偽装世子は冷遇されていたのになぜか影に溺愛されています。



   ***


 それから時は流れ、春風が御簾を揺らす頃。
 霧津は 康寧殿(カンニョンジョン)で王の礼装を脱ぎ捨てると、 交泰殿(キョテジョン)へと向かった。

 中殿がいる交泰殿には世子嬪と呼ばれていた荷允が出迎えた。荷允は、元々東宮にて内人になるべく育てられた姫だったのだ。
 なんにせよ、宮中に上がることは決まっていたため風格は極上だ。


「英蓮さま、陛下がいらっしゃいました」


 荷允により扉が開けられ、中では英蓮が静かに書を読んでいるのが見えた。


「英蓮、調子はどうだ? 最近はずっと寝ていると聞いたが……」


 英蓮は書物を閉じると側に置いた。


「今日は調子がいいの。霧津…… 荷允が持ってきてくれた読み物が面白くて」

「そうか、それは良かった」


 霧津は英蓮の近くに座ると、ふっくらしている英蓮のお腹を撫でた。

「医官より、もう産み月が近いと聞いている」


 英蓮はご懐妊されてから静かに書をひもとき、穏やかな日々を過ごしていた。

 陛下は英蓮が懐妊した当時。医官に告げられた時、とても喜んでいた。