偽装世子は冷遇されていたのになぜか影に溺愛されています。




 合房の翌日から霧津の行動は静かに、しかし確実に変わり始めていた。あれからひと月。

 表向きは変わらぬ冷徹な内人。霧津の影として控えており言葉少なく、表情もない。ただ任務を遂行する。 だが、その瞳の奥に宿る炎は、誰にも気づかれぬまま、静かに燃え広がっていた。

 朝議の場。今日も重臣たちの様子は変わることはない。


「世子邸下、合房の夜はいかがでしたか? 世子嬪のお加減はいかがですか? ご懐妊の兆しはおありですか?」


 老臣の一人が、にやにやと口角を上げた。周囲の視線が一斉に英蓮に集まる。
 嘲り、好奇、軽蔑――すべてが混じり合った視線が突き刺さるようだった。

 英蓮は声を低く抑え、毅然と答えた。


「おかげさまで。ご心配ありがとうございます。ですが、こればかりは授かり物ですので」

「……やはり体が弱いゆえか。もうひと月経つ、兆しがないのならそろそろ側室でも迎え入れなくてはなりませんな」


 笑い声が広がる。王ですら、ただ黙って見ているだけだった。英蓮が女だとわかっているのに、英蓮に恥をかかせたくてやっているのだ。

 議が終わると、霧津は英蓮を東宮殿へ連れ戻した。部屋に入るなり霧津は扉を閉めた。


「……今日は、いつもより顔色が悪い」


 英蓮は座り込み、肩を落とした。霧津は無言で近づき、英蓮を抱き上げる。


「……っ……な、何を」

「守れなくてすまない」


 布団の上に優しく下ろし、晒し布を解き始める。いつになく優しい。


「いえ……仕方のないことですから」