御曹司は、なぜか私にだけ優しい

昼休みのチャイムが鳴った。

「結菜、お昼どうする?」

幼なじみの陽斗が聞いてくる。

私は少し考えてから言った。

「今日は購買行こうかな」

「珍しいじゃん」

「朝あんまり食べてなくて」

席を立った、そのとき。

「小林」

低い声。

振り向くと、神城くんだった。

「え?」

「行くぞ」

「どこに?」

「購買」

どうやら本当に一緒に行くらしい。

「う、うん……」

私はうなずいた。

すると教室の空気が一瞬止まった。

「え、また小林さん?」
「いいなぁ……」

女子たちの声が聞こえる。

私は少し気まずかった。

でも神城くんは気にしていない様子だった。

廊下を歩く。

隣にいるだけで目立つ。

背が高くて、雰囲気も大人っぽい。

まるで別世界の人みたい。

「ここだよ」

購買の前はすでに人でいっぱいだった。

「すごい人だね」

私が言うと、神城くんは少し驚いた顔をした。

「戦場みたいだな」

思わず笑ってしまう。

そのとき。

後ろから誰かがぶつかった。

「きゃっ」

体がぐらっと傾く。

転ぶ――

そう思った瞬間。

ぐいっ

腕を引かれた。

気づいたときには。

私は神城くんの腕の中にいた。

「大丈夫か」

すぐ近くで声がする。

顔が近すぎる。

「だ、大丈夫!」

私は慌てて離れた。

でも周りがざわついていた。

「今抱き止めたよね?」
「やばくない?」

恥ずかしくて顔が熱くなる。

神城くんは気にしていない様子だった。

そのとき。

「蓮」

女の子の声がした。

振り向く。

そこには――

すごく綺麗な女の子が立っていた。

長い黒髪。

上品な雰囲気。

まるでお嬢様。

「久しぶり」

神城くんが言う。

「……莉子」

周りがざわめく。

「西園寺さんじゃない?」
「あのお嬢様の?」

西園寺莉子。

有名なお金持ちの家の娘らしい。

彼女は私を見た。

そして少し首をかしげた。

「その子、誰?」

私は慌てて答えた。

「クラスメイトです」

すると彼女は微笑んだ。

でもその目は笑っていなかった。

「そう」

そして神城くんに言う。

「蓮、お昼一緒に食べない?」

周りの女子がざわつく。

美男美女。

すごくお似合い。

私は少しだけ胸がチクッとした。

でも。

神城くんは一瞬だけ私を見た。

そして言った。

「無理だ」

「え?」

「先約」

そう言って――

私の腕を軽くつかんだ。

「小林と食う」

その瞬間。

購買が静まり返った。

私は完全に固まった。

西園寺さんの視線が突き刺さる。

そして彼女は小さく笑った。

「へぇ」

その笑顔は綺麗だったけど――

どこか怖かった。

こうして。

私の普通の高校生活は。

少しずつ変わり始めていく。

御曹司。

お嬢様。

そして私。

この三人の関係が。

大きな恋の物語になるなんて――

まだ誰も知らなかった。