地味で堅物なメイドですが、キラキラ侯爵令嬢に変身した私に坊ちゃんが恋をしました【完結】

聖堂内が騒然となる中、私は宙で一回転して――修道士様に(ふん)した刺客を蹴り飛ばした。

「ぐあっ!? ぐおっ!!?」

間髪入れずに刺客の腹を殴り、ヴァレリオ様をエンツォに預ける。
そして――。

「ぐぁああああ!!?」

風の魔法で刺客を吹き飛ばした。
刺客は――柱にぶつかって動かなくなった。
よし。まずは一人目。

振り返ると、また視界の端に鋭い光を捉えた。
信者に扮した男性三人が、それぞれご当主様、ドメニコ様、アレッシオ様に襲い掛かっている。

私は刺客の姿を、一人一人しっかりと捉えて――素早く剣を振った。

「ごふっ!!?」
「があぁああっ!!!?」
「……っ……!!!!!!!」

三人の刺客をそれぞれ柱、壁、扉に叩きつけた。
いずれも無力化出来たようだ。

「お父様、ロッコ……!」

ご当主様、ドメニコ様、アレッシオ様の避難も無事完了したようだ。
主柱を背に据えて、左右をリッカルド様とロッコ様が固めている。

ヴァレリオ様の護衛には、エンツォがついていた。
エンツォはヴァレリオ様に肩を貸しつつ、ショートソードで周囲を鋭く牽制しながら進み――見事リッカルド様達と合流を果たした。

あれならもう、並大抵の襲撃ではビクともしない。
ご一族の方々に危険が及ぶことはないだろう。

「良かった……」

ほっとしたら、今更ながらに足が震えてきた。
必死過ぎて、怖がる余裕すらなかったんだろう。

苦笑しつつ、パンッと自分の膝を叩いて切り替える。
しっかりしないと。今の私はメイドじゃない。
サヴィオラ家の親衛隊員ルクレツィアなんだから。

「……?」

ふと視線を感じて目をやると――ヴァレリオ様がこちらを見ていた。
酷く驚いて、戸惑っているみたい。

そう言えば、前にもこんなことが……。

『何か?』
『いいえ! その……失礼致しました。クロエ様があまりにもお美しくて、つい』

そうだ。クロエでお会いした時にも、似たような顔をされたことがあった。

やっぱり坊ちゃんは何かに気付いている?
それは何? 一体何に戸惑っていらっしゃるの?

心臓がバクバクと嫌な音を立てる。
目を逸らすことも出来ずにいると、ヴァレリオ様の唇が静かに動いた。

――「フィオーラ」と。

どうして?
どうしてお分かりになるのですか?

私は影。彼女達は光。
何もかもが違う。別世界の人間なのに。

「「「うわあぁぁああああ!!!!」」」
「「「きゃあぁああああ!!!!!」」」

パニックを起こした信者の方々が、我先にと出口に向かって走り出していく。
私が今立っているのは身廊だ。このままだと呑み込まれてしまう。
退避しなきゃ。側廊のアーチのあたりでいいかな――。

「ルル!! 後ろ!!!」

エンツォが叫んだ。
振り返ると、目の前にダガーが迫って来ていて。

「っ!!!!」

避け切れなかった。
左肩に激痛が走る。

「死ね!!!!!」
「ぐっ!!」

男がまた突きを浴びせてきた。
私はよろめきながら、何とか躱して――死に物狂いで剣を振る。

「ぐはぁっ!!?」

刺客の体が、側廊の柱に打ち付けられた。
それを見届けてから、もう一度剣を振るって、今度は自分の体を飛ばす。
向かう先は側廊だ。受け身、取れるといいけど。

「しゃーーーーーっ!!!!!」

ドシッと何かにぶつかった。いや、受け止められた?

「大丈夫か!? ルルよ!!??」
「お父、様……」

どうやら、リッカルド様が受け止めてくださったようだ。
ありがたい。でも――。

「護衛は、刺客は……」
「案ずるな!!! あれを見ろ!!!」

指し示された方を見ると、外で待機していた親衛隊の皆様が、刺客の捕縛やご一族の護衛をこなしてくださっていた。

「良かった……」
「よく頑張ったな、ルル。だが、最後のはいただけなかったな」
「はい。猛省しております」

リッカルド様はうんうんと頷きながら、頭を撫でてくれる。

とても大きな手。それこそ、私の顔を丸ごと覆ってしまうぐらいの。
けれど、恐怖は感じなかった。むしろ、安らぐ。
その手つきが、あまりにも優しくて、愛情に満ち満ちていたから。

「うつ伏せにするぞ」

リッカルド様はそう言って、私の体を大理石の床に横たえた。
しばらくして、ビリッビリッと少し乱暴な音が立ち始める。

ナイフで布の鎧を破いているんだ。
これは処置をするのに必要なこと。
それに……何も全部破くわけじゃない。患部の周辺だけだ。

分かってる。分かってるのに、つい身構えてしまう。
だって、こんな……男性に肌を晒すのなんて、これが初めてで……。

「ルクレツィア!!!」

っ!! 坊ちゃん……。

見ればヴァレリオ様が、エンツォに肩を借りる形で向かって来ていた。

来ないでください。

胸の中で必死に訴える。
だけど、痛んでいるであろう足を邪魔だと言わんばかりに引き摺り、必死に前へ前へと進むお姿を見ていたら――胸がいっぱいになってしまって。

「僕にやらせてくれ」
「……御意」
「っ! ありがとう」

リッカルド様は、僅かも異を唱えることなく了承した。
ヴァレリオ様の思いを汲んでくださったのだろう。

笑顔で感謝するヴァレリオ様の横で、エンツォがぎょっと目を見開く。

「えぇ゛っ!? いいんすか、隊長!?」
「坊ちゃんの師匠(マエストロ)は、守ることに重きを置いておいででな。護衛対象、仲間、自身を守る剣術と共に、救術についても、大変熱心にご指導なさっているのだ」
「あ、それガチだったんすね」
()()()()()()。一緒にするな、このバカたれが」
「ははは~っ、すみませんしたッ!!」
「それじゃあ、まずは患部の圧迫止血から入ろう」
「よろしくお願い致します」

リッカルド様からの了承を得るなり、ヴァレリオ様は私の背中に(またが)った。

「痛いと思うけど……頑張ろうね」
「……はい。……あっ……!」

しゅるっと何かを解く音がした直後――私の肩に激痛が走った。