偽装世子は冷遇されていたのになぜか影に溺愛されています。



「邸下のお茶を、差し替えます」


 声は低いが、威圧感がある。重臣は一瞬怯んだが、すぐに嘲るように言った。


「内人風情が、口を挟むな」


 霧津は無表情のまま、茶碗を置いた。だが、その指先が一瞬、重臣の袖を掠めた。誰も気づかないほどの、わずかな動き。

重臣は気づかず笑っていたが、霧津の瞳は一瞬だけ、鋭く光る。それは、冷たい殺意に近いものだったが彼らは言いたいことが言えて満足したのか政務室から出て行った。



 政務が終わると、英蓮は東宮殿に戻る。
 疲れ果てて、座り込む。
 霧津は無言で近づき、英蓮の肩に手を置いた。だけど、朝のことがあるからかすぐに離れる。


「……どこか痛むのか」

「少し……だが、平気だ」

「まだ夕進止までは時間がある。それまでは休め」


 英蓮は驚いて顔を上げる。


「どうして……」

「任務だから。邸下が倒れれば、俺の役目が果たせなくなる」


 霧津はそう言いながらも、ほんの少しの躊躇が見えた。まるで、壊れ物を扱うような。