御曹司は、なぜか私にだけ優しい

風が強く吹いていた。

校舎裏のベンチ。

私と陽斗、そして神城くん。

三人の間に、重たい空気が流れている。

「結菜は渡さない」

陽斗の言葉。

そのあと、誰もすぐには話さなかった。

私はどうしていいのか分からなくて、ただ二人を見ていた。

すると神城くんが言った。

「渡すとか渡さないとか」

低い声。

「小林は物じゃない」

陽斗は少し黙った。

「……それは分かってる」

「なら言い方を変えろ」

二人の視線がぶつかる。

私は慌てて言った。

「ちょっと待って!」

二人とも私を見る。

「け、喧嘩しないで」

こんな空気、初めてだった。

すると陽斗がため息をついた。

「……悪い」

そして私を見て言う。

「急に言ってごめん」

さっきの告白のことだ。

私はまだ頭が整理できていない。

「ううん……」

何て答えればいいのか分からない。

そのとき。

神城くんが言った。

「帰るぞ」

「え?」

「次の授業」

そういえばもうすぐチャイムだ。

三人で教室へ戻ることになった。

でも。

廊下を歩きながら、私はずっと考えていた。

“泣いてた俺に言った”

“そばにいるよ”

その言葉。

胸の奥が、ずっとざわざわしている。

(本当に会ったことあるのかな……)

そのとき。

突然、頭の奥に映像が浮かんだ。

小さな公園。

夕方。

泣いている男の子。

「……っ」

私は立ち止まった。

「どうした」

神城くんが振り向く。

「今……」

頭が少し痛い。

「公園……」

その言葉を聞いた瞬間。

神城くんの目が変わった。

「思い出したのか」

私は首を振る。

「まだ、はっきりじゃないけど……」

でも確かに見えた。

泣いている男の子に、私は言っていた。

“泣かないで”

“私がいるよ”

神城くんはしばらく私を見ていた。

そして小さく言った。

「ゆっくりでいい」

「え?」

「思い出すのは」

その声は、いつもより少し優しかった。

その日の放課後。

私は一人で教室に残っていた。

ノートをまとめていたら、遅くなってしまった。

そのとき。

「結菜」

声がした。

振り向く。

西園寺莉子だった。

「西園寺さん……」

彼女はゆっくり教室に入ってきた。

そして私の机の前で止まる。

「最近、蓮とよく一緒にいるわね」

私は少し困った。

「それは……」

どう説明したらいいのか分からない。

すると彼女は微笑んだ。

でもその笑顔はやっぱり冷たい。

「忠告しておくわ」

「え?」

「蓮に近づきすぎない方がいい」

私は黙った。

「彼の世界は、あなたが思っているよりずっと複雑なの」

「……」

「傷つくのは、あなたよ」

その言葉に、胸が少し痛くなった。

でも。

そのとき。

「それは違う」

低い声がした。

振り向く。

教室のドアのところに――

神城くんが立っていた。

西園寺さんが振り向く。

「蓮」

神城くんはゆっくり歩いてきた。

そして私の隣に立つ。

「小林を巻き込んだのは俺だ」

教室が静かになる。

西園寺さんは少しだけ眉をひそめた。

「蓮……」

神城くんは言った。

「だから」

そして。

私の肩に手を置いた。

「守るのも俺だ」

その言葉に。

胸がまた強く鳴った。

そして私は思った。

この人は――

本気なのかもしれない。

10年前の約束を。