アイドルの君へ伝えたいことー配信アイドルの僕が、本物のアイドルに恋をした—

 淡々と日常生活を送っていると、STELLAのコンサート当日になった。

「待ちに待った当日だ」

 僕はいつもよりも朝早く起きて、念入りに服・メイクを確認した。

「これで、よし! 僕らしく」

 ライブに参戦しやすい恰好で白半袖にブルージーンズを履いて、メイクはオレンジみが
かかったアイシャドウに薄めのベージュの唇をつけた。

 今日は前髪をあげて、伊達メガネをしないで自分をさらけ出す。

「行ってきます」

 自分の部屋に手を振ってから、玄関先にいた母さんが「行ってらっしゃい」と元気よく
僕を送り出した。

 革靴を履き、僕は家を出た。

 行ってくるねと自分を鼓舞するかのように閉まったドアに話しかけた。

 コンサートが行われるのは、以前行ったアイリス広場で行われるとのことだった。

 STELLAは十四時からだった。

 その間には、グッズ販売と握手整理券を求めて、列が並んでいた。

 最後尾がどこにあるのか顔を向けると、駅の改札口付近まで人がわんさかいた。

 Lunaよりも男女問わずいた。

 すごいな、こんな人気なの。

 なのに、僕の隣にいるなんて信じられない。

 今日は英くんのライブを見て、返事をしよう。

 自分をさらけ出して、今の僕を見てほしい。

 英くんのライブ姿を見るはずが、自分自身の感情が強くなる。

 僕もファン同様に握手券とグッズを買うために並んだ。

 一ファンかのように長い列が出来ようが並ぶことが今の僕が出来る最大限の応援だ。

 最後尾から並び、グッズ・握手券を買えたのは約二時間後だった。

 おぉ、結構並んだけど、買えてよかった。

 ライブを見るために、広場の真ん中にファンは集まっていた。

 僕もライブが始まる前に、近くで見れるよう前の方に移動する。

 すると、前の方にいた僕は誰かに肩を叩かれた。

 僕は振り向くと、そこには美月がいた。

「美月?」

「よっ!」

 美月は手を挙げて、歯を見せて、僕を呼んでいた。

「なんで美月がここにいんだよ」

 僕は美月にコンサートのことは日時しか言っていない。

「ネットで調べて、来たの。へぇ、すごい賑わってんじゃん。どれどれ」

 頭の上にサングラスがあった。

 サングラスをかけて、周りにいる人を美月は見渡していた。

 美月はみなが羨むほどの美形で、お人形のような整った顔に毛穴のないつや肌。

 濃淡なピンクアイシャドウがきらりと光りローズのチークがふんわりと風にあたり気持
ちよさそうにしていた。

 なぜ配信アプリで美容インフルエンサーをしているのか分からなかった。

 すらりとした体型に通りかかる人は美月のことを目に留まる。

「はぁ、だから、途中で電話切ったのか」

 僕は呆れて、ため息を吐く。

 直接二人で会う時は、コスメブランドで待ち合わせをして、コスメを選んで感想を言い
合っている。

 広場で会うのは、いささか変な感じがする。

「いいじゃん。悠生が自分で行きたいって言ったの初めてじゃん。コスメとか好きなもの
に対しての追求心はすごいけど。自分のことになると、僕なんて…ってなるのに、今回は
意欲的だから。ちょっと顔でも覗こうかなって」

 ウィンクをして、ご機嫌そうに鞄を振り回していた。

「…ただ、英くんを見たいだけでしょ」

 僕は肩にSTELLAのタオルをかけて、腰を両手に置いた。

「そう。だって、話を聞いている限り、イケメンなのは確かでしょ。それを確かめに来たの」

 ヒールを履いても、ステージが見えにくいようであったが、鞄から望遠鏡を取り出して
覗いていた。

 どこまで、用意周到なのか。

 僕は感心していると、ライブが始まった。

 STELLAの歌が流れてきた。

 歌はユーチューブで聞いて、予習をしてきた。

 どの歌も素敵で、どの曲が好きか? と問われたら答えが出ない。

「きた!」

 美月はファンと一緒に、いつの間にグッズを買ったのかペンライトを振っていた。

 適応能力が早い。

 僕は美月の盛り上がりように、口角が緩んだ。

 美月がこんなに楽しくしている姿は、コスメの時にしか見れないから貴重だ。

 一人でそんなことを考えていると、STELLAのメンバーが大きい声で挨拶をしていた。

「柚元です! 覚えて行ってください!」

 親指を立てて、元気よくスマイルを浮かべていた。

 そのあともメンバーは挨拶をして、英くんの出番になった。

 僕は思わず、「英くん」とぼそりと呟いた。

 歓声が大きかったので、僕の声は隣にいる美月にも聞こえていなかった。

「みなさん! こんにちは! 英橙羽です!メンバーカラーは緑。好きなものはコスメと
みんなの笑顔です! よろしくお願いします!」

 英くんはファンに手を振りながら、とっておきの笑顔を浮かべていた。

「橙羽くん!」

「橙羽!」

 ファンが英くんコールをして、会場は一気に湧き上がる。

「じゃあ、これから、僕たちの人気な歌を歌っていきます。みんな、付いてきてね!」

 柔宮くんは手でハートを作り、ポジションにつく。

 ライブが始まると、STELLAのメンバーの表情が一変した。

 さっきまで笑顔を欠かさないでいた表情が、真剣な眼差しへと変わり、歌が流れる。

 クールでセクシーな曲調でダンスもキレキレ。

 スピーディのダンスと固蔵さんから放たれる低い声が胸に突き刺さる。

 なに……これ。

 ユーチューブで聞いていたはずなのに、実物を見て聞くのは別物だ。

 瞬きできない程、ずっと見ていられる。

 僕も英くんのメンバーカラーの緑を光らせて、大げさにペンライトを振った。

 歌が終わると、STELLAがトークで会場を盛り上げたら、新曲のお披露目となった。

 等身大のラブソングで、明るくてハッピーになれる曲だという。

 曲が流れると、さっきほどよりも楽しく幸せを感じる曲調であった。

 今回は、英くんが歌う番なんだ。

 STELLAはボーカルは曲によって、変える。

 一人の時や二人の時もある。

 それをすることで、よりメンバーのカラーと曲が深く融合するとのこと。

「新曲、好きの違い」

 英くんが声を出すと、会場が一気に花開く。

「君は変わりなくて、素っ気ない君はほんとうは優しいの知ってる。好き、スキだよ。そ
の言葉に安心するけど、友達だよね。わたしは君が好き、スキなんだ!」

 英くんは感情を込めるように歌い、好きの言葉に僕はびくりと肩を震わせた。

 なに、好きに反応してんの、僕。

 これは、STELLAの歌。

 僕に当てて、言ってるんじゃない。

 左右に頭を振り、僕は違う違うと否定する。

 また、サビがくる。

 今回は、歌として聞こう。

 僕じゃない、僕じゃ…ない。

 そう思いながら、歌を聞いた。

「…わたしは君が好き、スキなんだ!」

 なんだ、英くんは僕を見てる。

 次の歌詞は、もうサビじゃない。

 そう思った時、英くんが「好き…」と優しく言い、他のメンバーは英くんに顔を向けた。 

 え? 橙羽、どうしたの? というような顔で英くんを見ていた。

 ファンも呆気にとられていた。

 英くんは瞬時にその空気を感じ、歌詞を言おうとしていた時、僕は続きを大声で言っていた。

「好き!」

 僕は新曲の続きの歌詞なんて分からないし、ファンだって初めて聴く曲だ。

 なんてことをしているんだ。

 しかも、ファンの前で。

 僕は目を泳がせて、冷や汗が止まらない。

 ペンライトを握った手は汗でびちょびちょで、静まった会場に僕の視線がビシビシと感じていた。

 どうしようと頭の容量が少ない僕は思考を巡らせていると、隣にいる美月が突然叫んだ。

「好きーー!」

 柚元くんのメンバーカラーである黄色のペンライトを振り、美月は親指と人差し指でハ
ートを作っていた。 

 周りにいたファンは美月を見て、これはファンが叫ぶコールかと思いこんだようで、次
々と好きコールが飛び交った。

「僕たちも好きだよ!」

 辻本くんが「好き!」とイッーと両頬を指につけて、きれいな白い歯を見せて、ファンサ
ービスをした。

 辻本くんと英くんが目を合わせてから、英くんは続きの歌を歌い出す。

 それを見て、他のメンバーはダンスのステップを踏む。

「…っ美月、ありがとう」

 僕は美月にステージを見たまま、言う。

 声に気づいた美月はペンライトを振りながら、「なんのこと?」と首を傾げて返事をし
ていた。

 フッと僕は柔らかく笑い、歌にのせて、リズムを取った。

 歌が終わり、会場は人が一人ずつ少なくなり、僕らは近くにあったキッチンカーで何か
を買おうと向かおうとしていた。