御曹司は、なぜか私にだけ優しい

昼休みが終わったあと。

私は一人で廊下を歩いていた。

さっきのことが、まだ頭から離れない。

「お前が困るのは嫌だ」

神城くんの言葉。

思い出すたびに胸がドキドキする。

(なんであんなこと言うんだろう……)

そのとき。

「結菜」

後ろから声がした。

振り向くと――

陽斗だった。

「陽斗?」

「ちょっといい?」

いつもより少し真剣な顔。

私はうなずいた。

「うん」

私たちは校舎の裏にあるベンチへ行った。

ここは人があまり来ない場所。

静かで、少しだけ風が強い。

陽斗はしばらく黙っていた。

そして言った。

「神城と仲いいな」

私は慌てた。

「ち、違うよ!」

「そう?」

陽斗は少し笑った。

でもその笑顔は、どこか寂しそうだった。

「昨日も今日も一緒にいるじゃん」

「それは……たまたま」

私は言葉を探す。

でもうまく説明できない。

すると陽斗はゆっくり言った。

「結菜」

「ん?」

「俺さ」

一瞬、言葉を止める。

そして。

「結菜のこと好きだよ」

私は固まった。

「え……」

頭が真っ白になる。

陽斗とはずっと一緒だった。

小さい頃から。

でも。

そんなふうに考えたことは――

「急にごめん」

陽斗は苦笑した。

「でもさ、神城見てたら言わないとダメな気がして」

「陽斗……」

私は何も言えなかった。

そのとき。

「告白か」

低い声が聞こえた。

振り向く。

そこに立っていたのは――

神城蓮。

「……神城」

陽斗が少し眉をひそめる。

どうしてここに?

神城くんはゆっくり近づいてきた。

そして私たちの前で止まる。

「聞こえた」

陽斗はため息をついた。

「盗み聞きかよ」

「違う」

神城くんは静かに言う。

「たまたまだ」

でも。

二人の間の空気は明らかに変わっていた。

陽斗が言った。

「神城」

「何だ」

「結菜に近づく理由、何?」

神城くんは少しだけ考えた。

そして言った。

「決まってる」

私の心臓がドキンと鳴る。

神城くんは私を見た。

まっすぐな目。

「約束したからだ」

「約束?」

私は聞き返した。

神城くんは小さくうなずいた。

「昔」

そして続けた。

「泣いてた俺に言った」

私の胸がざわつく。

「“大丈夫。私がそばにいるよ”って」

その言葉を聞いた瞬間。

頭の奥に、何かがよぎった。

小さな公園。

夕方の空。

泣いている男の子。

でも――

まだ思い出せない。

神城くんは言った。

「だから」

そして私を見て言った。

「今度は俺が守る」

その言葉に。

胸が強く鳴った。

でも。

陽斗が言った。

「悪いけど」

神城くんを見る。

「結菜は渡さない」

風が強く吹く。

三人の間に、緊張が流れる。

私は思った。

普通だったはずの高校生活が――

もう元には戻れない。

御曹司。

幼なじみ。

そして私。

三人の想いが、ついに動き始めていた。