御曹司は、なぜか私にだけ優しい

「守るのも俺だ」

神城くんの言葉のあと。

教室の空気が静まり返った。

西園寺さんは、私と神城くんを見比べる。

「蓮……」

その声には、少し驚きが混じっていた。

神城くんはまっすぐ彼女を見ている。

「小林に言うことがあるなら、俺の前で言え」

その言い方は、はっきりしていた。

西園寺さんはしばらく黙っていたけれど、やがて小さく笑った。

「……変わったわね」

「何が」

「昔の蓮は、そんなに誰かをかばう人じゃなかった」

神城くんは何も答えない。

西園寺さんは私を見た。

その視線は、少しだけ複雑だった。

「でも覚えておいて」

静かな声で言う。

「蓮の世界は簡単じゃない」

それだけ言うと、彼女は教室を出ていった。

ドアが閉まる。

私はまだ少し緊張していた。

「大丈夫か」

神城くんが聞く。

「う、うん……」

でも心臓はまだドキドキしている。

「ごめん」

思わず言った。

「なんで謝る」

「だって、私のせいで……」

すると神城くんは首を振った。

「違う」

そして言った。

「元々、俺の問題だ」

その言葉の意味は、まだよく分からない。

そのとき。

彼が言った。

「来い」

「え?」

「少し外出る」

「外?」

もう放課後で、学校にはほとんど人がいない。

私は少し迷ったけれど、うなずいた。

学校の外。

夕方の空はオレンジ色に染まっていた。

神城くんは無言で歩いている。

私はその隣をついていった。

「どこ行くの?」

「すぐ分かる」

数分歩くと、小さな公園が見えてきた。

ブランコ。

滑り台。

砂場。

その景色を見た瞬間。

胸がドクンと鳴った。

(ここ……)

私は足を止めた。

頭の中に、映像が浮かぶ。

夕方。

泣いている男の子。

ベンチ。

小さな私。

「思い出したか」

神城くんが言った。

私はゆっくりうなずいた。

「ここ……」

声が震える。

「来たことある」

神城くんはベンチの前で止まった。

「10年前」

そう言った。

そして静かに続ける。

「親が離婚した日だった」

私は驚いた。

神城くんの家のこと。

初めて聞いた。

「俺はここで泣いてた」

彼は空を見上げた。

「そしたらお前が来た」

私の記憶の中の景色と重なる。

小さな男の子。

泣いている顔。

「覚えてる……」

私は小さく言った。

「男の子が泣いてた」

神城くんは少し笑った。

「それが俺」

そして言った。

「お前は言った」

私はその言葉を先に言っていた。

「“大丈夫。私がそばにいるよ”」

風が静かに吹く。

桜の花びらが一枚、地面に落ちた。

神城くんは私を見た。

「だから」

その声は、とてもまっすぐだった。

「今度は俺の番だ」

私は胸がいっぱいになった。

10年前の約束。

そんな大切なことを。

彼はずっと覚えていたんだ。

「ごめん」

私は言った。

「忘れてて」

神城くんは首を振る。

「いい」

そして少しだけ優しい声で言った。

「思い出しただろ」

そのとき。

夕方の風が強く吹いた。

そして私は思った。

この出会いは、偶然じゃない。

きっと――

運命だったのかもしれない。