放課後。
まずは小田に頼まれた本を返却しに図書室に行った。それから教室に戻ると人は残っていなかった。皆、部活に忙しそうだ。
「小田、本返してきたぞ」
背面黒板に声を掛けて、昨日と同じように櫻井と後ろを向いて座る。背面黒板の前にはペットボトルのお茶にコーヒー、お菓子を並べた。
少しの沈黙の後、背面黒板がゆらりと歪んだ。はっとして見つめていると、黒板は徐々に透明になり、向こう側に小田が現れた。相変わらず照れたように下を向いている。
「今日さ、化学は移動教室じゃん。小田は授業聞いてたの?」
『あ、うん。聞いてるよ。授業は、全部受けてもいいって言ってくれているから』
小田の発言が引っかかる。やはり誰かに管理されている。
「それは、モナリザに言われてるの? それともベートーベン?」
櫻井がズバリと聞いた。今日は小田の真後ろに、まるで小田を守るかのようにモナリザがいる。
『モナリザさんじゃないよ。ベートーベンさんでもない。ちょっと、言えなくて。あ、でも、不自由はないよ。あの、こっちはお腹とか空かないし。僕がそちらを見たいって望めば繋がるし』
やはり小田のいる世界と繋がるには小田の意志が大切なのだ。
けれど注意が必要だろう。小田を管理している奴はここでの会話を聞いている可能性が強い。あまり核心を突く会話は控えた方が良い。もし、この繋がりを断たれたら、小田は戻れなくなるかもしれない。
そんなことになったら……。
急に体温が下がったように寒気が走る。
「え、じゃ、菓子とかいらんか。差し入れしようと思ったけど」
あえて明るく小田に聞いた。
『あ、そうじゃないんだ。くれるのは嬉しい。食べなくても平気だけど、あると楽しみになるし』
「ふうん。じゃ、これからも差し入れる。どんなのが良い?」
繋がりが切れないように。そう願った。
「小田、高い菓子でも言ってやれ。藤沢が買ってくれるぞ」
「は? 櫻井も出すんだよ。割勘だ!」
櫻井と言い合うと小田が笑った。
『お菓子は何でも食べるよ。えっと、二人は、仲がいいんだね。知らなかったよ』
櫻井を見て、小田を見る。櫻井は口元を緩ませて首を傾げる。そうだろう。僕だって櫻井と同じ気持ちだ。
「小田、俺らは仲良くない。けどな、小田も含めて、俺らはとんでもない秘密を抱える仲間なんだ」
「同感。友達とかクラスメイトをぶっ飛ばして、僕らは仲間」
小田が頬を染める。
『仲間、なんだ。えへへ。なんか、いいね』
嬉しそうに笑うな、と心でツッコミを入れる。小田は現実世界で行方不明になっているのだから。
小田には危機感とかないのだろうか。
「こっちに戻れないのか?」
櫻井が核心を突く。僕は大丈夫なのかとハラハラした。
『それは、言えないんだ。けど、仲間って言ってもらえて、すごく嬉しい』
頬を染める小田を見て、こっちに戻って来い、と強く思った。こちらの世界にいたら、頭を撫でまわして可愛がるのに。
そっちの世界にいたら、触れ合うことが出来ない。もどかしさに手をギュッと握った。
「そっか。小田、他に欲しい本とか無いのか?」
櫻井は淡々と会話を続ける。
『僕は、二巻があればしばらく良いんだけど、えっと。モナリザさんが、ちょっと、お願いがあって』
「は?」
「え?」
櫻井と同時に驚きの声が出てしまった。
モナリザが、僕たちにお願い?
想像もしていなかったことに口がポカンと開いた。視線を小田からモナリザに移す。
モナリザは相変わらずモナリザだ。
だけど、どこを見ているのか分からない彼女の目線が泳いでいるように見えるのは気のせいだろうか。
櫻井に目を向けると、口を開けたまま静止している。けれど次の瞬間。
「小田、カロリーメイトはチーズ味とチョコ味のどっちが好きだ?」
櫻井の声が響いた。
「え?」
突拍子のない言葉に耳を疑った。
『僕、フルーツ味が、好きだけど……』
「そうか。モナリザ、さんは、何味が好きなんだろう」
櫻井の言葉に驚いて身体が変に動いてしまった。ガタンと椅子が音をたてる。
ええ? モナリザの意見必要か?
これは櫻井がパニックになっているかも、と心配になる。
『ちょっと、聞いてみるよ。うん、あの、チーズが良いんだって』
小田も理解が追いつかない顔をしている。けど、モナリザが好みを答えたことに脳内パニックになる。
もう僕がどう介入していいのか分からなくて、櫻井と小田を交互に見つめた。
「俺と一緒だ。チーズは持ってるから、置いとく。小田と一緒に食べてよ。明日、カロリーメイトの感想聞きながら、お願いを聞くよ」
モナリザにお菓子あげるのか。そもそもモナリザは食べるのだろうか。
チーズが良いと言うくらいだから、食べる行為はするのかな。
首を傾げる僕を気にせず、櫻井はバックからチーズ味を出して背面黒板の前に置き、「小田また明日」と声を掛けた。
僕もつられて小田に手を振ると、背面黒板はもとの黒板に戻った。
まずは小田に頼まれた本を返却しに図書室に行った。それから教室に戻ると人は残っていなかった。皆、部活に忙しそうだ。
「小田、本返してきたぞ」
背面黒板に声を掛けて、昨日と同じように櫻井と後ろを向いて座る。背面黒板の前にはペットボトルのお茶にコーヒー、お菓子を並べた。
少しの沈黙の後、背面黒板がゆらりと歪んだ。はっとして見つめていると、黒板は徐々に透明になり、向こう側に小田が現れた。相変わらず照れたように下を向いている。
「今日さ、化学は移動教室じゃん。小田は授業聞いてたの?」
『あ、うん。聞いてるよ。授業は、全部受けてもいいって言ってくれているから』
小田の発言が引っかかる。やはり誰かに管理されている。
「それは、モナリザに言われてるの? それともベートーベン?」
櫻井がズバリと聞いた。今日は小田の真後ろに、まるで小田を守るかのようにモナリザがいる。
『モナリザさんじゃないよ。ベートーベンさんでもない。ちょっと、言えなくて。あ、でも、不自由はないよ。あの、こっちはお腹とか空かないし。僕がそちらを見たいって望めば繋がるし』
やはり小田のいる世界と繋がるには小田の意志が大切なのだ。
けれど注意が必要だろう。小田を管理している奴はここでの会話を聞いている可能性が強い。あまり核心を突く会話は控えた方が良い。もし、この繋がりを断たれたら、小田は戻れなくなるかもしれない。
そんなことになったら……。
急に体温が下がったように寒気が走る。
「え、じゃ、菓子とかいらんか。差し入れしようと思ったけど」
あえて明るく小田に聞いた。
『あ、そうじゃないんだ。くれるのは嬉しい。食べなくても平気だけど、あると楽しみになるし』
「ふうん。じゃ、これからも差し入れる。どんなのが良い?」
繋がりが切れないように。そう願った。
「小田、高い菓子でも言ってやれ。藤沢が買ってくれるぞ」
「は? 櫻井も出すんだよ。割勘だ!」
櫻井と言い合うと小田が笑った。
『お菓子は何でも食べるよ。えっと、二人は、仲がいいんだね。知らなかったよ』
櫻井を見て、小田を見る。櫻井は口元を緩ませて首を傾げる。そうだろう。僕だって櫻井と同じ気持ちだ。
「小田、俺らは仲良くない。けどな、小田も含めて、俺らはとんでもない秘密を抱える仲間なんだ」
「同感。友達とかクラスメイトをぶっ飛ばして、僕らは仲間」
小田が頬を染める。
『仲間、なんだ。えへへ。なんか、いいね』
嬉しそうに笑うな、と心でツッコミを入れる。小田は現実世界で行方不明になっているのだから。
小田には危機感とかないのだろうか。
「こっちに戻れないのか?」
櫻井が核心を突く。僕は大丈夫なのかとハラハラした。
『それは、言えないんだ。けど、仲間って言ってもらえて、すごく嬉しい』
頬を染める小田を見て、こっちに戻って来い、と強く思った。こちらの世界にいたら、頭を撫でまわして可愛がるのに。
そっちの世界にいたら、触れ合うことが出来ない。もどかしさに手をギュッと握った。
「そっか。小田、他に欲しい本とか無いのか?」
櫻井は淡々と会話を続ける。
『僕は、二巻があればしばらく良いんだけど、えっと。モナリザさんが、ちょっと、お願いがあって』
「は?」
「え?」
櫻井と同時に驚きの声が出てしまった。
モナリザが、僕たちにお願い?
想像もしていなかったことに口がポカンと開いた。視線を小田からモナリザに移す。
モナリザは相変わらずモナリザだ。
だけど、どこを見ているのか分からない彼女の目線が泳いでいるように見えるのは気のせいだろうか。
櫻井に目を向けると、口を開けたまま静止している。けれど次の瞬間。
「小田、カロリーメイトはチーズ味とチョコ味のどっちが好きだ?」
櫻井の声が響いた。
「え?」
突拍子のない言葉に耳を疑った。
『僕、フルーツ味が、好きだけど……』
「そうか。モナリザ、さんは、何味が好きなんだろう」
櫻井の言葉に驚いて身体が変に動いてしまった。ガタンと椅子が音をたてる。
ええ? モナリザの意見必要か?
これは櫻井がパニックになっているかも、と心配になる。
『ちょっと、聞いてみるよ。うん、あの、チーズが良いんだって』
小田も理解が追いつかない顔をしている。けど、モナリザが好みを答えたことに脳内パニックになる。
もう僕がどう介入していいのか分からなくて、櫻井と小田を交互に見つめた。
「俺と一緒だ。チーズは持ってるから、置いとく。小田と一緒に食べてよ。明日、カロリーメイトの感想聞きながら、お願いを聞くよ」
モナリザにお菓子あげるのか。そもそもモナリザは食べるのだろうか。
チーズが良いと言うくらいだから、食べる行為はするのかな。
首を傾げる僕を気にせず、櫻井はバックからチーズ味を出して背面黒板の前に置き、「小田また明日」と声を掛けた。
僕もつられて小田に手を振ると、背面黒板はもとの黒板に戻った。


