「霧津、ありがとう」
「礼などいらん」
霧津は手を止め、英蓮の顔をまっすぐに見つめた。冷たい瞳の奥に、初めて、何かが揺れた気がした。
「だが……一つだけ、言っておく」
霧津の声は、低く抑えられている。
「お前を『不要』と嘲笑う連中は、わたしが許さない」
それは、脅しでもなかった。ただの、事実の宣言。英蓮は息を呑んだ。冷徹な男の言葉に、なぜか、心が震えた。
それでも――その冷たさの中に、わずかな熱が宿り始めていることに、英蓮は気づき始めていた。
だが、霧津が英蓮を女だと疑い始めたことには気づかなかった。



