「行ってきます」
嫌だと思っても朝は来る。学校が休校にでもなれば良いのに。ため息を吐きながら玄関を出たとき。
「藤沢、おはよ」
聞きなれた声に全身の筋肉が緊張した。
「櫻井……?」
予想外の登場に僕は寝ぼけているのかと頭をぶんぶん左右に振った。目をカッと開いて、もう一度見てみるがやっぱり櫻井がいる。
「おお。前に家教えてくれたから来てみた」
ニカっと柔らかい笑みを見て本物の櫻井だと確信する。
「は、はぁ? 来てみたって、朝っぱらから?」
「おぉ。おかげで、もう眠い」
「そんなの知るか、アホ櫻井」
「昨日、変な別れ方したし、藤沢が消えてないか、ちょっと怖くなったから」
僕の隣を歩く櫻井は少し眉が下がっている。顔色は良くない。眠れなかったのかもしれない。
櫻井は僕があっちの教室に引き込まれたと不安になったのだろう。だとしたら全部僕のせいだ。
「……ごめん」
必至に出した声は震えていた。僕は思ったことがすぐに口から出る時と、勇気を出さないと一言が出ない時の差が激しい。
櫻井のようにいつも飄々と生きていられたら良いのに。
「藤沢、俺を置いていくなよ。約束、したよな? 俺を独りにするな」
櫻井らしくない切ない声音。思わず櫻井の顔をまじまじと眺めた。眉が下がったまま。思い詰めた表情。
――こんなに不安にさせている! 僕が苦しめてしまった!
思ってもいなかった現実に急激に後悔が押し寄せる。
「ごめん! 櫻井を不安にさせるつもりは無かったんだ。ただ、僕の、やなトコロを見せたくなくて。櫻井のせいじゃない。それに櫻井を独りにはしない。絶対に」
コクリと頷く櫻井は、下唇を噛んでいる。僕がよくしていたから分かる。何かを堪えている顔だ。
こんな時、どうしたらいい? 僕がこんな時に、して欲しいことは――?
「よしよし、もう、大丈夫だ。僕はここにいる。大丈夫なんだ」
泣きそうな顔の櫻井を必死に包み込んだ。
少し背の高い櫻井を隠しきるのは大変だけど、彼を覆い隠す。腕の中の櫻井の息が震えた。
僕が辛くてしんどくて逃げたかった時、一番して欲しかったことは、僕の存在を隠して欲しいということ。
泣きたい顔を見られないように。不安な気持ちがバレないように。
全ての現実から隔離されたかった。周囲の全てから消えてしまいたかった。
それを思い出した。
――不安にさせて、ごめん。櫻井は一人じゃない。
そう伝わるように大切に腕の中に閉じ込めた。
「あ~、恥ず。まさかの男に抱きしめられるとは。しかも人の往来」
櫻井の言葉にカチンとくる。
「ざけんな! 僕だって男なんてお断りだし! これは、友人としてのハグなんだよ! つか、急げ」
売り言葉に買い言葉で言い返せば、いつもの自信たっぷりの笑みが返って来る。
「ブッハ! 顔赤いし。藤沢は面白いなぁ」
「ざけんな! 櫻井のアホが!」
怒りのままに早足でバス体に向かえば、櫻井が上機嫌でついてくる。
「藤沢、サンキュな。俺、お前がいなきゃ何もできないんだ。藤沢は俺の芯を動かす凄い奴なんだ。いつも嬉しいんだよ。一緒で」
小さな声が聞こえて横目で櫻井を見た。櫻井はいつもの顔をしていた。
うん、これでいい。櫻井に悩んでいる顔は似合わない。
「そっか。僕も櫻井がいて楽しい。なんか、暗くて死んだような日々だったのが、最近は一気に輝いた感じだ」
いしし、と歯を見せてバスに乗り込む。何とか遅刻は免れそうだ。
「今日、小田が会いたいっていってくれたし。そんな日に藤沢とギクシャク中とか、ヤだしな」
僕の体温が一気に下がった気がした。
――なんだ、全部、小田のため、か。
そう考えて、首を傾げた。
僕はどうやらガッカリしている。そんな自分の心が理解できない。
「そ、そうだよ、な。小田のため、だ」
言葉にするとホッとするような寂しいような。
訳の分からない感情を抱えて学校に登校した。
昨日から感情がジェットコースターだ。
頭がポヤポヤして授業が流れるように過ぎて行った。
放課後になり、僕たちの他に誰も残っていない教室。
肌触りに秋を感じるようになったけれど、まだ風が暑い。櫻井の黒髪がサラサラ揺れる。
「今日、小田に会えるかな。怖い奴に邪魔されるかな」
「ああ、すぐに小田が出てくると思ったんだけどな」
今日はなかなか向こうの教室が現れない。櫻井と背面黒板の前で待っているのに。
背面黒板の前にはお菓子と本を置いてある。昼休みに借りて来たファンタジー小説だ。
これはAIがおススメしてくれた本。
櫻井も僕も読んだことの無い小説だけれど、小田はすでに読んだだろうか。
僕の勝手な思いだけれど、小田には不倫の本よりこちらを読んで欲しい。
「藤沢、吹奏楽でのこと、もう少し聞いてもいいか? 言いたくないとは思うけど美術室にまた来るかもだぞ、吹奏楽部の人たち」
急な質問に眉間にしわを寄せた。本当は櫻井には隠しておきたかった、僕の黒歴史。
けれど昨日より落ち着いて言葉を受け止められる。少しだけ櫻井のもろい部分に触れたからだろうか。
ゆっくり息を吐いて、出来るだけ感情が荒れないように心を落ち着かせた。
「吹奏楽さ、やりたくて入部したんだ。ドラムを叩きたくて。だけど、どんなに練習しても、テンポがダメ、迫力がダメってずっと責められて。応えるように努力したんだけど、それ以上に、もっとやれって要求ばっかで。そのうちに僕の態度が悪いとか、先輩の気持ちを理解してない、とか。何でも文句言われるようになって。息が詰まるようになったんだ。で、やめた。僕は、逃げたんだ」
さらりと口にできたことが不思議だった。あんなに知られたくないと思っていた事なのに。
言ってしまうと悩んでいたことがバカバカしくなるほど気が軽くなる。
神妙な表情の櫻井にニッと笑いかけた。
「……藤沢」
「もう過ぎたことだけど、やっぱ苦しい思いが残っていて。吹奏楽の先輩は会いたくないし苦手なんだ」
「そっか。昨日の先輩たち、明らかに藤沢目当てに美術室覗いてたな。自分たちが卒部する前に、謝りたいとか?」
「そうなのかな。僕の中では今更だし、都合よすぎだろって怒りが沸くけど」
「だろうな。次会ったら無視でいいんじゃね? 許すことはないぞ」
「まぁな」
「あとな、藤沢、上手かったぞ。窓から聞こえるドラムの音は、すっげ迫力だった。こう、心臓がゾワってなる音だった。だから、やめたの勿体ないと思った」
櫻井は優しい。上手なわけがないのに。それでも去年の僕の音を聞いてくれている人がいて嬉しくなる。
「すっげ、ジンときた。櫻井、サンキュ。あ、黒板見ろよ」
背面黒板が徐々に透明になっている。
「小田、どうだったかなぁ」
「お化けの友達百人とか出来てたらアッパレだ!」
「それはある意味凄いぞ」
黒板のすぐに小田が立っていた。頬を染めて口元が緩んでいる。その様子にピンときた。きっと上手くいったのだ。小田が可愛くて顔がニヤける。
「小田、嬉しそ」
そう言う櫻井も頬が緩んでいる。
『藤沢君、櫻井君、僕に友達が出来たよ』
「ブハハ。お化けの友達ゲットか」
「さっすが小田だ。紹介してよ」
小田が困った顔になった。
『驚かないで、くれる? あの、この子たちも、櫻井君たちにお願いがあるって言っていて』
この子たち? 複数人なのか? モナリザの願いは偶然うまく行ったけれど、次もうまく行くとは限らない。
「待て! 小田、僕らに出来ない事は引き受けられないぞ」
『分かってるよ。えっと、多分大丈夫だと思うんだ。ほら、この子たち』
そう紹介されて飛び跳ねて出てきたのは――。
「ぎゃー!」
叫ばずにはいられなかった。
これは、グロすぎる!
「うお、これは、標本の、お化け?」
口元に手を当てて櫻井が上体を引き気味にしている。その気持ちは分かりすぎる!
『あの、僕さ、頑張ってこの子たちに仲良くしてってお願いしてみたんだ。いつもぴょんぴょんしているけど、ちょっと、外見が独特すぎて近づけなくて。怖かったけど、藤沢君の言う通りに勇気出してみたんだ』
もう、小田を褒めたたえたい気持ちだ。こんなにキモイ奴らだとは。こいつらを見るとモナリザは天使に見える。
小田は想像以上に大変だっただろう。けしかけてゴメン、と謝りたくなった。
そんな小田の周りを楽しそうに真っ白のカエルや魚や蛇の標本お化けが躍りまわる。
ホルマリン漬けで今にも崩れそうな異様な外見だ。怖いと言うよりキモくて引いてしまう。
「小田さぁ、勇者だわ」
「僕も同感。小田は勇者に決定」
櫻井と共にウンウンと頷き合った。
『ええ? どうして?』
オドオドする小田の鈍感さに三人で笑った。
けれど後方に見える加藤は相変わらず魂が抜けたように静止したままだ。
「加藤はこんな騒ぎでも反応なし、か」
『うん。こっちにいる限り、無理かもしれない。僕は加藤君をそっちに戻すためなら何でもするんだ』
小田が良い顔をする。カッコいいじゃん、と素直に思った。
「で、こいつらの願いは?」
櫻井の言葉に顔を引き締めた。
『うん。この子たちは、もともと生物なんだ。幽霊とお化けの半々的な存在だって。だから、こう見えて強い力があるんだ。物からお化けになったんじゃないから。だから、味方に出来たら、心強いんだって。モナリザさんが教えてくれて』
小田の隣にいるモナリザとベートーベンがフルフル震える。
「そっか。二人とも、ありがとう」
『モナリザさんたちが、こちらこそ感謝してるって。こうして隣に並べているのは、櫻井君と藤沢君のおかげだって』
お化けに感謝されている奇妙な状況。櫻井と目線を合わせ、肩をすくめた。でも、悪い気はしない。
『それで、この子たちの願いなんだけど――』
続く小田の言葉にポカンと口を開けてしまった。
嫌だと思っても朝は来る。学校が休校にでもなれば良いのに。ため息を吐きながら玄関を出たとき。
「藤沢、おはよ」
聞きなれた声に全身の筋肉が緊張した。
「櫻井……?」
予想外の登場に僕は寝ぼけているのかと頭をぶんぶん左右に振った。目をカッと開いて、もう一度見てみるがやっぱり櫻井がいる。
「おお。前に家教えてくれたから来てみた」
ニカっと柔らかい笑みを見て本物の櫻井だと確信する。
「は、はぁ? 来てみたって、朝っぱらから?」
「おぉ。おかげで、もう眠い」
「そんなの知るか、アホ櫻井」
「昨日、変な別れ方したし、藤沢が消えてないか、ちょっと怖くなったから」
僕の隣を歩く櫻井は少し眉が下がっている。顔色は良くない。眠れなかったのかもしれない。
櫻井は僕があっちの教室に引き込まれたと不安になったのだろう。だとしたら全部僕のせいだ。
「……ごめん」
必至に出した声は震えていた。僕は思ったことがすぐに口から出る時と、勇気を出さないと一言が出ない時の差が激しい。
櫻井のようにいつも飄々と生きていられたら良いのに。
「藤沢、俺を置いていくなよ。約束、したよな? 俺を独りにするな」
櫻井らしくない切ない声音。思わず櫻井の顔をまじまじと眺めた。眉が下がったまま。思い詰めた表情。
――こんなに不安にさせている! 僕が苦しめてしまった!
思ってもいなかった現実に急激に後悔が押し寄せる。
「ごめん! 櫻井を不安にさせるつもりは無かったんだ。ただ、僕の、やなトコロを見せたくなくて。櫻井のせいじゃない。それに櫻井を独りにはしない。絶対に」
コクリと頷く櫻井は、下唇を噛んでいる。僕がよくしていたから分かる。何かを堪えている顔だ。
こんな時、どうしたらいい? 僕がこんな時に、して欲しいことは――?
「よしよし、もう、大丈夫だ。僕はここにいる。大丈夫なんだ」
泣きそうな顔の櫻井を必死に包み込んだ。
少し背の高い櫻井を隠しきるのは大変だけど、彼を覆い隠す。腕の中の櫻井の息が震えた。
僕が辛くてしんどくて逃げたかった時、一番して欲しかったことは、僕の存在を隠して欲しいということ。
泣きたい顔を見られないように。不安な気持ちがバレないように。
全ての現実から隔離されたかった。周囲の全てから消えてしまいたかった。
それを思い出した。
――不安にさせて、ごめん。櫻井は一人じゃない。
そう伝わるように大切に腕の中に閉じ込めた。
「あ~、恥ず。まさかの男に抱きしめられるとは。しかも人の往来」
櫻井の言葉にカチンとくる。
「ざけんな! 僕だって男なんてお断りだし! これは、友人としてのハグなんだよ! つか、急げ」
売り言葉に買い言葉で言い返せば、いつもの自信たっぷりの笑みが返って来る。
「ブッハ! 顔赤いし。藤沢は面白いなぁ」
「ざけんな! 櫻井のアホが!」
怒りのままに早足でバス体に向かえば、櫻井が上機嫌でついてくる。
「藤沢、サンキュな。俺、お前がいなきゃ何もできないんだ。藤沢は俺の芯を動かす凄い奴なんだ。いつも嬉しいんだよ。一緒で」
小さな声が聞こえて横目で櫻井を見た。櫻井はいつもの顔をしていた。
うん、これでいい。櫻井に悩んでいる顔は似合わない。
「そっか。僕も櫻井がいて楽しい。なんか、暗くて死んだような日々だったのが、最近は一気に輝いた感じだ」
いしし、と歯を見せてバスに乗り込む。何とか遅刻は免れそうだ。
「今日、小田が会いたいっていってくれたし。そんな日に藤沢とギクシャク中とか、ヤだしな」
僕の体温が一気に下がった気がした。
――なんだ、全部、小田のため、か。
そう考えて、首を傾げた。
僕はどうやらガッカリしている。そんな自分の心が理解できない。
「そ、そうだよ、な。小田のため、だ」
言葉にするとホッとするような寂しいような。
訳の分からない感情を抱えて学校に登校した。
昨日から感情がジェットコースターだ。
頭がポヤポヤして授業が流れるように過ぎて行った。
放課後になり、僕たちの他に誰も残っていない教室。
肌触りに秋を感じるようになったけれど、まだ風が暑い。櫻井の黒髪がサラサラ揺れる。
「今日、小田に会えるかな。怖い奴に邪魔されるかな」
「ああ、すぐに小田が出てくると思ったんだけどな」
今日はなかなか向こうの教室が現れない。櫻井と背面黒板の前で待っているのに。
背面黒板の前にはお菓子と本を置いてある。昼休みに借りて来たファンタジー小説だ。
これはAIがおススメしてくれた本。
櫻井も僕も読んだことの無い小説だけれど、小田はすでに読んだだろうか。
僕の勝手な思いだけれど、小田には不倫の本よりこちらを読んで欲しい。
「藤沢、吹奏楽でのこと、もう少し聞いてもいいか? 言いたくないとは思うけど美術室にまた来るかもだぞ、吹奏楽部の人たち」
急な質問に眉間にしわを寄せた。本当は櫻井には隠しておきたかった、僕の黒歴史。
けれど昨日より落ち着いて言葉を受け止められる。少しだけ櫻井のもろい部分に触れたからだろうか。
ゆっくり息を吐いて、出来るだけ感情が荒れないように心を落ち着かせた。
「吹奏楽さ、やりたくて入部したんだ。ドラムを叩きたくて。だけど、どんなに練習しても、テンポがダメ、迫力がダメってずっと責められて。応えるように努力したんだけど、それ以上に、もっとやれって要求ばっかで。そのうちに僕の態度が悪いとか、先輩の気持ちを理解してない、とか。何でも文句言われるようになって。息が詰まるようになったんだ。で、やめた。僕は、逃げたんだ」
さらりと口にできたことが不思議だった。あんなに知られたくないと思っていた事なのに。
言ってしまうと悩んでいたことがバカバカしくなるほど気が軽くなる。
神妙な表情の櫻井にニッと笑いかけた。
「……藤沢」
「もう過ぎたことだけど、やっぱ苦しい思いが残っていて。吹奏楽の先輩は会いたくないし苦手なんだ」
「そっか。昨日の先輩たち、明らかに藤沢目当てに美術室覗いてたな。自分たちが卒部する前に、謝りたいとか?」
「そうなのかな。僕の中では今更だし、都合よすぎだろって怒りが沸くけど」
「だろうな。次会ったら無視でいいんじゃね? 許すことはないぞ」
「まぁな」
「あとな、藤沢、上手かったぞ。窓から聞こえるドラムの音は、すっげ迫力だった。こう、心臓がゾワってなる音だった。だから、やめたの勿体ないと思った」
櫻井は優しい。上手なわけがないのに。それでも去年の僕の音を聞いてくれている人がいて嬉しくなる。
「すっげ、ジンときた。櫻井、サンキュ。あ、黒板見ろよ」
背面黒板が徐々に透明になっている。
「小田、どうだったかなぁ」
「お化けの友達百人とか出来てたらアッパレだ!」
「それはある意味凄いぞ」
黒板のすぐに小田が立っていた。頬を染めて口元が緩んでいる。その様子にピンときた。きっと上手くいったのだ。小田が可愛くて顔がニヤける。
「小田、嬉しそ」
そう言う櫻井も頬が緩んでいる。
『藤沢君、櫻井君、僕に友達が出来たよ』
「ブハハ。お化けの友達ゲットか」
「さっすが小田だ。紹介してよ」
小田が困った顔になった。
『驚かないで、くれる? あの、この子たちも、櫻井君たちにお願いがあるって言っていて』
この子たち? 複数人なのか? モナリザの願いは偶然うまく行ったけれど、次もうまく行くとは限らない。
「待て! 小田、僕らに出来ない事は引き受けられないぞ」
『分かってるよ。えっと、多分大丈夫だと思うんだ。ほら、この子たち』
そう紹介されて飛び跳ねて出てきたのは――。
「ぎゃー!」
叫ばずにはいられなかった。
これは、グロすぎる!
「うお、これは、標本の、お化け?」
口元に手を当てて櫻井が上体を引き気味にしている。その気持ちは分かりすぎる!
『あの、僕さ、頑張ってこの子たちに仲良くしてってお願いしてみたんだ。いつもぴょんぴょんしているけど、ちょっと、外見が独特すぎて近づけなくて。怖かったけど、藤沢君の言う通りに勇気出してみたんだ』
もう、小田を褒めたたえたい気持ちだ。こんなにキモイ奴らだとは。こいつらを見るとモナリザは天使に見える。
小田は想像以上に大変だっただろう。けしかけてゴメン、と謝りたくなった。
そんな小田の周りを楽しそうに真っ白のカエルや魚や蛇の標本お化けが躍りまわる。
ホルマリン漬けで今にも崩れそうな異様な外見だ。怖いと言うよりキモくて引いてしまう。
「小田さぁ、勇者だわ」
「僕も同感。小田は勇者に決定」
櫻井と共にウンウンと頷き合った。
『ええ? どうして?』
オドオドする小田の鈍感さに三人で笑った。
けれど後方に見える加藤は相変わらず魂が抜けたように静止したままだ。
「加藤はこんな騒ぎでも反応なし、か」
『うん。こっちにいる限り、無理かもしれない。僕は加藤君をそっちに戻すためなら何でもするんだ』
小田が良い顔をする。カッコいいじゃん、と素直に思った。
「で、こいつらの願いは?」
櫻井の言葉に顔を引き締めた。
『うん。この子たちは、もともと生物なんだ。幽霊とお化けの半々的な存在だって。だから、こう見えて強い力があるんだ。物からお化けになったんじゃないから。だから、味方に出来たら、心強いんだって。モナリザさんが教えてくれて』
小田の隣にいるモナリザとベートーベンがフルフル震える。
「そっか。二人とも、ありがとう」
『モナリザさんたちが、こちらこそ感謝してるって。こうして隣に並べているのは、櫻井君と藤沢君のおかげだって』
お化けに感謝されている奇妙な状況。櫻井と目線を合わせ、肩をすくめた。でも、悪い気はしない。
『それで、この子たちの願いなんだけど――』
続く小田の言葉にポカンと口を開けてしまった。


