御曹司は、なぜか私にだけ優しい

購買の前が、しんと静まり返っていた。

理由はもちろん――

神城くんの言葉。

「小林と食う」

周りの視線が一斉に私に集まる。

(ええええ……)

恥ずかしくて顔が熱くなる。

一方、西園寺莉子さんは私をじっと見ていた。

綺麗な人。

同じ制服なのに、なんだか全然違う。

まるでお嬢様みたい。

いや、実際お嬢様なんだけど。

「……そう」

彼女は静かに笑った。

「蓮がそう言うなら仕方ないわね」

でもその目は冷たかった。

「また今度、一緒に食べましょう」

そう言って、彼女は去っていった。

周りの女子たちがざわざわする。

「やばくない?」
「西園寺さん怒ってるよね」

私は神城くんを見た。

「大丈夫なの?」

「何が」

「さっきの……」

西園寺さん、明らかに機嫌悪そうだった。

でも神城くんは平然としている。

「別に」

そう言って購買の列に並んだ。

なんとかパンを買って、私たちは屋上に来た。

春の風が気持ちいい。

「ここ、静かでいいよ」

私が言うと、神城くんは周りを見た。

「悪くない」

屋上のベンチに座る。

なんだか不思議な気分だった。

御曹司と二人でお昼ごはんなんて。

絶対ありえないと思ってたのに。

「……なあ」

神城くんが言った。

「ん?」

「本当に覚えてないのか」

またその話。

「うん……」

私は首をかしげた。

「ごめん」

すると彼は少し黙った。

風が吹く。

桜の花びらが屋上まで舞ってきた。

そして神城くんは小さく言った。

「泣いてたんだ」

「え?」

「お前じゃない。俺が」

私は驚いた。

神城くんが泣くなんて想像できない。

「小さい頃」

彼は続ける。

「公園で」

その言葉を聞いた瞬間。

胸の奥が少しだけざわついた。

公園。

どこかで聞いたような気がする。

でも思い出せない。

「お前が言ったんだ」

神城くんは私を見た。

「“大丈夫。私がそばにいるよ”って」

ドクン。

胸が鳴る。

そんなこと……言ったっけ?

でも。

どこか懐かしい感じがした。

「本当に覚えてない?」

彼が聞く。

私は困ってしまった。

「……ごめん」

神城くんは少しだけ笑った。

「まあいい」

そして言った。

「思い出させる」

「え?」

「そのうち絶対」

そのとき。

屋上のドアが開いた。

振り向くと――

陽斗だった。

「結菜!」

そして神城くんを見る。

「……神城」

空気が一瞬変わる。

陽斗は私を見た。

「探したぞ」

「え?」

「一緒に昼食べようと思ったのに」

少し不機嫌そう。

そのとき。

神城くんが言った。

「悪いな」

陽斗が眉をひそめる。

「何が」

神城くんは平然と答えた。

「小林は俺といる」

その言葉に。

陽斗の目が変わった。

そして私は思った。

これから――

きっと大変なことになる。

御曹司。

幼なじみ。

お嬢様。

三人の想いが、少しずつ動き始めていた。