「嘲笑う連中は、何も知らん。お前がどれだけ苦しんでいるか」
英蓮は霧津の声に、初めて苛立ちが混じっているのを感じる。
「王も、重臣も、お前を『不要』と切り捨てた。自分らの都合でお前を女の体で玉座に押し上げ、使い捨ての道具にした」
霧津の手が、英蓮の首筋に触れ唇を重ねた。
「俺は……任務だと思っていた」
霧津の声が、わずかに途切れる。
「ただ、お前を生かす。それだけだと思っていた」
「霧津……?」
「だが……今夜だけは」
霧津の唇が、ヨンの耳元に触れる。
「英蓮は俺のものだ」
それは初めての本音のようだった。
「あなたを嘲笑った奴らに、俺は許さない。あなたを不要と言った王に、俺は後悔させてやる」
霧津の指が、英蓮の頰を撫でる。 冷徹な男の瞳に、狂おしいほどの執着が宿っていた。
「この部屋の中では――俺が英蓮を、誰よりも大切に守る。
英蓮の目から、涙がこぼれた。
「霧津、ありがとう」
「礼はいらん。英蓮はただ俺に身を任せるだけでいい」
霧津は英蓮の唇を塞いだ。それは、先程のような冷たいキスではなかった。
熱く、深く、抑えきれない想いが溢れていた。
その外で尚宮たちは淡々と記録を終えていく。帳の内側で起こっているのは、偽りではなかった。
霧津は英蓮を腕に抱き、一晩中離さなかった。冷徹な仮面が、初めて大きく亀裂を入れた夜だった。
そして、英蓮にとっては今まで生きてきた中で一番幸せな夜だった。



