君だけが知っている、僕の「大丈夫」の居場所

 梅雨入りし、ジメッとした日々が続いている。
 このジメジメは、いつまで続くんだろう。
 雨は嫌いじゃないけど、梅雨独特の蒸し暑い中の雨は少し苦手だ。
 僕の心もジメジメしているようで、嫌になる。

 最近は、いつメンといない時に気がつくと律が隣にいることがある。
 今日の昼休みも、図書室に行こうとしたら「俺も行く」とついて来た。
 律も読みたい本でもあるのかな。
 どんな本を読むんだろう。
 
 誰かと図書室に行くことがあまりないから、律と一緒に図書室に向かうのは、なんだか新鮮だ。
 返す本を両腕でぎゅっと抱え込む。
「律も本、好きなの?」
「うん、まぁまぁ読むかな」

 え?それだけ……?
 そっかぁ、と返したらここで会話終了だ。
 それでいいのか?と自問自答していたら
「そっかぁ……」と口にしていた。
 咄嗟に
「えーと……どんなの読んでる?」
 
「うーん、割となんでも読むかな……
 小説も、漫画も、自伝みたいなのも……読むよ」
 律の声がだんだん小さくなった気がした。
 気のせいかもと思いつつ、律のことを知れたようで嬉しくなった。

 図書室のドアを開けると、本の匂いに心が落ち着いた。
 借りていた本を返却し、図書室のどこかにいるであろう律を探す。

 化学の本が置いてあるコーナーに、律はいた。
 律の隣に並び、本棚を眺める。
「律はこういうの好きなの?」

 目を見開いた律がこっちを向いた。
「うん……」
 
 何か驚くようなこと聞いたかな?
 律の読んでる本、律の好きな本を読んでみたいなぁと思った。
「どの本がおすすめ?
 化学好きだし読んでみようかなー」
 本棚とにらめっこしながら聞くと、ぐふふっと律が吹き出すように笑った。
 
「うん? 何!?」
 今度は僕が目を見開いた。
 
「前にも、似たようなことあったなって」
 ……え?そんなこと、あったっけ?
 でも、律が笑ってる。嬉しそうに、笑ってる。
 僕の心は、春のような温かさになった。
 うーん、前に似たようなこと? と僕の頭の中ははてなマークでいっぱいだ。

「え? そうだっけ? いつ?」
「さぁね〜」
「え!誤魔化した? 誤魔化そうとしてる? ねぇ〜」
 
 図書室の端っこにふたり、小さな声で笑い合った。
 声を潜めているはずなのに、律の声はやけに近く聞こえた。
 
「覚えてなくていいよ。……別に」
 ……なんだろう?
 すぅっと冷静になった律の横顔は、なんだか少し寂しそうに見えた。
 別に……なんて、誰でも言うのに。

 律は本棚を見て、何か探し始めた。
 律の好きな本かな。
 そういえば、律のこと、まだあんまり知らない。 
 するりと一冊本を抜き取って、僕に差し出す。
「これ、おすすめ」
 本を大事そうに掴む律の手に目がいった。 

 両手でしっかりと受け取り、まじまじとその本を見てしまった。
 頭の中ではスローモーションのように、ゆっくりと時間が流れた。

「……自伝? 面白そう!」
 さっき律の口から自伝という言葉を聞いて、心が躍った。
 素直に読んでみたいなぁと思っていた。
「……え。」
 それなのに、律がなぜか驚いている。
「うん?」
 ふたりで少し驚いて顔を見合わせた。
 すると律がまた、ぶふっと吹き出す。

「やっぱり、透だな」
「うん……? なにそれ?」
「ううん、なんでもない。一緒に来てよかった」
 律は嬉しそうに笑った。
 僕もつられて笑う。

 律が選んでくれた本を借りて、図書室を後にする。
 借りた本は、少しだけあたたかい重さがある。
 廊下のジメジメはまだなくならない。
 さっき見た寂しそうな律の顔は、図書室に残しておけなかった。