御曹司は、なぜか私にだけ優しい

夕方の公園。

オレンジ色の空の下で、私はまだ少しぼんやりしていた。

「思い出しただろ」

神城くんの言葉。

私はゆっくりうなずいた。

「うん……」

10年前の記憶。

小さな男の子。

泣いていた顔。

そして私が言った言葉。

“私がそばにいるよ”

まさかその男の子が、神城くんだったなんて。

「ずっと覚えてたの?」

私は聞いた。

神城くんはベンチに座ったまま、少し空を見た。

「忘れる理由がない」

静かな声。

私はその隣に座った。

少しだけ距離が近い。

でも、なぜか前より緊張しなかった。

「ありがとう」

私は言った。

「え?」

「覚えててくれて」

普通だったら忘れてしまうかもしれない。

小さい頃の約束なんて。

でも神城くんは覚えていた。

ずっと。

神城くんは少しだけ笑った。

「礼言われることじゃない」

そして立ち上がる。

「送る」

「え?」

「家」

私は驚いた。

「大丈夫だよ!」

「遅い」

時計を見ると、もう夕方を過ぎていた。

「それに」

神城くんは言った。

「約束した」

私は首をかしげる。

「何を?」

神城くんは少しだけ真面目な顔で言った。

「守るって」

胸がドキンと鳴る。

なんだか、すごく真剣だった。

「……じゃあ」

私は少し照れながら言った。

「お願いしようかな」

こうして私たちは並んで歩き始めた。

帰り道。

夕焼けの光が道路をオレンジ色に染めている。

二人で歩くのは少し不思議な感じだった。

学校ではいつも騒がしいのに、今はとても静か。

「小林」

神城くんが言った。

「なに?」

「結菜でいい」

「え?」

「名前」

私は少し驚いた。

今まで苗字で呼ばれていたから。

「じゃあ……」

私は少し恥ずかしくなりながら言った。

「神城くんも、蓮くんでいい?」

神城くんは少しだけ考えた。

そしてうなずいた。

「好きにしろ」

なんだか嬉しくて、私は少し笑った。

そのとき。

後ろから声がした。

「結菜!」

振り向く。

そこにいたのは――

陽斗だった。

「陽斗?」

陽斗は少し息を切らしている。

どうやら走ってきたらしい。

そして私と神城くんを見た。

「……一緒なんだ」

その声は、少し複雑そうだった。

私は慌てて言った。

「たまたまだよ!」

でも陽斗は神城くんを見た。

「送ってるの?」

神城くんは平然と答えた。

「そうだ」

陽斗は少し黙った。

そして私を見た。

「結菜」

「ん?」

「気をつけろよ」

「え?」

「こいつ」

神城くんを見る。

「結菜のこと、本気で狙ってる」

私は顔が一気に熱くなった。

「ええ!?」

でも神城くんは特に否定しなかった。

ただ静かに言った。

「悪いか」

その言葉に。

陽斗の目が変わる。

そして私は思った。

三人の関係が――

これからもっと大きく動き始める。

そんな予感がした。