御曹司は、なぜか私にだけ優しい

屋上の空気が、少しだけ重くなっていた。

「小林は俺といる」

神城くんの言葉のあと。

陽斗は黙って神城くんを見ていた。

その視線は、いつもの陽斗とは少し違う。

「……そう」

陽斗はゆっくり言った。

「でも結菜は俺の幼なじみだから」

神城くんは特に驚いた様子もない。

「知ってる」

短く答える。

私は二人の間で戸惑っていた。

「えっと……」

どうしたらいいのか分からない。

すると陽斗が私を見た。

「結菜、パンそれだけ?」

「え?」

「それじゃ足りないだろ」

そう言って、自分の袋からおにぎりを一つ出した。

「ほら」

「ありがとう」

受け取ると、神城くんが少し眉をひそめた。

「食いすぎだ」

「え?」

「そんな食えないだろ」

「食べられるよ!」

思わず言い返してしまう。

すると陽斗が笑った。

「神城、結菜は意外と食べるぞ」

「……そうなのか」

神城くんは少し驚いた顔をした。

その様子がちょっと面白くて、私は笑ってしまった。

さっきまでの空気が少しだけ柔らかくなる。

でも。

その平和は長く続かなかった。

午後の授業のあと。

教室に戻ると、なぜか女子たちがざわざわしていた。

「来てる……」
「本当に?」

何の話だろう。

そう思ったとき。

教室のドアが開いた。

入ってきたのは――

西園寺莉子だった。

クラスが一瞬静かになる。

彼女はゆっくり教室の中を見渡した。

そして。

私のところへまっすぐ歩いてきた。

「小林さん」

突然名前を呼ばれる。

「は、はい」

「少しいいかしら」

教室がざわめく。

私は立ち上がった。

そして彼女と一緒に廊下へ出た。

廊下には誰もいない。

西園寺さんは私を見た。

その目は、やっぱり少し冷たい。

「蓮と仲がいいのね」

「え?」

「今日一緒にお昼食べてたでしょう」

私は慌てた。

「ち、違います!ただ案内しただけで……」

すると彼女は小さく笑った。

「安心して」

「え?」

「怒ってるわけじゃないの」

でも。

次の言葉は、全然優しくなかった。

「ただ、確認したいだけ」

彼女は一歩近づいた。

「蓮のこと、好きなの?」

心臓がドキンと鳴る。

「ち、違います!」

私はすぐ答えた。

だって。

そんなの考えたこともない。

相手は御曹司。

私とは世界が違う人。

でも西園寺さんはじっと私を見ていた。

「そう」

そして静かに言った。

「ならいいわ」

ホッとした、そのとき。

彼女は続けた。

「でも」

「もし好きになったら――」

その声はとても静かだった。

でも。

なぜかすごく怖かった。

「そのときは、私と戦うことになるわね」

私は言葉を失った。

それって――

宣戦布告?

西園寺さんは微笑んだ。

「蓮は特別な人なの」

「……」

「普通の女の子が近づく世界じゃない」

そう言うと、彼女は教室へ戻っていった。

私はしばらく動けなかった。

胸が少し苦しい。

そのとき。

「何言われた」

声がした。

振り向くと。

神城くんが立っていた。

「え、なんで……」

「見えた」

どうやら教室から出てきたらしい。

「別に何も……」

私はごまかした。

でも神城くんはじっと私を見ていた。

そして言った。

「気にするな」

「え?」

「莉子の言うこと」

そして。

少しだけ声を低くした。

「お前は」

私はドキッとする。

神城くんは言った。

「俺の隣にいればいい」

その言葉に。

胸が大きく鳴った。

なぜか分からない。

でも。

その瞬間――

学校中で噂になることを。

私はまだ知らなかった。