文化祭の舞台上で王子様から突然告白されたが、どうやら本気らしい

あれから俺は彼のことばかり考えてしまう。彼になんて話しかければいいだろうかと。いいことか悪いことか、俺の周りには基本常に人がいる。向こうから勝手にやってくる。俺自身彼らと話すのは楽しいので俺も受け入れているが、おかげで相馬に話しかけられない。同じクラスになったとは言え、このクラスの有効期限は来年の三月まで。それまでに動かないとせっかくのチャンスを無駄にしてしまう。来年のクラス替えは文系理系が重要視されるため、同じクラスになれるとも限らない。こうなったらもう待つのではなく、自分から動くしかない。

「じゃあ、文化祭やりたい出し物あげてこー」
ロングホームルームで文化祭の出し物決めようとクラスの会長と副会長が黒板前に立つ。俺はバンドの公演さえできれば正直何でもいいので案は彼らに任せた。もちろん、決まっても何も文句は言わないつもりだ。
(何か、いい方法ないか……?)
彼のことは名前しか知らない。誕生日も好きなものも、趣味も知らない。相馬の友達にリサーチしたいところだが、話しかけるタイミングがない。てか、そんな回りくどいことをするくらいなら直接話しかけた方が早い。個人的に、いきなり話しかけるのはさすがに不自然なので何かきっかけがあるとありがたい。そうなると、やはり共通点を見つけたい。ここは俺から話題作りをしに行こう。

「じゃあ、多数決取りまーす」
俺があれこれ考えているとき、みんなはふざけながら真面目に文化祭の出し物について話し合っている。黒板にはカフェやらお化け屋敷やら演劇やらが書かれていた。「まずは話題作り」を意識し、相馬と同じ「演劇」に手を挙げる。これで「演劇に票を入れた」という共通点はできた。強引だが、これくらいしないと始まらない気がする。

そしてとんとんと話は進み、ロマンス劇をやることになった。なんとメインは俺。
「結城は大丈夫?」
「え、まあ……、みんながいいならいいけど」
この展開はさすがに想定外だが、反対はしなかった。文句は言わないと決めたから。そしていつものように相馬の席を見ると、なぜか彼がこちらを見ていた。驚きのあまり、目線を黒板に向ける。
(え……、俺今、相馬と目が合った……?)
軽くパニックになった。今まで俺が一方的に眺めることが多かったのに。それに、相馬の席から俺を見るには斜め後ろに振り向かねければいけない。つまり、何か理由がなければこのような状況は生まれないはず。なぜ、相馬は俺の方を見ていたのか。もしかして、俺がいつも後ろから相馬を見ていたことがバレたか。もし、そうなら彼になんて言い訳をしようか。良くない展開を想像していると、アイディアが俺に降ってきた。
(いや、ちょっと待てよ……。これ使えるかも……)
ふととんでもない作戦を思いついた。とはいえ、彼に与える俺の第一印象はかなり悪くなるかもだけど、これは賭けだ。攻めるしかない。
「あのさ、ちょっといい?」
演劇の詳細について着々と決まっていく中、俺は手を挙げる。クラス中の視線が俺に集中した。もちろん、相馬もこちらを見ている。
(きっとびっくりさせるだろうな)
新クラスになって数日経つが、それでも分かるクラスのノリの良さ。そんな彼らにこの後のヒロイン決めを任せると「やりたい」と言い出すやつは絶対出てくる。そうなったらこの作戦は使えない。そうなる前に行動に出る。
「どうした、結城?」
「ヒロイン演じるの、相馬とかがいいんじゃないかなって思って……」
俺の発言にクラスがざわつき始めた。もちろん、こうなることは想定済みだ。
「ちょっと待って!!何で俺?」
(まあ、そんな反応になるよな)
なぜなら、今この瞬間まで大して絡んだことがないのだから。相馬は多分俺のことを知っているが、あくまでもバンドやってる人という程度だろう。今はそれでいい。認識されてるだけでいい。そんなことを呑気に考える俺に対し、机を思いっきり叩きながら立ち上がる相馬。彼を見る限り、やりたくなさそう。ただし、相馬との繋がりを作るためには今ここが最適。相馬には申し訳ないが、なんとしてでも俺の相手をやらせてやる。
「だって相馬、女装似合いそうなんだもん。俺、絶対可愛いと思うんだけど」
彼のやる気のツボが分からないので、とにかく、彼がやる気になりようなことを言っておく。だが、女装が似合いそうというのは、あながち嘘ではない。相馬はかわいい顔しているし、本気出せば女性に変身できる気がする。母さんがメイクの仕事をしているので、母さんの力を借りれば可能だ。そしてノリのいいこのクラスは俺の提案に便乗する。思っていた通りだ。彼らに先を越されなくてよかった。その結果、ラブシーンや告白のシーンは入れないという相馬の条件が採用され相馬がヒロインを演じることになった。「それじゃ、ロマンスじゃないじゃん」と一部から反対されるも、俺は「何でもいい」とクラスを見守る。相馬と一緒にできるなら内容など関係ない。出し物が決定しクラスは拍手で包まれる。ため息をつきながら椅子に座る相馬を俺は申し訳ないと思いながら愛おしく見つめる。
(まさか、こんなにうまくいくなんてな)
こんなに自分勝手になったことはない。気になるものを手に入れたいと思った時、人間はこうなるのかと俺は身をもって感じた。大胆で、じわじわと俺は相馬との距離を詰めていく。

それからそれぞれが完成に向けて動き出した。衣装やセットを作っている人たちがいたり、絵を描いている人もいたり。相馬は、平野と一緒に脚本を担当することになった。相馬は「平野を監視するため」と言っていたがきちんと流れについて話し合っている。その姿はいつ見ても初めて脚本を書く人とは思えなかった。しかし後日、俺は彼らが文芸部に所属していることを知り「やっぱり、文字を書くことには慣れているのか」と納得するのだった。

相馬が監視のもと平野が書いたという台本を受け取り、練習の日々が続いた。受け取った台本の内容はかなり面白かった。バンドのメンバーにもたびたび練習相手として協力してもらった。バンドの練習と掛け持ちしながら、劇を完成させていく。そして俺は、母さんにメイクも教えてもらった。一度、俺の家に呼んで実際に相馬にメイクをやらせてもらった。男子校のためメイクをできる人がなかなかいないからだ。と言うか、他の男子に相馬のメイクをさせたくなかった。必死に台本を覚えようとしている相馬が愛おしい。一緒に練習もした。演劇を口実にすれば、相馬に話しかけることができる。想像していた以上に俺の描いた通りになっていく。
「相馬、お疲れ」
俺は自販機から買ってきたペットボトルを相馬に渡した。
「あ、ありがとう……、あとで立て替える」
「いやいいよ、いつも頑張ってくれてるから」
「それはそうだな。じゃあ、結城の奢りってことで」
ここまでの関係になれた。あの相馬と。しかし、ここまで相馬には俺の勝手な欲望で迷惑をかけ巻き込んでいるのは間違いない。それをきっと本人も分かっているのがなんともかわいい。常に相馬の様子を見ながら練習に励む。そして時間をともにしていくうちに相馬のことを前よりも知れた気がする。少なくとも、ここで一緒にやっていなかったら、相馬がオレンジジュースが好きだとは知ることはもうしばらく先だったかもしれない。俺も買ったお茶を開けて飲み始める。最初はこんな感情になるなんて思わなかった。「どんな人なんだろう」、「話してみたい」という興味が大きく成長していく。今はもうそんな簡単な言葉で片付けられない。友達のその先に進みたいと思ってしまう。日々その気持ちを募らせる。ずっと抑えていたのに。溢れてしまった。

「あなたが好きです」

文化祭、二日目。
俺は舞台の上で相馬(ヒロイン)に告白していた。「告白しない」という条件があったにも関わらず、アドリブで。俺の言葉のはずなのに、発言した自分が一番驚いている。いろんな感情が混ざって、「好き」が俺の思う「好き」なのか判断のしようがなかった。

「……自分には、もう婚約者がいるので、……その気持ちには答えられません」
「……そうですか」

相馬が俺のアドリブに何とか対応してくれたため、無事に軌道修正ができた。人前に出るのは慣れているはずなのに、こんなに心臓が音を立てているのは初めてだ。この鼓動と俺の焦りが相馬に伝わっていないことを祈る。

拍手喝采で終えたこの舞台。かなり盛り上がり、多くのお客さんが写真撮影を頼んでくる。大成功ではあるが、相馬のことが少し心配だ。写真撮影を終え、何とか相馬と話すことができた。「チャラチャラしやがって」と言われた。そう感じるのも頷ける。さんざん振り回した挙句、告白をしてくるとか、俺が相馬の立場でも「ふざけるな」と言いたくなる。
「じゃあさ、この後一緒に文化祭回らない?アドリブに対応してくれたお礼でなんか奢ってあげるから」
「別にいいけど……」
「ふふふ。素直でよろしい」
もう少し落ち着いて話したい。今ここで話したら、きっとぶつかる気がする。もっと明るい場所で、もっと音があるところがいい。先に着替え終えた相馬を追いかけ、財布とスマホを持って相馬と食堂に行く。相馬のリクエストを彼の提案で一緒に食べる。すると、食堂で女子高生らしき集団に話しかけられた。彼女たちは俺たちの演劇を見てくれていたようだ。
「ありがとう。午後にスペシャルライブがあるからよかったら見に来てね」
せっかく、相馬と一緒にいるのに。丁寧に対応していたら時間が無くなる。本当なら、きちんと話すべきだと分かっているが、今は相馬との時間が優先。こうやって、笑顔振りまいておけば満足して帰ってくれるだろう。「話すタイミングは今じゃなくてもいいよね」と伝わってくれただろうか。
「俺よりも、相馬の方がよかったと思うけどな」
「え?何で?」
落ち着いた瞬間、俺は話を戻す。
「だって、……可愛かったもん。普通に」
「……え、そっち?」
臨機応変に対応してくれたことを褒めてあげればよかったか。でも、それは俺の気持ちに気付いたらお返しで褒めてあげる。
「俺は相手が相馬で良かったって思ってるよ」
相馬との共通の話題を作るためにだったはずなのに、いつの間にか相馬を知るための手段となっている。これを失ったら俺たちは終わりなのか。演劇が終われば、この「王子様」と「ヒロイン」の関係ももう終わりなのだ。
「お前に女装が似合うことも、お前がヒロインをやってくれて良かったことも、楽しかったことも、お前が好きだってことも」
終わらせたくない。このまま俺は相馬の王子でいたい。
「俺、お前が好きだよ」
相馬は気づいてくれるだろうか。この告白は、王子様の言葉じゃない。結城浬の言葉だ。こんなことを言う日が俺にも来るなんて。それも同性に。思い描いていた未来で想定外の自分と出会う。
「じゃあ俺、ライブあるから行くわ」
彼のふわふわした髪の毛が少し湿っている。九月らしくない残暑のせいか、相馬が公演を頑張ったという証か。それすらも愛おしく思える俺はもう、どうかしている。

「お疲れ様です。今日はよろしくお願いします」
ギターを持って俺は体育館に来た。すでに汐谷先輩と浅野先輩が楽器の準備に取り掛かっていた。俺も先輩たちに続きギターケースからギターを取り出す。
「お疲れーっす」
「お疲れ様っす」
岬先輩や沖田先輩も合流した。
「あ、浬も来てるじゃん‼演劇お疲れ‼めっちゃよかったぞ」
「ありがとうごさいます、けど、それもう何十回も聞きました」
「いいじゃーん、言わせろよー」
チューニングしている俺にはしゃぎながら肩を組んでくる岬先輩。「音がズレる」と思いながらも、岬先輩のこういうところは好きだし、こういうのは嫌じゃない。この人といると毎回テンションがつられる。岬先輩といると、それだけでワクワクする。
「ところで、……一つ聞いていいか?」
「え、何っすか……?」
珍しくテンションが低い岬先輩に俺は先輩の顔を見た。
「あの告白のシーンは、台本に新しく追加されたのか?俺たちが練習で使ってた台本にはなかったよな?あんなシーンがあるとか聞いてねーぞ?」
「え、やっぱり、そうだよな……‼」
「俺も一瞬『あれ?』って思ったんだよ」
岬先輩が珍しく鋭い。あのシーンについて先輩たちに聞かれるかもとは思っていたが、まさか岬先輩とは。彼の発言に周りの先輩たちも共感の声を上げる。この人たちに「相馬への気持ちが思わず溢れた」なんて言えるわけがない。
「なんか、王子様の気持ちに入りすぎちゃって。きっと王子ならこんな風に気持ち伝えるんじゃないかなって思ったんで」
「……つまりアドリブってこと?」
頷く俺に「すげー」と反応する先輩たち。しかし、俺の場合はアドリブはアドリブでも、俺の意思ではない。完全に無意識の言葉だった。もちろん、そんなことはいくら先輩でも秘密だ。
「結城、それができるならお前絶対俳優に向いてるぞ」
「うわ、未来のスターか⁉」
彼らの雑談に適当に話を合わせ返事をする。こうやって改めて劇の話を深掘りされると恥ずかしい。特に練習相手になってくれたこの人たちは劇の流れはもちろん、セリフもほとんど覚えている。他の観客と比べ彼らの持っている演劇の情報は関係者並み。変に誤魔化すと厄介なことになりそうだ。
「もう少しで始まるぞ」
演劇の話で盛り上がった熱を、公演に向けて気持ちに切り替える。
(よし、がんばろ……)
俺の気持ちを俺はギターにぶつける。それが、たった一人に届くなら。心を落ち着かせ公演の幕が上がるのを待つ。そして見つけた彼の姿。「来てくれた」と沸き立つ心。だから、体育館から相馬がいなくなったとすぐに気づいた。
「一緒に写真撮ってくれませんか」
「私も」
演劇の時同様、写真撮影に対応する。先ほど食堂で演劇の感想を伝えてくれた女子たちとも話した。ライブの感想を熱く語ってくれる客に「ありがとうございます」と答える。そして写真撮影が終わった後、外の空気を吸いに体育館の外に出る。疲労に憑りつかれた全身に清い空気が流れる。
(気持ちー……)
深呼吸と同時に向こうで奇跡的に相馬が座っていた。
(まだいた……)
ライブ中に姿を消したから、今ごろ校内を歩き回っているんだろうと思っていたが。まさか、こんなすぐに彼の姿を見れるなんて。だが、隣にはもう一人。ライブに一緒に来ていた友達と話しているようだ。ずいぶんと仲がよさそう。相馬は「平野」って呼んでいた。普段もよく一緒にいるところを見かける。
「渚くん、みーつけた」
「え?」
「え、『渚』……?」
相馬はもちろん、平野も驚いていた。今のはわざとだ。あえて下の名前で呼んでみた。平野はいつも「相馬」と呼んでいたから。
「ちょっと、こいつ借りていい?」
「あ、うん……?」
このまま放置していれば、相馬が教室に戻ってしまう。そうなる前に、俺は相馬から平野を離す。片付けも途中なので、相馬を体育館に待たせ急いで片付けをしていく。彼らなら、相馬を引き留めてくれるのではないかと、相馬にAQUAのメンバーを紹介する。しかし、そこまで会話は広がらなかった。我ながら呼んでおいて放置とはひどいと思うが、それでも片付けをサボるわけにはいかない。
(頼む……、あともう少し、待ってくれ)
そう心で叫ぶも、「戻っていい?」と俺に呼びかける相馬。その声は届かなかったようだ。
「……待って」
「え……?」
(あーもう、片付けは後回しだ)
ステージから降りた俺は相馬にストレートに問い詰める。
「なんで途中で消えたんだよ」
俺の質問に彼は「疲れたから」と答えた。よく考えたら、その通りだ。相馬はクラスの出し物の公演を終えてまもない。それに俺だって疲れた。疲れが溜まっているのに、あれだけ騒がしい箱の中に閉じ込められたら、途中で抜けるのも納得だ。今のは俺の配慮が足りなかった。
「そっか。なら仕方ないか……」
なぜ抜けたのか、納得できる理由を伝えてくれて少し安心した。でも、相馬には伝えなければならない。
「言っておくけど俺、お前のことしか見えてなかったから」
今の俺には、お前しか見えていないこと。これで彼がどこまで分かってくれたかは分からない。でも、伝わっていないのなら俺がこれから何度でも相馬に言ってやる。
(だから……)
「これからもよろしく」
先輩たちに「早く戻ってこい」と呼ばれ走ってステージの片付けを手伝う。伝えそびれたものはない。ここからは、ゆっくりとやっていこうと思った。

それから、俺たちに降ってくるあらゆる“きっかけ”。

席替え。
くじ引きで相馬の真後ろの席に当たった。奇跡だと思った。「よろしく」と挨拶だけ済ませるが、内心めちゃくちゃ沸いていた。こうやって同じクラスになれただけでも俺は満足だったのに。こんなに近くにいたら、話しかけたくて仕方なくなる。目の前で彼の友人と仲良く話しているのを見ると余計に。

勉強。
周りの目から逃れるために頑張り始めた勉強が、相馬との繋がりを増やすきっかけになった。勉強のことを教えていれば、相馬は俺の話を必ず聞いている。そう確信できる。今まで勉強を頑張ってきたことが、こうして役に立つとは思わなかった。武器を増やして良かった。

真帆。
相馬と俺だけの共通の話題。相馬以外の人たちは俺の家庭事情を知らない。悩みを打ち明けるのも、真帆のことを話すのも、それができるのは相馬だけ。

(バンドのメンバーにも見せたことのない弱い自分を、この人の前なら出せる)

そう、思い込みすぎていたのかもしれない。だから、俺は彼を余計に意識してしまう。

「一人で抱えるなよ。俺がいる。辛かったら『辛い』って言え。俺で良ければいくらでも聞いてやるし、俺はお前の力になりたい」

この言葉がどれだけ嬉しかったか。どれだけ俺を救ってくれたか。「誰にも迷惑をかけたくない」、「自分の力で乗り越えなければ」と自分を追い込んでいた俺なのに。限界はあった。それに気づいたのが、救いの手を伸ばした先にいたのが相馬で本当に良かったと思った瞬間だった。

「相馬、好きだよ……」

涙が零れ落ちるように俺は相馬にそう伝えていた。文化祭の舞台上でも言ってしまったこのセリフ。文化祭の時とは違い簡単に流す相馬。彼はきっとこの言葉の意味を分かっていない。ましてや知ることはないだろう。スマホに相馬の連絡先を登録する俺の気持ちなんか。
(やっぱり俺、相馬が好きだ)
こんな俺を、相馬はどう思うだろうか。「気持ち悪い」とでも言われ蹴られるだろうか。「友達になりたい」と思っているときは、俺でもどうかしていると思えるほど相馬に迫れたのに、「先に進みたい」と自覚してしまえば、一気に接しづらくなる。相馬に話しかけるときは、深呼吸で心を落ち着かせ“今まで通り”を装う。いろいろ無理した結果、俺は体育で倒れた。俺に駆け寄ろうとする相馬が救世主だった。俺の秘密を守ろうと、嘘までついて。どうしてそこまでと思うのに、俺のためだと思うとたまらなく嬉しくなる。放置してもいいのに、保健室の先生が来るまで会話を繋ごうと話題を必死に探す相馬。
(バレバレなんだよ、マジで……)
倒れた結果、俺の頭がおかしくなったみたいだ。焦るところも、拗ねるところも、相馬の全部が愛おしくなってくる。引力というものが本当にあるのだと知った。磁石になったみたいに、自分の身体がどんどん相馬に引き寄せられていく。保健室の扉が開く音で我に返る。焦ったのか、初めて相馬に「こいつ」と言われた。なのに全く棘を感じない。「もう一回言って」と言ったら、引かれるだろうか。保健室を出ていく彼を引き留めたかったが、その時にはもう彼は保健室から姿を消していた。