ、失礼するけど。悠生。頑張ってね! じゃあ」

 美月はペンライトを振って、立ち去ろうとした時、STELLAのメンバーがやってきた。

「なになに。なにしてんの? え? 女の子。なに橙羽の彼女?」

 ジャージ姿の辻本くんはキャンディーを片手に持ち、口に入れながら聞いてきた。

「違うから。分かってるでしょ。こういうこと?」

 英くんは僕の肩に手を回して、お互いの顔をくっつけ合った。

「そっか、そっか。よかったね」

 オシャレな格好をしている柚元くんは辻本くんの後ろにいて、前に出てきた。

「柚元くん?」

 柚元くんが現れたら、美月は両手にペンライトを持ち、目がハートになっていた。

「え? もしかして、俺のファン?」

 美月が持っていたグッズには柚元くんのグッズばかりだった。

 タオルや鞄・ヘアゴムまでもが全部柚元くんグッズだ。

 美月の全身に身に着けているものを見て、柚元くんは言った。

「はい!」

 英くんと先ほど話している態度とは違く、乙女になっていた。

「あ、前の方にいた子だ。長谷川くんの隣にいたから覚えてるよ。さっきも、好き! って叫んでくれたよね。ファンになってくれて、ありがとう」

 柚元くんからファンサービスを受けると、美月は膝から崩れ落ちた。

「ああ、またやったよ。柚元くんのファンサービス。結構強烈だからね」

 全身黒コーデの服装で柔宮くんは美月の隣に来てしゃがみこみ、自分の頬に手をついて頷いていた。

「柔宮。この子、困ってる」

 柔宮くんの後ろで立ち尽くしている固蔵くんは半袖半ズボンの格好でぼそりと呟いた。

「あ、ゴメン。僕たちはあっち行こうか。二人のお邪魔みたいだしね。ねぇ?」

 柔宮くんは僕と英くんにウィンクをした。

 気を利かせて、僕たち二人にさせようとしてくれた。

「美月ちゃんだっけ。長谷川くんの友達なら、今からの打ち合わせ来てよ」

 突拍子なく、柔宮くんが提案した。

「え? いやそれはどうかな」

 柚元くんはその提案に同意しなかった。

「柔宮。それはね…」

 固蔵くんは言葉に詰まっていた。

「まずは、ここ出よう」

 柚元くんの言葉で他のメンバーと美月は出て行った。

 お互い二人きりになった。

「…なんか、一気に静かになったね」

 僕はちらりと周りに視線を向けてから、目の前にいる英くんに言う。

「うん」

 英くんは返事をして、僕を澄んだ水晶の形をした目が捕らえた。

「ねぇ、これからさ、いろんなことしよう。STELLAのプロヂュースだってしてもらえるんだ
し。あとは、アイドルや僕のこと、これからも見ていってほしい。ずっと、こんな俺でもいい?」

 英くんは落ちる涙を堪えて、僕に少し涙声で優しく言う。

「…もちろんだよ。僕もずっと英くんといたい。これからもよろしくね」

 僕は英くんに手を差し出す。

「うん、よろしく」

 僕の手を重ねて、抱きしめ合った。

 時間ギリギリまで。

 英くんを探している声がして、僕たちは身体を離れた。

「じゃあ、また」

 まだ英くんの温もりを感じていたいが、仕事なんだからと僕は心の言葉を飲み込む。

 僕が英くんに言うと、悲しげに目を細めて優しく伝えた。

 その言葉に英くんは僕のところに戻ってきた。

「時間だよ、英くん」

「うん、分かってる。充電!」

 英くんは僕の肩に寄りかかり、また抱き締めた。

 どんな時だって、僕は英くんのいろんな面を見ていたい。

 それが苦しくても寂しくても、僕は英くんの味方だから。

「英くん! また連絡する!」

 僕は手を振り、英くんは仕事へと戻った。

 英くんはグーを作り、くしゃっと笑って、大きく手を振っていた。

その背中はもう、一人の英くんじゃない。

ステージに立つ、アイドルの英橙羽だった。

だけど、英くんの温もりはまだ残っている。

「…っ好き…」

 僕は穏やかに吹く風とともに、言葉は溶けていった。

 アイドルの英くんも。

 一人の英橙羽も。

 すべて、愛おしい。

 自称アイドル千世としても。

 長谷川悠生としても。

 僕は前を向いて、進んでいく。

 ――英くんと、並んで歩けるように。

                                                   FIN