御曹司は、なぜか私にだけ優しい

次の日の朝。

学校に入った瞬間、なんだか視線を感じた。

(……気のせい?)

私は少し不安になりながら靴箱を開けた。

そのとき。

「結菜!」

後ろから陽斗が声をかけてきた。

「おはよ」

「お、おはよう」

陽斗は私の顔を見るなり言った。

「大丈夫?」

「え?」

「昨日のこと」

どうやらもう知っているらしい。

「別に大丈夫だよ」

そう答えたけど、少しだけ胸がざわざわしていた。

教室へ向かう。

廊下を歩いていると、女子の声が聞こえてきた。

「ねえ見て」
「あの子じゃない?」

その声に気づいて振り向くと、女子たちが私を見ていた。

(なんで……?)

教室に入ると、さらにざわつきが大きくなった。

「小林さんだ」
「神城くんの……」

そこまで聞こえて、私は固まった。

(え……?)

席に座ると、前の席の女の子が小声で聞いてきた。

「ねえ小林さん」

「なに?」

「神城くんと付き合ってるの?」

「ええ!?」

思わず大きな声が出た。

「ち、違うよ!」

でも周りの女子たちは信じていない様子だった。

「昨日一緒に屋上いたんでしょ?」
「購買でも抱き止められてたよね?」

(なんでそんなことまで……)

どうやら噂が広がっているらしい。

そのとき。

ガラッ

教室のドアが開いた。

一瞬で静かになる。

入ってきたのは――

神城蓮。

女子たちの視線が一斉に集まる。

神城くんはいつも通り無表情で歩いてくる。

そして私の隣の席に座った。

その瞬間。

またざわめきが起こる。

私は小さく言った。

「大変なことになってる」

神城くんはちらっと私を見た。

「何が」

「噂……」

でも彼は全然気にしていない様子だった。

「どうでもいい」

「え?」

「他人の話だ」

そう言ってノートを開く。

なんだかすごく落ち着いている。

(さすが御曹司……)

そう思ってしまった。

昼休み。

私はお弁当を持って席に座っていた。

すると。

女子三人が私の前に立った。

クラスの中でも人気グループの子たち。

「ねえ小林さん」

嫌な予感がした。

「神城くんとどういう関係?」

「本当に付き合ってないの?」

私は慌てて首を振った。

「違うよ!」

「でも昨日――」

そのとき。

椅子が動く音がした。

神城くんだった。

彼はゆっくり立ち上がる。

そして女子たちを見た。

その目は少し冷たかった。

「何してる」

女子たちは少し戸惑う。

「え、いや……」

神城くんは静かに言った。

「小林に用があるなら、俺を通せ」

教室が一瞬静まり返る。

女子たちの顔が赤くなった。

「ご、ごめん……」

そう言って、彼女たちはすぐ去っていった。

私は呆然としていた。

「……なんで」

「何が」

「かばうの?」

だって私たち、そんな関係じゃない。

神城くんは少し考えてから言った。

「面倒だから」

「え?」

「騒がれるのが」

そう言って席に座る。

でもそのとき。

小さくつぶやいた。

「それに」

私は聞き返す。

「それに?」

神城くんは少しだけ私を見た。

「お前が困るのは嫌だ」

その言葉に。

胸がドキッと鳴った。

そのとき。

教室のドアのところに陽斗が立っていた。

その顔は――

少しだけ複雑そうだった。